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企業ストーリー 〜ITエンジニアから経営者へ

第2回 起業へといざなった1本の電話

語り手 鈴井広己(仮名)
聞き手 渡辺知樹(ランディングポイント ジャパン)
2008/12/22

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<渡辺の解説>
 会社の資金計画を考えるうえで重要なキーワードが2つある。1つはキャッシュフロー、もう1つは損益分岐点である。会社を経営するうえで外せないキーワードであるので、ぜひ理解していただきたい。

●キャッシュフロー

 前のページで鈴井氏の話にもあったように、顧客に製品やサービスを売っても、請求はその月の下旬になり、入金があるのは翌月の月末である。つまり、最初に顧客にサービスを提供した日から現金が得られるまで、具体的にいえば会社の銀行口座にまとまった現金が振り込まれるまでに最短でも2カ月かかる。翌月払いのことを「支払いサイト30日」といったりするが、この請求から支払いまでの時間が長ければ長いほど支払い会社の手持ち資金に余裕ができるので、業種や会社によってはこれが45日であったり60日であったり、また大企業や古い企業では何カ月といったところさえある。

 ところが、(自宅の一室に電話やファックスを置いて小さく始めるのであれば不要だが)事務所を借りる際の敷金・礼金や保証料、事務用品やパソコンなど設備費用、営業に行くときの交通費など、ビジネスをスタートすると同時に何かと現金は必要になる。さらに最初の月の下旬になれば、自分たちや従業員の給与、事務所の家賃、リース料、またアウトソース先などで他社の製品やサービスを購入していればそれらの費用など、まとまった金額の支払いが発生する。

 このとき十分に支払うことができれば問題ないのだが、金額が足りないときは借金をしてでも払うか、相手に支払いを待ってもらうよう交渉することになる。それでも支払いができないと、(「倒産」という言葉に厳密に法的な定義があるわけではないが)債務不履行となって銀行取引が停止され、倒産への黄信号がともることになる。そうならないために手元に確保してある現金をキャッシュフローといい、経営上非常に重要な要素になる。売り上げがあっても入金されず、手元資金が尽きて会社の業務を継続できなくなるのが、いわゆる「黒字倒産」だ。ビジネス取引というのは信用で成り立っているため、支払い能力がないと他社に思われてしまうと、どこも取引に応じてくれなくなり、ビジネスが継続できなくなる。すなわち倒産である。

●損益分岐点

 鈴井氏の話にもあったように、設立に掛かる費用や入金があるまでの回転資金など、最初の時期は会社全体の収支がマイナスになる。その後売り上げが発生し、徐々にマイナスが小さくなっていき、ようやく会社全体の収益がプラスに転じる瞬間を損益分岐点という。それまではしばらく時間がかかる。

 それまでの資金は、会社設立時に用意された出資者からの出資、いわゆる資本金で賄うわけだが、出資には当然それなりのリターンが期待されており、いかに早く損益分岐点を越えて、利益を出せるビジネスにつくり上げていくかが経営上の最大の課題となる。

損益分岐点(売り上げが月額300万円、費用が月額250万円の会社の会計) 


起業家への十カ条 その三
三、会社としての確固たるビジネスモデルを確立する前に、自分の強みと自分の会社の強みを知るべし。そして、その強みが顧客の問題にどう役立つのかを徹底的に考えること

◇◇◇

 次回は、実際に出資者にアピールする鈴井氏の奮闘を見てみたい。

注意:登場する人物は実在します。よって、了承を得られた人物以外、団体名・個人名は伏せています。

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聞き手・解説者プロフィール
渡辺知樹外資系企業でのISMS導入、SOX内部テストプロジェクトなどをリードし、現在も情報リスク管理や内部統制システムの整備を主な業務としている。現在、合同会社ランディングポイントジャパン代表として、後進の指導にも当たる。 公認情報システム監査人(CISA)。公認情報セキュリティプロフェッショナル(CISSP)。

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