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ITエンジニアを続けるうえでのヒント〜あるプロジェクトマネージャの“私点”


第33回 朝令暮改は悪いこと?

トライアンツコンサルティング
野村隆

2008/1/23

虚懐転化という考え方

 この疑問への回答のヒントとして、連載第10回「正しいことをし、行動力を発揮するココロ」でも紹介した安岡正篤氏の著書『佐藤一斎「重職心得箇条」を読む』(致知出版社刊)から以下を引用させてください。「重職心得箇条」の一部です。

 十二
大臣たるもの胸中に定見ありて、見込たる事を貫き通すべき元より也。然れども又虚懐公平にして人言を採り、沛然と一時に転化すべき事もあり。此虚懐転化なきは我意の弊を免れがたし。能々視察あるべし。

(口語訳)大臣たるもの胸中に一つの定まった意見を持ち、一度こうだと決心した事を貫き通すべきであるのは当然である。しかしながら心に先入主、偏見をもたないで公平に人の意見を受け入れ、さっとすばやく一転変化しなければならない事もある。この心を虚しうして意見を聞き一転変化することができない人は、我意が強いので弊害を免れることが出来ない。よくよく反省せられよ。

 私としては、「自分の信念は貫くべきである。しかし一方で、いろいろな人の意見を聞いて無私の心で公平な判断をもって、突然、方向転換することもあり得る。重要なことは私心がないこと、つまり自分中心にものを考えないこと」というように理解しています。

私心をなくす

 朝礼暮改のそしりを受けないために重要なことの1つは、上記の引用にもあるように、是正措置を取る際の意思決定において自分中心に考えないことだと思います。

 自分に都合が悪いから方向性を変えた、保身のために周囲の迷惑も考えず指示内容を変えたなどということでは、方向性を変える意味がまったくありませんし、周囲の理解が得られるわけがありません。

 やはり、プロジェクトメンバーやリーダーなど多くの人から意見を聞き、私心なく、最良の判断を下した結果として方向転換をするということが重要でしょう。

きちんと伝えて理解してもらう努力を怠らない

 もう1つ重要なことは、方向転換するに至った理由を理解してもらえるよう、コミュニケーションするということです。ここが意外にできていません。

 システム開発プロジェクトにおいては、プロジェクトリーダー、チームリーダーが考えに考え抜いた結果として方向転換するということをプロジェクトメンバーに説明し、理解・納得してもらう必要があります。

 例えば「システムの稼働日をずらす」「システム開発のスコープを縮小して稼働日に間に合わせる」というような非常に重要な方向転換をするとき、あまり説明をせず、決まったことだからとメンバーに機械的に伝えるだけのプロジェクトリーダーが多いように思います。

 プロジェクトリーダーにしてみればすでに決定したことなので、連絡事項として伝えてオシマイ、と事務的に対応しても問題ないと思うのかもしれません。しかし、決定に至るまでのプロセスを聞かされないプロジェクトメンバーにしてみれば、理由が不明なままで納得はできないでしょう。結果だけ聞かされたことに疎外感を覚え、場合によってはばかにされたように感じるかもしれません。

小さなことでもコミュニケーションを取ろう

 このような大きな意思決定事項だけでなく、日々の細かい作業においても、きちんとコミュニケーションしていない例をよく見ます。

 エンドユーザーとの、システム仕様の詳細事項を確認する会議のような場合はどうでしょうか。朝には、システム化の難度が高いため、ユーザーを説得して実装しないという方針を決めたシステム仕様・機能があったとします。しかし昼の会議の結果、ユーザーの利用頻度を考慮するとやはり実装するべきという結論に夕方に達したという場合。

 まさに朝令暮改となるわけですが、このような場合にも、会議の経緯のプロジェクトメンバーへの周知がおろそかになることが結構あります。

 プロジェクトの状況によっては、ほかに課題が山積し、プロジェクトメンバーに結果を周知する時間的余裕がないということがあるのも現実です。それにユーザーとの調整会議の詳細についてプロジェクトメンバー全員に説明をしたところで、結果は変わりません。

 とはいえまったく経緯を知らされず、単に「この仕様は実装することにした。よろしく」では、疎外感を覚え、ばかにされたように感じるプロジェクトメンバーがいても不思議はありません。

 結果的に朝令暮改となったとしても、きちんとコミュニケーションし説明することによってプロジェクトメンバーの納得感が醸成できる、もし納得しなくても疎外感を覚えなくてすむという効果に、ぜひ目を向けてほしいと思います。

 まとめると、

・PDCAサイクルを短くすることによって、不確実性の高いシステム開発プロジェクトの運営に柔軟性を持たせる

・一方で、PDCAサイクルを短くすることによる「朝令暮改」のそしりを避けるためには、私心なき決定と適切なコミュニケーションが必要

ということです。

 皆さんのプロジェクト運営、日々の仕事の参考になればと思います。

 

今回のインデックス
 プロジェクト運営に、柔軟性を持たせる方法
 「朝令暮改」なんていわせない

筆者プロフィール
トライアンツコンサルティング
エンタープライズアプリケーションサービス ディレクター 野村隆
無料メールマガジン「ITのスキルアップにリーダーシップ!」主催。早稲田大学卒業。アクセンチュアにて、金融・通信業界の業務改革・大規模システム導入プロジェクトに多数参画。ITバブルのころには、少数精鋭からなるITベンチャー立ち上げに参加。大規模(重厚長大)から小規模(軽薄短小)まで、さまざまなプロジェクト管理を経験。SIプロジェクトのリーダーシップについてのサイト、ITエンジニア向け英語教材サイト人材派遣情報サイトも運営。



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