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IT業界の開拓者たち

第29回 パソコン直販方式の開拓者

脇英世
2009/3/18

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 ビジネスを続けるうち、マイケル・デルは過剰在庫のIBM PCや古いIBM PCを強化して売るよりも、自分でパソコンを組み立てて売る方法があることに気が付いた。そこでマイケル・デルは自分でパソコンを組み立てることにした。マイケル・デルのやり方は流通業者をバイパスする直販方式だった。ブランドものよりも15%ほど安く、無料の技術サポートがあり、行き届いた故障対応サービスがあった。マイケル・デルの商売は堅実で、料金が払い込まれないうちは、製品の組み立てをしなかった。

 1988年、マイケル・デルの会社はデルコンピュータとして株式を公開した。こうしてデルコンピュータは無敵の快進撃を続けていく。どんな会社よりも右肩上がりが著しかった。この快進撃のペースはいくら何でも速すぎた。組織は未熟で管理職がいなかった。

 1993年デルコンピュータは6500万ドルの赤字を出した。直販だけでは将来が暗いといわれてデルコンピュータは流通にも手を出したが、ナンバーワンの知名度を持つコンパック、低価格を武器にするパッカード・ベルの前に完膚なきまでの敗戦を喫した。デルコンピュータの経営陣には、このときの敗戦のショックが深く刻み込まれているらしい。苦手意識があるという報道を読んだことがある。

 自分だけでは会社の経営は無理と知ると、マイケル・デルは彼を補佐してくれる専門家を集め始めた。こういう点がマイケル・デルの偉いところだ。マイケル・デルはモトローラからはモート・トーファー、アップルからはエリック・ハースレム、ジョン・メディカ、ヒューレット・パッカードからはリチャード・スナイダー、サン・マイクロシステムズからはメレディスらを雇った。こうした経験豊かな経営幹部の雇用によって、デルコンピュータはきちんとした企業になった。マイケル・デルの権限委譲も適切であった。

 インターネットによる神風も吹いた。電話注文による直販市場はパソコン市場の15%が限度といわれていたが、突然普及し始めたインターネットは直販市場を何倍にも拡大した。また、電話注文だと対応に700人必要な場合でもインターネットだと30人で済んだ。デルコンピュータはインターネット直販を最大限に活用した。

 デルコンピュータはこうした追い風にも助けられて、従来から強かった大企業、政府、教育機関市場を中心に反撃を開始した。

 マイケル・デルの好きな言葉は「このビジネスではスピードがすべてだ(speed is everything in this business)」である。デルコンピュータは顧客から注文を受けてから36時間以内に配達できる。在庫を大幅に減少できるので、ほかのメーカーより価格を10%から15%低減できる。

 またジャスト・イン・タイムの組み立てと配送だけでなくいろいろ工夫をした。例えば、マザーボードは全世界で1つだけと供給業者を定めるのではなく、地域ごとに供給業者を決めた。これにより調達の時間を大幅に短縮でき、在庫も減らすことができるようになった。またCRTモニタはデル本社から配送するのではなく、宅配便業者に集積させておき、注文があると、デル本社から配送される本体と同時に届くようにした。

 デルコンピュータの反撃は成功し、米国でのパソコンメーカーの第5位の位置を占めるようになった。デルコンピュータの攻勢の前にIBMはマイクロエイジなどの会社にパソコンの組み立てを全面的に任せて、自分ではやらなくなってしまった。時間もかかるしコスト的にも競争できなくなったからである。流通を完全に支配し、直販には見向きもしなかったコンパックもインターネットによる直販に目を向け始めた。

 デルコンピュータはパソコンメーカーの性格を、単なる組み立て屋とコンビニエンスストアの折衷的なものに変えてしまった。いつかデルコンピュータの前に立ちはだかるのはコンビニエンスストアかもしれない。

 マイケル・デルはデルコンピュータの株式の16%を持つ。テキサスでは最大の金持ちだ。コンピュータ業界でも第6位の金持ちである。それでもカジュアルなボタンダウンのシャツを着て歩くと誰だか分からない。有名な割に顔が知られていない。面白い存在だ。お酒はあまり飲まないらしい。

 最近マイケル・デルはジャト・テクノロジーというチップメーカーに350万ドル投資した。ジャト・テクノロジーはギガビット・イーサネット用のチップを作っている会社である。

補足

 デルコンピュータは、直販メーカーとしてはナンバーワンの会社になった。マイケル・デルはデルコンピュータをさらに企業向け指向の会社に育てていこうとしている。マイケル・デルは手堅く、まずスモールビジネス向けを狙い、その後に大企業向けを狙おうとしている。この点、一挙に大企業向けを狙って失敗したゲートウェイとは違っている。

本連載は、2002年 ソフトバンク パブリッシング(現ソフトバンク クリエイティブ)刊行の書籍『IT業界の開拓者たち』を、著者である脇英世氏の許可を得て転載しており、内容は当時のものです。

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