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IT業界の冒険者たち

第8回 企業変身マネージャ

脇英世
2009/5/21

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 1991年1月、アメリオの再建屋の腕を見込んだナショナルセミコンダクターの最高経営責任者チャーリー・スポークは、アメリオを自分の後継者として、ナショナルセミコンダクターの再建に当たらせる。

 アメリオがナショナルセミコンダクターの財務諸表を分析すると、ナショナルセミコンダクターの会計システムはどの製品が利益を生み、どの製品が損失を出すかに焦点が絞られていなかった。また、経営幹部はビジネス利益方程式や経営戦略を十分理解せず、市場の意味や価値の提供についても混乱していた。経営哲学さえも欠如していた。「どんなに衰弱した企業でも救うことのできない企業はなく、またどんなに健康な企業でも改善の余地のない企業はない……」というのが彼の信念であるが、アメリオは5年をかけてナショナルセミコンダクターの再建にも成功した。

 そして、アメリオは不良採算会社となったアップルの再建に着手した。人はアメリオを「会社再建屋」と呼ぶが、アメリオとしては自分を企業の真の再生を行う「トランスフォーメーション・マネージャ(企業変身マネージャ)」と呼んでもらいたいようである。

 アメリオのいうところによれば、成功するためにはまず成功を定義しなければならない。成功とはビジョンを実現することともいえる。従って、成功を目指す企業はビジョンの策定が必要である。ビジョンの策定にはできるだけ多くの従業員を積極的に参加させなくてはならない。

 ビジョンの策定に対して従業員が一致することの積み重ねの努力はフォーカスをもたらす。変身のメッセージはすべての従業員に伝えられなければならない。アメリオは、ビジョンを単に論理的なものでなく右脳に訴えるものであることが必要であるとしている。

 ビジョンといえばIBMのルー・ガースナー会長の「いま、IBMはビジョンなど必要としていない」が有名である。これはアメリオの考え方と大きく異なるようだが、そうでもない。

 アメリオの成功の定義には、ビジョンの実現のほかに、成功モデルの達成がある。成功モデルとは、いくつかの数値で明確に定義された財務目標である。例えば総利益率、株主資本利益率(ROE、従業員1人当たり収益)、R&D投資効率(R&D・ROI)、純資産利益率(RONA)など、これらの数値がいくらであるかということで成功か失敗を判定する。

 IBMのガースナー会長の主張も「要するに数字ではっきり示せるようにもうからなければ駄目だ」ということで、アメリオの主張とそれほど異なってはいない。アメリオの企業再生の成功は、単純明快な原理原則とそれを実践するためのツールに立脚している。

 アメリオは、組織は変わらない、変わるのは人で、人が変わると組織に変化が起きる。そこで組織に変化を起こすには人を変える方法を発見しなければならない。そして、エンパワーメントつまり分権化によって組織の変革を底辺から行わなくてはならないと考えている。

 アメリオの哲学の集大成である著書『トランスフォーメーション・マネジメント』という本は、かなり疲れる本だ。ピーター・ドラッカー、トム・ピーターズ、ウォーターマン・ジュニア、ジャック・ウェルチ、マイケル・ハマー、ジェイムス・チャンピーをはじめとしたあらゆる経営理論が出てくる。

 アメリオは新しい用語を作るのが好きだ。例えば、CBI(重要ビジネス課題)がある。CBIとは経営施策をコーディネートし、全員を関与させるためのロードマップであり、明確なゴールを設定し、経営陣が適切な戦略と戦術を策定するのを支援する、としている。

 また、オーガニゼーショナルエクセレンスがある。これは、確立された枠組みの中で、社員が参加し、チームをベースとしたコンセンサスを活用することにより、全社員の努力をある特定の物事に結集することを目的とした経営プロセスをいう。何のことか分かりにくい。

 企業の変身を実現するために必要な努力を結集して照準を合わせる方法とか、業績の向上と達成のための品質管理といわれると「ああそうか」と思う。

 しかし、さらにオーガニゼーショナルエクセレンスには、戦略、システム、組織など左脳で扱う具体的なハード「S」だけでなく、スキル、人材、スタイル、共有価値など右脳で扱うソフト「S」も大事だといわれるとキツネにつままれる。

 さらにオペレーショナルエクセレンスがあって、これは商品の製造やサービスの提供に関連したすべての施策とアクションを指すなどといわれると降参する。

 プロフェッサー・アメリオ、ドクター・アメリオと呼ばれる(呼ばせる)アメリオは説教魔的なところがある。プロフェッサー・アメリオは教えることを楽しんでいるのだ。自分でも認めるようにアメリオ教である。

 アメリオについて調べていると、いろいろなことを考えさせられる。アメリオという人自身はコンピュータにはあまり関心のない人だ。アップルのWebページに自分のマッキントッシュには何が載っているかについて書いているけれど、経営を語るときほどの熱がない。

 ギルバート・アメリオは1996年2月、アップルの会長兼CEO兼社長に就任し、1997年7月解任された。彼は500日の間アップルを再建しようと努めたのだ。

 ギルバート・アメリオは1996年3月、2700人を解雇し、続いて5月、3000人を解雇、1万6000人のアップル従業員を1万人に縮小した。ギルバート・アメリオの打った再建策で有効だったのはこれだけだっただろう。戦略方針の確立には失敗した。組織再編については、製品中心の事業部に再編したが、ドラスティックな再編はできなかった。経営陣の刷新は中途半端だった。ギルバート・アメリオ自身がぜいたく好きで、経費の削減は成功しなかった。要するに強力な指導性を発揮できなかった。それに仕立ての良い背広を着込んだギルバート・アメリオの感性は、Tシャツとジーンズに象徴される西海岸文化に染まったアップルの感性とは合わなかった。

 1996年5月、次期OSコープランドの開発失敗が表面化し始める。8月、コープランドの失敗を埋めるためにBeのジャン=ルイ・ガセーとギルバート・アメリオの間でBeOSのライセンス交渉が行われる。交渉はかなりのところまで煮詰まったが、ジャン=ルイ・ガセーの要求は少し高すぎた。

 1996年12月、ギルバート・アメリオはコープランドに変えるにはNeXTしかないと判断し、スティーブ・ジョブズのNeXTソフトウェアを4億2000万ドルの巨費で買収する。この間の経緯は、彼の本(『アップル薄氷の500日』ギル・アメリオ/ウィリアム・L・サイモン著、中山宥訳、ソフトバンククリエイティブ刊)を読んでも不可解極まりない。

 1997年4月、ギルバート・アメリオはアップルの経営悪化の責任を問われ、会長、CEO、社長のすべての職を解任された。

本連載は、2002年 ソフトバンク パブリッシング(現ソフトバンク クリエイティブ)刊行の書籍『IT業界の冒険者たち』を、著者である脇英世氏の許可を得て転載しており、内容は当時のものです。

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