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IT業界の冒険者たち

第41回 リアルオーディオからリアルビデオへ

脇英世
2009/7/16

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本連載を初めて読む人へ:先行き不透明な時代をITエンジニアとして生き抜くためには、何が必要なのでしょうか。それを学ぶ1つの手段として、わたしたちはIT業界で活躍してきた人々の偉業を知ることが有効だと考えます。本連載では、IT業界を切り開いた117人の先駆者たちの姿を紹介します。普段は触れる機会の少ないIT業界の歴史を知り、より誇りを持って仕事に取り組む一助としていただければ幸いです。(編集部)

本連載は、2002年 ソフトバンク パブリッシング(現ソフトバンク クリエイティブ)刊行の書籍『IT業界の冒険者たち』を、著者である脇英世氏の許可を得て転載しており、内容は当時のものです。

ロブ・グレイザー(Robert Glaser)――
リアルネットワークス会長兼CEO

 ロブ・グレイザーの名前やプログレッシブ・ネットワークスという会社名に聞き覚えがなくとも、リアルオーディオという名前やタイムキャストは聞いたことがあるだろう。モデムとサウンドカード、スピーカがあれば、インターネットで音楽やニュースを楽しむことができる。音の品質はあまり褒められたものではないが、昔のラジオの音質なんてもっとずっとひどかった。ジージー・ガーガーという雑音は入らないのだからまあ我慢できる。

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 リアルビデオといわれると「また悪乗りして、そんな製品が本当にあるのかい?」と聞き返すのが普通の人の反応だろう。ジョークではない。そういう製品はある。リアルビデオは1997年2月10日に発表されている。

 1995年4月10日に発表されたリアルオーディオというソフトは、簡単にいえばインターネットでラジオを聞けるソフトだ。普通のラジオと違うところは、放送ではないからいつでも聞きたいときに聞けることだ。ビデオ・オン・デマンドではないがオーディオ・オン・デマンドになっている。

 このリアルオーディオを開発したプログレッシブ・ネットワークス社を創立したのが、現在同社の会長兼CEOを務めるロブ・グレイザーである。

 ロブ・グレイザーは写真で見ると額の広い人で、まゆ毛が頭の真ん中あたりにあるような感じだ。外見というのはあんまり当てにはならないが、いかにも脳みそがたくさん詰まっていて頭の良い人のように見える。ひげも濃い。多少シャイなところがあるらしく、発表会の席やショーの席でも大向こう受けを狙ったデモはしない。得意なのはホテルのスイートルームでの各個撃破の説得戦術である。

 インターネットさえあれば、自宅に居ながらにしてロブ・グレイザーの声を聞くことができる。インターネット上には、たくさんロブ・グレイザーの声の入ったリアルオーディオのファイルがある。いとも簡単にロブ・グレイザーの声を聞ける。しかし原稿を書くためにロブ・グレイザーの話をじっと聞いていると、アンチクライマックスというのかウンザリする。

 ロブ・グレイザーはエール大学経済学部で学士号を取得、同大学院経済学部で修士号を取得している。またエール大学のコンピュータ科学の学士号も取得している。欧米では珍しいことではないが文科系と理科系の両方の学士号を持っている。生まれた年と場所は、資料不足でインターネットで調べた限りでは分からない。

 大学を出てからの足取りはあまりはっきりしない。いろいろな文献を読むと、アイビー・リサーチという会社を設立し、社長を務めたことは分かっているが、それ以上は分からない。プログレッシブ・ネットワークスはまだ株式を公開していないので、ロブ・グレイザーの経歴をそれほど公開する必要がないのかもしれない。もっとも株式を公開していても、役員の経歴をほとんど公開していない会社も多い。

 ロブ・グレイザーは1983年から1993年までマイクロソフトに勤めた。最初はアプリケーション担当で、次にはネットワークを担当し、最後の役職はマルチメディアコンテンツとコンシューマシステム担当副社長だった。こうした経歴を経て1993年秋、マイクロソフトを退職した。ビル・ゲイツもスティーブ・バルマーも健在だし、もうこれ以上偉くなれないと判断して辞めたのかもしれない。しかし、そうではあっても10年間マイクロソフトに勤め、最後は副社長にまでいったことが彼の財産である。プログレッシブ・ネットワークスの役員の中には、元マイクロソフト社員という経歴を持つ人も多い。

 マイクロソフトを退職したロブ・グレイザーは何をやるべきかをじっくり考えた。独立することは決めていたが、何をやるかは決めていなかったようだ。当時ビデオ・オン・デマンド、セットトップボックスに代表されるインタラクティブTVが注目されていたので、ロブ・グレイザーも一応検討してみた。検討の結果、インタラクティブTVが各家庭に入るためには多大な初期投資が必要であり、またテレビの世界には標準的なOSがないことから、インタラクティブTVには当面新しい産業としての見込みがないと判断した。当時注目されていたインタラクティブTVに手を出さなかったことが成功の秘けつだった人は多い。というよりインタラクティブTVに手を出した人はほとんど全滅してしまったのである。

 ロブ・グレイザーは模索を続ける。ある日、マーク・アンドリーセンのモザイクに出合ったロブ・グレイザーは、これこそが自分が求めていた道につながると直感する。インターネットのWebブラウザであるモザイクは手軽で安価な電話線の上で動き、インタラクティブTVのようにCATVケーブルや情報スーパーハイウェイに頼る必要がなかった。またモザイクは標準的なパソコンとOSの上で動いた。マイクロソフト出身のロブ・グレイザーは、標準的なOSの重要性をよく知っていた。

 ロブ・グレイザーの信念は、インターネットはパソコン中心の配信システムではなく、インターネットこそすべての中心であるということだった。

 インターネットに天啓を受けたロブ・グレイザーであるが、それがどうしてリアルオーディオへと進んだかは本人自身の発言からも納得できる説明はいまのところ得られない。文書で明確にそれを記したものもない。

 ロブ・グレイザーは高校生のころ、ジムと喫茶店など何カ所かを結んだ有線放送システムを作ったことがあった。また彼は、マイクロソフトでマルチメディアコンテンツとコンシューマシステム担当副社長であり、ネットワークの経験もあった。そして当時のインタラクティブTVの流行があった。こうしたものが総合的にロブ・グレイザーをリアルオーディオの開発へと向かわせたのだろう。

 ロブ・グレイザーは1994年2月にプログレッシブ・ネットワークスを設立する(*1)。出資者の中にロータスの設立者として有名なミッチ・ケイパーの名前が見える。

*1)プログレッシブ・ネットワークスは、1997年9月、リアルネットワークスに社名を変更した。

 プログレッシブ・ネットワークスはマイクロソフトと同じくシアトルにある。インターネットで音声を流すとなると、文字情報だけを流す場合にはない難しさがある。それは、音声は途切れてはならない情報(これをアイソクロナス情報という)であるからだ。

 音声の配信に保証のあるTCPを使うとすれば、ネットワークでエラーが発生した場合、エラーが発生した音声データを再送することになるが、わずか数%の再送でも音声の品質を大きく劣化させる。この問題をどう扱うかが問題であった。配信の保証はあるが伝送速度に問題のあるTCPを使うか、それとも配信の保証はないが伝送速度が速いUDPプロトコルを使うか。プログレッシブ・ネットワークスは独自のストリーミング・マルチメディア配信システムを作り上げた。

 またプログレッシブ・ネットワークスはオープン性を高めるため、リアルオーディオのプレイバックAPI、コーディングAPI、デコーディングAPIを定めている。

 リアルオーディオの開発は順調に進み、1995年4月、リアルオーディオ1.0、1995年10月リアルオーディオ2.0、1996年9月リアルオーディオ3.0の発表と快調に進んできた。ロブ・グレイザーのいうところによれば、すでに3000万本のリアルオーディオ・プレーヤーがダウンロードされている。少なくとも1000万本のリアルオーディオのユーザーがいる。またオーディオのコンテンツを持つWebサイトは4万から5万ある。1日24時間ライブのオーディオのコンテンツを放送しているステーションは300から400ある。

 ネットスケープ、マイクロソフトに次いで、プログレッシブ・ネットワークスはインターネット関連会社の大手になりつつある。

 ロブ・グレイザーは古巣のマイクロソフトとは良い関係にあるが、マイクロソフトの競合相手であるネットスケープとの関係も悪くない。

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