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IT業界の冒険者たち

第41回 リアルオーディオからリアルビデオへ

脇英世
2009/7/16

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 1996年1月31日、プログレッシブ・ネットワークスはネットスケープとRTP(リアルタイム・トランスポート・プロトコル)の開発を発表するが、1996年3月12日にはマイクロソフトとストリーミングメディアでの提携を発表する。ネットスケープとの共同開発の成果は、1996年10月RTSP(リアルタイム・ストリーミング・プロトコル)として結実する。RTSP 1.0は1996年10月9日IETFに提出された。しかし、ネットスケープと付き合い、マイクスソフトとも良好な関係を維持できたのはここまでだった。1997年、マイクロソフトはストリーム・データ分野への進出を決定した。手っ取り早い方策を好むマイクロソフトは、VXtremeというリアルネットワークスのライバル会社の買収を計画した。      

 これを聞いて慌てたリアルネットワークスのロブ・グレイザーは、マイクロソフトの幹部ポール・マリッツに電話した。うわさが真実であることを確かめると、ロブ・グレイザーはポール・マリッツとグレッグ・マフェイに会った。

 もしマイクロソフトがVXtremeを買収して、リアルネットワークスを蚊帳の外へ追い出すようなことになると、リアルネットワークスは干されてしまい、とんでもないことになる。リアルネットワークスは、マイクロソフトがVXtremeを買収するような事態を避けたかった。リアルネットワークスがマイクロソフトと組みたかったのである。

 そこで、リアルネットワークスはマイクロソフトに3000万ドルで、リアルオーディオ4.0、リアルビデオ4.0のソースコードをライセンスした。ソースコードを引き渡してしまっては全面降伏であるが、リアルネットワークスはマイクロソフトとの戦争を避けたかったという。こっけいなほどの愚策である。

 もっとも条件は付けた。マイクロソフトはリアルネットワークスのソースコードを使って自社の製品を開発してもよいが、変更を加えた部分はすべてリアルネットワークスに報告しなければならないことになっていた。またさらにマイクロソフトはリアルネットワークスの製品との互換性を崩してはならないことになっていた。

 マイクロソフトは別に3000万ドルを出して、リアルネットワークスの株式の10%を買った。保証占領というやつだろう。

 しかし、これほどまでしても、マイクロソフトは8月にVXtremeを買収してしまった。リアルネットワークスの努力には意味がなかったわけである。

 リアルネットワークスとしては、従来のシステムに互換性のないリアルシステム5.0を出して、マイクロソフトへ引き渡したソースコードを無力化しようとした。

 1998年7月23日、リアルネットワークスのロブ・グレイザーは、オリン・ハッチが委員長を務める上院司法委員会で証言した。ここでロブ・グレイザーは、「マイクロソフトのウィンドウズ・メディア・プレーヤーはリアルネットワークスのリアル・プレーヤーG2がきちんと動かなくなるようにしている」と激しい調子で証言した。

 翌日、リアルネットワークスの株価は急落した。「リアルネットワークスもマイクロソフトに盾突くようではおしまいだ」と投資家にとられたのである。いかにマイクロソフトが恐れられていたかが分かる。

 悪いことに、ロブ・グレイザーのマイクロソフト批判は間違っていた。リアルネットワークスの側では検討が不足していた。ライオンの足を踏んでしまったのである。この戦略的失策の打撃は大きく、リアルネットワークスが立ち直るには約1年を要した。

 次にリアルネットワークスに脅威を与えたのは、1997年から1998年にかけて音楽のダウンロードに多用されるようになったMP3であった。1999年4月リアルネットワークスはストリームワークスを持った業界第2位のXingテクノロジーズを買収した。これはMP3技術対策であったといわれている。うまくいったかどうかはまだ判定できない。

 1999年5月、リアルネットワークスは@Homeと提携したことを発表した。またリアル・ジュークボックスの設立を発表した。

 リアルネットワークスの最大の敵はマイクロソフトである。マイクロソフトの力を過小評価するのは問題だ。マイクロソフトの兵士たちにはもはやかつてのような戦闘力はなかったし、革新的な技術も失われたいたが、一方で無限とも思えるほどの資金があった。

 それにリアルネットワークスの最大の失敗は、マイクロソフトにソースコードを引き渡してしまったことだ。これでは勝てない。ネットスケープのときもスパイグラス経由でマイクロソフトが入手したモザイクのソースコードが決め手になった。

 もう1つの問題は、上場されたリアルネットワークスは市場価値こそ大きなものの、赤字からなかなか脱却できないことだ。

本連載は、2002年 ソフトバンク パブリッシング(現ソフトバンク クリエイティブ)刊行の書籍『IT業界の冒険者たち』を、著者である脇英世氏の許可を得て転載しており、内容は当時のものです。

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