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今週のリーダー

第29回 「技術一筋」が「マネジメントも面白い」に変わった理由


岑康貴(@IT自分戦略研究所)
赤司聡(撮影)
2009/8/24

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本当の意味で「人の話を聞く」ということの面白さ

 どうやら「人を知らないとダメ」らしい。それならと、心理学やコーチングの勉強を始めました。最初は本やWebに書かれていることをまねるだけでした。よく書かれていたのが「気付かせるために質問する」ということ。「きみはどういう風にしたいの?」というような感じですね。ところがそれをやっても、返ってくる言葉は「別に……」。本やWebに書いてある情報だけでは限界を感じ、NLP(神経言語プログラミング)やカウンセリングのセミナーに参加するようになりました。安くないお金を払ってしまったので、やらざるを得ない。

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 その1つに、「話の聞き方セミナー」というのがありました。あんまり乗り気ではなかったのですが、友人の紹介で仕方なく参加したことがあります。そのセミナーでワークショップがありまして、ある経営者さんとお話ししました。このとき、相手は悩みをいろいろ話すのですが、わたしは「一切自分の話をしてはいけない」という設定でした。その経営者さんもチームをまとめることに悩んでいらしたので、話にすごく共感できて、「そうそう、実はわたしも……」と話し始めたくなってしまう。でも、話しちゃいけない。これ、ものすごくつらいんです。

 ところが、なんとか我慢して話を終えると、わたしの「話ができない」つらさとは裏腹に、その経営者の方が「話してスッキリしました!」と、すごく晴れやかな顔になったんです。このとき、「ああ、今までわたしは、人の話を聞きながら自分のことばかり考えていて、人の話を本当の意味で聞いていなかったんだ」と気付きました。システムエンジニアですから、顧客からヒアリングするという経験はもちろんありました。人の話を聞くのは得意だ、ぐらいに思っていたんです。でも本当は「人の話を聞く」というのは、とにかく聞くことに注力して、相手が「こういうことがいいたいのかな?」とか、「言葉ではこういってるけど、本当はこういうことかな?」と考えて、相手に「こういうことですね?」と返して、確認してあげることだったんです。すると、「そうそう」と相手の反応が返ってくる。このワークショップでは、わたしは話を聞いていただけで、特にアドバイスをしたわけではないんですけど、話しているうちに相手の悩みは解消している。これはすごく面白い、と思いましたね。

 この経験を経て、メンバーへの接し方を「気付かせよう」「やる気を出させよう」とむやみに問い掛けることから、段々「相手の悩みを聞く」という方式へと変えていきました。心にプラスマイナスがあったとしたら、悩みを持っているという状態は「マイナス」ですよね。「マイナス」から「プラス」へと一気に飛ぶのは無理がある。まずは悩みを全部聞いて、「マイナス」を「ゼロ」にしないとやる気は起こせないな、と感じました。

 「メンバーの話を聞く」ということができるようになってくると、次第に「これを実現するには、もう少し目的を明確にした方がいいな」「もう少し具体的に考えてもらった方がいいな」などと気付けるようになりました。そこで、「それをする目的は何?」「もう少し具体的にすると、どういうこと?」など、メンバーの考えを中心にした問い掛けや会話の組み立てができるようになり、意見を引き出すことができるようになりました。その結果、メンバーをまとめるのは結構うまくいったと思います。もちろん、全員に対してうまくいったわけではありません。拒否反応を示す人もいました。でも大部分のメンバーは、うまくやる気を出してくれましたね。

 このころには、すでに「技術だけをやっていたい、ものづくりをし続けたい」というこだわりは薄れて、「人をまとめて、動かすというのも面白いじゃないか」と思うようになっていました。

自分で全部やるのは大変。みんなに任せよう

 何か問題があったり、目標を決めたりするとき、昔のわたしは1人で考えてばかりいました。でも、人の話を聞くこと、問い掛けることを覚えたわたしは、「どうしたらいいか、みんなで考えてみよう」という風に、みんなに答えを出してもらうように方向転換しました。「お客さまは何で困ってるんだろうね。みんなで答えを出し合ってみよう」「それはどうやったらうまく解決できるんだろうか。みんなでアイデアを出してみよう」「じゃあ、それに沿って来年やることを決めよう」。……こうやって決まった目標に対して、みんなすんなりとやる気を見せてくれるんですよ。「自分たちが決めた目標だ」という意識があるのだと思います。

 ここまでくると、わたしはもう「みんなに任せよう」モードです。全部自分1人でやるのは大変じゃないですか。だからみんなに任せる。その代わり、とにかく話を聞く。「任せる」ということに対して、もちろん不安はありましたが、結構なんとかなるものだなあ、と。それに、メンバーみんなでワイワイと答えを出し合うのは、純粋に楽しかったんですね。

 この後、わたしはコーチングそのものに面白さを見い出して独立し、それを仕事にしてしまいました。人をまとめる、という仕事を与えられていなければ、今の自分はなかったでしょう。

やりたいことをするために、変わってみる

 ITエンジニアの方の中には、昔のわたしのように「ずっと技術を追求していたい」「マネジメントなんてしたくない」という人が少なくないと思います。それはそれでいい。全員がリーダーやマネージャをやる必要はないし、プログラミングを続けたいのならば、ぜひ続けてください、といいたい

 でも、「プログラミングに関係のあること以外、一切やらないのは、もったいない」と思います。マネジメントや企画など、いろいろな機会があるのにやらない、とかね。例えば、人をまとめるという経験が将来、仲間とプログラミングの仕事をする際に役立つかもしれない。わたしのように、嫌いだった仕事が好きになったり、それまで想像もしなかった才能に気付いたりするかもしれない。そのときはつらい仕事でも、後になって意味が分かるということもある。

 「自分はプログラミングをやっていくんだ」というこだわりがあるのなら、それを軸にしながら、それをどうすれば継続できるかを考えてほしい。例えば、わたしは顧客と出会う方法や文章の書き方など、コーチング自体にはあまり関係のないことも勉強しています。これは、やりたい仕事を実現するために必要だから。やりたい仕事の軸は変わらないんです。

 「業界が悪い」「会社が悪い」というのは簡単です。でも、じゃあどうするのか、と聞きたい。与えられることを待ってるだけでいいのでしょうか。将来から今を見て、何が必要なのかを考える。そして、自分がやりたいことをするために、今できることから変えてみませんか? と提案したいですね。

 わたしの経験から考えても、自分が何かやりたいことをやるとき、人をまとめるという経験はプラスに働くと思います。最終的には「自分のため」でいいんです。未来から見て、今のリーダーやマネージャの経験が生きるかもしれない、と考えてみると面白いと思います。

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