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企業ストーリー 〜ITエンジニアから経営者へ

第3回 出資が得られる事業計画書と損益計算書

語り手 鈴井広己(仮名)
聞き手 渡辺知樹(ランディングポイント ジャパン)
2009/2/12

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■いよいよ出資者に会う

鈴井氏 最初にお会いした出資者は株式を公開している会社の役員たちでした建物がきれいで非常にいい会社だと感じました。役員の皆さんも私より10歳程度上の40代とまだ若く、何だか自信に満ちている感じがしました。

 まずは事業計画書と損益計算書の説明をしました。具体的にどういう案件があるのかなど簡単な確認をされ、その部分がクリアになると今度は出資条件について説明を受けました。私の受けた説明は、目標として数年以内に株式公開をすること。それを実現するためにある程度大きな株式会社の出資を受け、そこで得た豊富な資金を元に会社を急成長させるという話でした。彼らに株式公開のノウハウがあるので、比較的スムーズに株式を公開できるだろうとのことでした。

 ただし株式公開をすると、売上目標が株主によって設定され、立ち止まることが難しくなるでしょう。つまり私が想定している、一時的には売り上げを落としてもエンジニアを育て、サービス品質を維持するといった経営方策を取ることが難しくなるということです。また自分たち役員の報酬や従業員の給料なども、株主に納得してもらわなくてはいけません。その会社の役員の方も株主への説明会などは非常に大変だとおっしゃっていました。

 結局のところ株主に雇われ仕事していくことになり、サラリーマンに近い仕事をすることになるという印象を受けました(もちろん普通のサラリーマンよりは自由度は高いですが)。スムーズに事業を成長させられる代わりに、自由度が低くさまざまな制約の中であまり試行錯誤していく余地がないように思えました。その日は結論を出さず、話を持ち帰って検討し直した後、再度話すこととしました。

 後日、今度は株式を公開していない小さな会社へ説明に行きました。その会社は雑居ビルの中にあり、あまりきれいなオフィスではありませんでした。しかしお会いした役員の皆さんはとてもやさしい感じの人間味のある方々でした。

 早速前回と同じように事業計画書と損益計算書の説明をすると、コストに関してかなり細かく指摘されました。例えば、社員のPCは何を想定しているかといった質問や、全員に通信機器を渡さずに通信費を削ってはどうかといった意見など、徹底的に無駄なコストを排除するように指摘されました。このことで会社を経営するに当たって、コストの重要性を再認識させられ、何とも身の引き締まる思いでした。その会社から出資条件として求められたことは、1年以内に黒字化すること。黒字化できるのであれば年収などは自由に決めていいという話もありました。

 しかしその会社自体あまり大きくないので豊富な資金は出せないということで、会社の成長速度を重視する場合はあまり期待できないということもいわれました。人材の確保や育成といった投資を堅実に行っていくようにとの話でした。事業の成長速度がないうえコスト削減も厳しいので、自分たちの給与も相当抑えられるだろうと感じました。ただし、自由度は高い印象を受けました。

 ほかの出資者にも会いに行ったのですが、その中で印象に残っているのは「いかに多くの資本金を集めたかが重要なのではなく、いかに稼げるかが重要だ」ということでした。確かに出資金は、売り上げでも利益でもなく、自分で利益を出せるようになるまでの準備金という意味合いのものです。このことは折に触れて自分にいい聞かせたものでした。

 こうして出資者を何カ所か回りましたが、それぞれに一長一短があり、そのうえまだ本当に出資を受けられるかは分からない状況でした。そうこうしているうちに、私の転職先のオファーを受ける期限が過ぎようとしていました。このままではオファーをければ無職になるのが確実でした。私は二者択一の決断を迫られていました。

 そんなとき、出資会社の中の1社が、ある雑誌でスキャンダルを取り上げられてしまったのでした。

<渡辺の解説>
 事業計画は、徹底的に現実的であることが求められる。ここで役立つのがリスク管理の考え方だろう。自分の事業を立ち上げ、体制を整え、受注を受け、実際に収益を上げていくまでに、どのような問題が起きる可能性があるのかをしっかり考えておかなければならない。また、問題が発生した際のビジネスへの影響を考慮し、計画に盛り込んでおくことを強くお勧めする。

  例えば、想定するサービスを展開できるだけの人員が本当に確保できるのか。計画した受注は本当に全部実現するのか。発注内容の縮小や発注そのものの中止はないのか。サービス内容や納期、品質によって顧客とトラブルが起きないか、起きたらどうするのか。顧客からの入金は期日までに全額なされるのか、何らかの事情で遅れたり入金がされなかったら当座の回転資金をどう確保するのかなど、想定すべき不確定要素はたくさんある。 不確定要素に対して、あらかじめ十分な準備や対応、つまり多少のトラブルは「想定内」といえるような、現実的で用心深い思考ができるのが望ましいということだ。

 投資家としては、リスクをどう減らすのか、どうリスクコントロールしていくのかを気にするものだ。最悪のシナリオを徹底的に考え、リスクにどう対応するのか具体的に準備できていれば、質疑応答での厳しい質問にも答えることができるだろう。

起業家への十カ条 その四、五
四、成功への道しるべとなる事業計画は徹底的に具体的に、現実的に描くべし。その際にWBSなどプロジェクト管理の技法を活用すべし。

五、リスク管理の視点を持って事業計画を立てるべし。楽観的な甘い見通しでなく、最悪の事態への対応を想定すべし(予期せぬことが突然起きるのがビジネスであり、人生だ)。

◇◇◇

 次回は、複数の出資者から最終的に鈴井氏がどういう視点で出資者を選び、具体的にどうやって事業をスタートさせたのかを聴取したい。

注意:登場する人物は実在します。よって、了承を得られた人物以外、団体名・個人名は伏せています。

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聞き手・解説者プロフィール
渡辺知樹外資系企業でのISMS導入、SOX内部テストプロジェクトなどをリードし、現在も情報リスク管理や内部統制システムの整備を主な業務としている。現在、合同会社ランディングポイントジャパン代表として、後進の指導にも当たる。 公認情報システム監査人(CISA)。公認情報セキュリティプロフェッショナル(CISSP)。

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