第43回 世界を股にかけるメディア王
脇英世
2009/7/21
1987年、マードックは米国最大の出版社「ハーバー・アンド・ロー」を3億ドルで買収して世間をあっといわせた。
1991年4月、マードックは香港にアジア向けの直接衛星放送STAR TVを開設する。
1993年12月、フォックスTVはNFLの試合を4年間独占放映する契約に16億ドルで合意した。また1993年10月にはデルファイというオンラインサービス(パソコン通信)を買収した。デルファイは初めからインターネット指向であった点で、より上位のオンラインサービスより進んでいた。
こうして出来上がったマードックのニューズ・コーポレーション帝国は、どの程度のものになったのか概観してみよう。
まず新聞に関しては以下のようになる。ここに挙げたのは主要なものだけで地方紙などは含めていない。
ニューヨーク・ポスト、ニューズ・オブ・ザ・ワールド、ザ・サン、ザ・タイムズ
続いて出版に関して主要なものには、以下のものがある。
ブックス・アンド・マガジン・パブリッシング、ハーパーコリンズ・パブリッシャーズ、ミラベラ、ザ・タイムズ・リテラリー・サプルメント、TVガイド
映画や放送に関して主要なものには以下のものがある。
フィルム・アンド・テレビジョン、フォックス・ブロードキャスティング、フォックス・テレビジョン・ステーション、FX(ケーブルTV)、SFブロードキャスティング、20世紀フォックス、20世紀テレビジョン、ブリティッシュ・スカイ・ブロードキャスティング、STAR TV
マルチメディア関係では、次のようなものが代表的だ。
デルファイ・インターネット・サービス、Etak、フォックス・インタラクティブ、ハーパーコリンズ・ニューメディア、Kesmai、ニューズ・エレクトロニック・データ、TVガイド・オンライン、TVガイド・オンスクリーン
これを見ただけでも、ニューズ・コーポレーションがメディア全域にわたる、非常に巨大な帝国であることが分かる。最近007の映画(『Tomorrow Never Dies』)を見たが、メディアを独占している男のモデルはマードックではないかと思った。
マードックの帝国は計画的に作られたわけではない。系統性もない。どちらかといえば、マードックが思いつき的に買収を繰り返していった揚げ句、何となくメディア帝国のようなものができてしまったというのが適切である。現実の世の中の会社は計画的にできるものではなく、むしろタイミングやチャンスをうまく生かして出来上がっていくものかもしれない。マードックのやり方は潤沢な買収資金を準備しておき、チャンスとなればゾッとするほどのお金を積み上げて買ってしまうのである。うまくいった例ばかりとは考えられない。思い切って張り込んで買ってしまったものの、失敗だったことも多い。
例えば衛星TV放送は最近では非常にうまくいき始めて注目されるようになってきたが、長い間マードック帝国の中では悲惨なくらいの不良採算部門だった。第4のTVネットワークをつくろうというフォックスTVも苦戦の連続だった。何とか生き残れたのは3大ネットワークが勝手に自滅してしまったからである。本来なら空中波のTVよりもケーブルTVに手を出した方が賢明だったはずである。運も良いのだと思うが、それも実力のうちである。
またマードック帝国の非常に多岐にわたる部門を統治する機構は極めて簡素らしく、大幅な権限委譲が行われているそうだ。運営は極めて少数の役員だけで行われているらしい。
ルパート・マードックにはアンナとの間に3人の子ども、ジェームズ、ラクラン、エリザベスがいる。自身の帝国を維持するため、ルパート・マードックは彼ら3人の子どもをニューズ・コーポレーションの経営陣に加えている。このうち、ラクラン・マードックがやり手らしいが、ルパート・マードック亡き後、マードック帝国をうまく継承できるかどうかについては疑問視する向きもある。
先妻アンナ・トロイと別れたルパート・マードックは、香港のSTAR TVで働いていたウェンディ・デンと再婚した。マードック自身はニューヨークのマンハッタンに住んでいるという。
本連載は、2002年 ソフトバンク パブリッシング(現ソフトバンク クリエイティブ)刊行の書籍『IT業界の冒険者たち』を、著者である脇英世氏の許可を得て転載しており、内容は当時のものです。 |
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