第45回 情報スーパーハイウェイの旗手
脇英世
2009/7/23
アルバート・ゴア副大統領の思想を理解するには、彼の書いた本や論文、講演録を読んでみるとよいだろう。中でも地球環境保護問題を扱った『地球の掟』(前出)という本が彼の思想を濃縮した形で示してくれる。「少し我慢して聞いてほしい」というのが彼の常とう句らしい。あまりにまじめで難しい話を単調に話すことから、聴衆が飽きてザワザワしたときのせりふである。文章も同じで硬く、読み抜くのに時間がかかる。
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この本を読むまで、ハト派的色彩の地球環境保護論者のゴア副大統領がなぜタカ派的色彩の軍事専門家として有名なのか理解できなかった。しかし彼の思想の中では環境保護論と軍事とは全然矛盾がない。むしろ方法論となっている。「(環境破壊の数多くの現実の)整理の仕方のモデルは軍事システムの分析、研究から得ることができる」というのだ。
ゴア副大統領の地球環境保護論は、非常に克明で人道主義的で立派なものであるが弱さもある。アマゾンの熱帯雨林は毎秒6000平方メートルずつ消滅している。なぜ熱帯雨林が消滅するかというと、ゴア副大統領の本にも書いてあるように牛の牧草地のためでありハンバーグのためである。熱帯雨林を本当に消滅させているのは米国のハンバーガー会社である。アマゾンに限らず、米国の勢力範囲で地球環境をおかしくしている本当の犯人は、砂糖やコーヒーなどの商品作物の単作農業を押し付ける米国の企業である。そこにはゴア副大統領の批判が及ばない。
また「わたしはナチと共産主義的全体主義に対する闘いについて何度も触れてきたが、それらが地球環境を救う闘いによく似ているからだけではない。環境を救う努力がこれらの闘いの延長にあり、真の自由と人間の尊重を獲得するための重要な闘争だと信じているからだ」とある。
情熱は評価するが、物事の見方が単純過ぎるような気がする。過度の偶像化は危険だろう。ゴア副大統領の著作を読んでいると、ふとそういう感じを受ける。
ゴア副大統領の情熱と力量を一番うまく生かせるのは、情報スーパーハイウェイの分野なのではないかと思う。
マイクロソフトが独占禁止法に関して、歴史上、例がないほど司法省に対立できるのは、クリントン政権、特にアルバート・ゴアの精神的支援を意識してのことといわれている。ただ、ことわざにもある。「君子は豹変する」と。
■補足
1999年11月12日、民主党の次期大統領候補であったアルバート・ゴアがマイクロソフト訪問をキャンセルした。実はアルバート・ゴアの政治資金集めの委員会はマイクロソフトの副社長ジェフ・レイクスが担当していたのである。11月5日に独占禁止法訴訟が再開された非常に微妙な時期に、いくらマイクロソフトから政治資金を提供されているといっても、マイクロソフトを訪問するのは得策ではないと判断したからである。
ところが11月15日、アルバート・ゴアは前言を翻し、マイクロソフトを訪問した。政治資金を提供してもらっている弱みがあって断り切れなかったからだろう。
そしてアルバート・ゴアは、苦渋の選択で政府の独占禁止法訴訟を支持すると声明せざるを得なかった。マイクロソフトの顔をたててマイクロソフト本社を訪問はしたものの、一般選挙民を敵に回すことはできず、マイクロソフトは無罪だとはいえなかったのだろう。
マイクロソフトは民主党の次期大統領候補に政治資金を提供しているだけではない。共和党の次期大統領候補にも政治資金を提供していた。2000年4月12日、共和党の次期大統領候補ブッシュ・テキサス州知事が顧問を務めるコンサルティング会社センチュリー・ストラテジーズ社と契約していたことが明らかになった。この会社はマイクロソフトの独占禁止法訴訟対策として、ブッシュ・テキサス州知事の支持者を組織して訴訟反対の手紙をブッシュに送るキャンペーンを推進していた。
つまり民主党だろうが、共和党だろうが、どちらが大統領になろうと関係なく、マイクロソフトは大統領を政治資金という鎖でつないでいるのである。「大統領はマイクロソフトが作る」のである。
本連載は、2002年 ソフトバンク パブリッシング(現ソフトバンク クリエイティブ)刊行の書籍『IT業界の冒険者たち』を、著者である脇英世氏の許可を得て転載しており、内容は当時のものです。 |
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