第38回 陰と陽の対照的な2人
脇英世
2009/7/13
さて、そうこうするうちにISN(Internet Shopping Network)の共同創立者であるランディ・アダムスがジェリー・ヤンとデビッド・ファイロに接触し、ベンチャーキャピタルであるセコイヤを紹介した。ようやく企業化への道が開けたのである。
ジェリー・ヤンとデビッド・ファイロは、ヤフーのサービスを基本的に無料とし、広告料収入を主たる財源に決めた。彼らはよく深夜までヤフーについて話し合ったが、お金については話し合わなかった。良い製品はおのずと良い結果を生むと考えたからであるといわれている。
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そして、1995年4月にヤフーコーポレーションが成立した。ディビッド・ファイロが技術面を担当、ジェリー・ヤンはビジネス面を担当し、会社の顔になった。2人の関係は対等で、チーフヤフーという奇妙な役職である。2人は博士課程の学生から、企業家への道を歩み始めたのである。
1995年の初め、ネットスケープのマーク・アンドリーセンがネットスケープのコンピュータにヤフーのファイルを移すように勧めた。これにより、ヤフーのファイルは、スタンフォード大学からネットスケープへと移動した。しばらくネットスケープでの間借り生活が続く。
従って、ネットスケープとヤフーは当初極めて近い関係にあったが、最近は中立的になったようで、マイクロソフトのホームページでもヤフーを使うことができる。
ヤフーのサーバは4台のインディゴを使っていたこともあるらしいが、現在はLinuxやFreeBSDも使っているとのことからIBM PC/AT互換機もWebサーバに使っているらしい。
ヤフーのシステムは、初期にはかなり荒っぽいもので、セキュリティ対策は皆無、バックアップサーバはなし、ミラーシステムもなかった。ジェリー・ヤンの戦略はアイデア優先で、設備投資にお金をかけないことが特徴だ。
ヤフーはインターネットだけでなく、出版との提携戦略を意欲的に進め、ソフトバンクとともに『ヤフーインターネットガイド』、ジフ・デイビスとともに『ヤフーインターネットライフ』という雑誌を出版している。また、地域の特性を考慮した地域展開戦略を推し進め、1996年1月には日本でもヤフー株式会社を設立した。
現在展開が完了している所を見ると、Yahoo! NewYork/Yahoo! LA/Yahoo! SF Bay/Yahoo! Canada/Yahoo! UK&IRELAND/Yahoo! Deutschland、といった具合だ。収益が見込める地域だけを狙ったかなり手堅い展開である。また、子ども向けのサービスとしてYahooligans!がある。
ヤフーは株式公開当時にかなりの注目を集めたが、最近は少し落ち着いた目で見られるようになってきている(*1)。ヤフーの問題は、かつて新鮮であった階層的ディレクトリサービスが他社の模倣するところとなって、差別化が難しくなってきていることと、競争の激化により次第に利益が出にくい構造になってきていることである。最近はかなりの赤字も出ている。後発の強敵といかに戦うかが問題である。
(*1)ヤフーの株式公開は、1996年4月である。 |
ヤフーはアマチュアの小さな会社であり、組織原理にもそうした面が強く、遊びも多い。ウォールストリートジャーナルのデータベースに基本的なデータはあっても、ヤフーの会社背景が入っていなかったのは、普通の経済人には理解しがたいところがあるからだろう。
消長激しいインターネットの世界の中で、ヤフーがいつまで生き残れるものか分からないが、ジェリー・ヤンがパソコンの歴史に残る人であることは間違いない。
あるインタビューで「1日中コンピュータで働いて、家に帰るとまたコンピュータがあって、また朝までコンピュータで働くんですね」と聞かれると、「わたしはコンピュータを所有したことはないんです。問題は、わたしが絶対に家に帰らないことなんです」と答えている。
1996年の5月に来日したジェリー・ヤンの講演録はとても面白いのでご一読をお勧めしたい。
本連載は、2002年 ソフトバンク パブリッシング(現ソフトバンク クリエイティブ)刊行の書籍『IT業界の冒険者たち』を、著者である脇英世氏の許可を得て転載しており、内容は当時のものです。 |
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