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企業ストーリー 〜ITエンジニアから経営者へ

第4回 1億円出すという出資者を選ばなかった理由

語り手 鈴井広己(仮名)
聞き手 渡辺知樹(ランディングポイント ジャパン)
2009/5/12

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<渡辺の解説>
■結果的に社員をダメにする“おんぶに抱っこ”な人材育成戦略

 伝統的な大企業の中には経営企画部や人材開発部のような専任のセクションがあり、「わが社に求められる人材像」のようなモデルを定義して、それに沿って年間教育プランを作って社員に研修を受けさせるようなところがある。自立したビジネスマンであれば、自分はどうやってビジネスの世界でサバイバルしていくのか、どういう方向へキャリアを積み上げていきたいのか、そのための課題は何でどのように取り組んでいくのがいいのか、といったキャリアプランを自分でプロデュースする能力が程度の差こそあれ必須だ。しかしながらこのようなおんぶに抱っこの環境になじんでしまうと、元は優秀だったはずの人でもすっかり思考しない習性がついてしまい、仕組みやフレームワークのない環境に入るとフリーズしてしまうことになる。

 実は鈴井氏の会社が設立されたタイミングで、筆者の専門分野であるITガバナンスに関する助言が欲しいということで、鈴井氏の会社を訪ねたことがあった(数年前にプロジェクトで一緒に仕事をする機会があり、筆者と鈴井氏はそのとき面識ができていた)。

 そのときに彼が創業時に採用した5人とも筆者は会ってその後謝礼代わりの酒の席で話もしているが、筆者の印象として、派手ではないが、確実で芯の強い人間を鈴井氏は採ったなと思わされた。彼らは得意なIT技術を複数持ち、また技術の追求には終わりはないということを理解しているせいか非常に謙虚で勉強熱心で、また快活で思いやりのあるいい人間だということが十分に伝わってきた。アルコールが入っているとはいえ、その彼らに何とか夢を与え、報酬でも報い、そのためにもいい形で会社を発展させていこうという鈴井氏の熱のこもったトークが印象的であった。

 人をある行動に駆り立てるには何かしらの動機(モチベーション)や報酬(インセンティブ)があるが、それは金銭であったり、やりがいであったり、専門家として成長し、仲間や顧客に認められる達成感や連帯感であったりさまざまだが、連日のラブコールに応えてくれたメンバーにできるだけ多くのものを与えたいという鈴井氏の情熱こそが彼らを突き動かしたように思える。

起業家への十カ条 その六、七、八
六、目先の利益に惑わされず、信用や信頼できる相手とのネットワークを冷静かつ着実に組み上げていくべし

七、自分の会社の売り上げのためには、どんなスキルや技術が必要なのか、徹底的に具体的に想定したうえで人材戦略を推し進めるべし。ミスマッチは時間とお金の無駄

八、自分の置かれている環境や状況、そしてゴールを的確に把握し、そこで最適な行動を取るには何をすればいいのか、スキルが足りないとすればどうすればそのギャップを埋めることができるのか、セルフプロデュース力を磨くべし

◇◇◇

 最終回となる次回は、鈴井氏の採用や人材育成に関する考え方やノウハウ、そして会社を順調に成長させていくために鈴井氏が考え、実行したことを総括として解説していきたい。

注意:登場する人物は実在します。よって、了承を得られた人物以外、団体名・個人名は伏せています。

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聞き手・解説者プロフィール
渡辺知樹外資系企業でのISMS導入、SOX内部テストプロジェクトなどをリードし、現在も情報リスク管理や内部統制システムの整備を主な業務としている。現在、合同会社ランディングポイントジャパン代表として、後進の指導にも当たる。 公認情報システム監査人(CISA)。公認情報セキュリティプロフェッショナル(CISSP)。

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