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企業ストーリー 〜ITエンジニアから経営者へ

第2回 起業へといざなった1本の電話

語り手 鈴井広己(仮名)
聞き手 渡辺知樹(ランディングポイント ジャパン)
2008/12/22

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鈴井氏 結論は、お客さまの困っている問題を解決するという、極めて単純なことでした。お客さまが困っているところにこそビジネスチャンスはあります。それをサポートするのはいろいろな困難が伴いますが、難易度の高いことにチャレンジしていかないと、価値の高いビジネスを生み出すことは難しいと考えました。

 そうと決まれば早速、いまの自分たちの体制でも対応できそうな具体例を考え、それを事業の基本構造として説明資料にまとめることにしました。これまで、周囲のいろいろなトラブルにまで積極的に首を突っ込んできたおかげで、お客さまがどういったところで困るかといった具体例を考えることにさほど苦労はありませんでした。実際、この次の段階でお客さまを回ったときに、この説明資料を持っていったのですが、たくさんのお客さまから共感をいただけました。

<渡辺の解説>
 ここで鈴井氏の姿勢から分かることは、「とにかく顧客ありき」である。当たり前のことだが、顧客は自分でできることは自分でやるし、難易度の低いことにコストは掛けない。いい換えれば、処置に困っていること、実行するには高い専門性が要求される分野にこそビジネスチャンスがあるということだ。

 ITビジネスの世界では、「ソリューション」という言葉がよく使われるが、これは顧客の抱えている問題を解決する、ということである。例えば、もっと迅速に経営情報を集約したい、これまで数日かかっていた在庫管理をリアルタイムで行いたい、紙ベースのプロセスを電子化して時間も人手もランニングコストも抑えたいなど、具体的な問題に対して解決策を提供するということである。

 アプローチとして、「こういうものがあれば、ビジネスに役立つはずだ」と提供者の論理で、まったく新しい製品やサービスを世に問うという方法がある。いままでなかった価値を社会や市場にもたらす可能性はある半面、まったくヒットせずそのまま消えていく恐れの方がはるかに大きい。

 鈴井氏が取ったアプローチは、「顧客の声を聞く」という方法である。彼の過去のビジネス経験の中から、顧客が最も困ったこと、悩んだことは何か、そこからどういうサービスをITベンダに求めたかを考えた。顧客の悩みと彼自身にできることとのマッチングを行ったことで、潜在顧客(後に実際に彼の顧客になるわけだが)の共感を呼べたということだろう。

■資本金

鈴井氏 さて、以上で何をどう売って収益を得るかという土台はできました。次はお金の話です。事業をするにはお金が掛かりますが、自己資金で用意できる金額はたかが知れていますので、出資者に投資していただかなくてはなりません。その際、収益構造を明確にしつつリスクを織り込み、どれだけ具体的な投資計画を見せられるかが重要です。

 資本金が多ければ倒産リスクは減りますが、自己資本比率を上げる(投資家から投資していただいたお金を返済して自分の資本の比率を上げる)には、資本金はできるだけ少ない方がやりやすくなります。

 よって、資本金の設定額は、リスクを踏まえたうえで最低限のラインに収めるべきです。忘れてはいけないのは、人件費などのコストは起業したその日から発生し始めるということです。また、仮にすぐお客さまが獲得でき仕事にありつけたとしても、一般的な商習慣では月末締めで請求し、それに対しお客さま側が翌月に処理し月末に入金します。立ち上げから現金が得られるまでに少なくとも2カ月はかかるため、最初の月は必ず赤字になります。特によほど強力な固定客が確保できていなければ、立ち上げから最初の2〜3カ月は営業活動がメイン、黒字になるのはどんなに早くても半年後だと思っておいてください。この半年間は、「サラリーマンを辞めるべきではなかったかなぁ」と、何度も思った時期でした。

 たとえ起業前に準備しておいたビジネスを持ってきたとしても、企業規模が小さいので負荷は全部自分たちにかかってきます。これが結構大変です。そして、その案件を処理しつつ、次の月のビジネスを探してこられないと、黒字転換どころかますます赤字が拡大してしまいます。作業工数と営業のバランスをよく考え、スタートから飛ばしすぎないように安定的な拡大を計画していかなくてはなりません。

 また、必ず出金が先で入金が後になることは、しつこいくらい注意し意識しておく必要があります。例えば案件を処理するために、まず人件費が発生し、その支払いが発生します。自分だって食べていく必要がありますし、社員を雇ったらその月から給料の支払いが始まりますから。プロジェクト完了後の次の月まで入金はありません。もし、プロジェクト期間中のコストを準備できなければ、よくいわれる黒字倒産のリスクが目の前に現れてくるわけです。

 人が主体のサービス会社では人件費が一番の高コストですから、採用した社員に入社してもらうタイミングと、お客さまからいただくお仕事量、入金のタイミングのバランスを取るために、並々ならぬ注意を払いました。黒字倒産させないためには、常に人が足りない状態でお客さまへのサービスを回していく必要があります。このため最初の数カ月分の計画はWBS(Work Breakdown Structure)を作るつもりで、個々のタスクを考えながら細かな計画を立てました。加えて、会社の立ち上げ前に準備しておいた案件はすべて取れるわけではないと想定し、ある程度悲観的な数値で資金計画やコストを見積もりました。

 結局、やるべきことを一言でいうと、自分が提供できる技術を製品とし、そこに見積もった具体的収支の数字を入れて、プレゼン資料を作るということでした。こうして出来上がったものを見返してみると、これまでの会社でお客さまに提案するために作ったプレゼン資料とさほど変わらなかったですし、収支計算もプロジェクトの見積もり時の経験が役に立ったということに気付きました。プロジェクト自体、それぞれが小さな独立したビジネスと考えられますし、私でさえ何とかなりましたので、プロジェクトを最初から最後まできちんと管理できるスキルがある人であればきっとできることではないかと思います。

キャッシュフローと損益分岐点について解説

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