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今週のリーダー

第35回 「自分で自分の面倒をみる人が得をする」組織づくり


岑康貴(@IT自分戦略研究所)
赤司聡(撮影)
2009/10/13


石橋秀仁(いしばしひでと) ゼロベース 代表取締役社長 1978年生まれ、30歳。久留米工業高等専門学校でメカトロニクスのエンジニアを養成するカリキュラムを学ぶ。力学、機構学、制御工学、計測工学などを軸に、幅広い領域をカバー。Web企業でソフトウェアエンジニアとして勤めた後、2003年からフリーランスのエンジニアとして多数の案件にかかわる(企画・開発・運用)。徐々にサービス企画からマーケティング・プランニングにも仕事を広げ、経営全般やデザインを学ぶ。2004年9月、ゼロベース設立。

作り手のためのエンジニアリング、使い手のためのデザイン

 久留米高専に入ったころから、将来はエンジニアとして働こうと考えるようになりました。卒業後、2年半ほど会社勤めをしてからフリーランスになりました。なにかフリーになった大きな理由があったというわけではありません。僕にとっては「会社に勤めていたこと」の方が異常だったんです。最初は会社勤めも面白かったんですけど、やはり合わなくて。会社を辞めるということは、僕にとってあまり大ごとではありませんでした。

 フリーはやっぱり、収入が安定しないのが大変でしたね。それでも1年半くらいすると、保守込みの開発案件の仕事がくるようになって、安定し始めました。ところが、これはこれで面白くないんです。クライアントの下請けシステム屋さんみたいになってしまうので。

 一方で、フリーの良さは「仕事がないときに勉強できる」こと。ユーザーインターフェイスの勉強から始まって、広義の「デザイン」の勉強をするようになりました。それまではいわゆる「エンジニア的」な、どうやってシステムやソフトウェアを作るかということばかりを考えていたのですが、それ以降「システムやソフトウェアは、どうあれば人の役に立つのか」ということを考えるようになりました。人間側からの視点が得られるようになったんです。ドナルド・A・ノーマンの『誰のためのデザイン?』や、アラン・クーパーの『コンピュータは、むずかしすぎて使えない!』の影響をかなり受けています。

 作り手側の視点と、使い手側の視点の両方を学んだことで、「両方が幸せになれるものづくりって何だろう?」と考えるようになりました。ものをつくるということは、経済活動とは切っても切り離せないもの。作り手側のエンジニアリングと、使い手側のデザインの間に「ビジネス」が確立しないといけないと考え、今度はMBA的なマネジメントやマーケティングの勉強も始めました。その後、ゼロベースという会社を立ち上げました。

 作り手側の視点と使い手側の視点の両方を考える――相対的に立場を変えて物事を見る、という振る舞いは、久留米高専時代の影響があると思います。僕のいた制御情報工学科は非常に学際的な学科なので、そこで「分野横断的に物事を見よう」という意識を刷り込まれた気がします。

ポジションから「はみ出した部分」こそが面白い

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 自分で積極的にコードを書かなくなって5年くらい経ちます。もちろん、ちょっとしたものは書きますが、基本的にはほかの人に任せている。そういう風になったころから、僕は自分を「エンジニア」と定義しなくなったように思います。ただ、要件を決めたり、アーキテクチャを決めたりはしてるので、世間的には「エンジニア」に含まれるのかもしれません。

 いずれにせよ、どう呼ぼうが関係ないと思っています。職種名は関係ない。あるプロジェクトがあって、それをゴールに導くためには必要なタスクがいくつかある。例えば人が4人いるとします。そうしたら、その場その場で誰がどの部分をやるかを決めればいい。彼はエンジニアだからここだよね、とか、彼女はデザイナーだからここまでだよね、というのは違う。人の職種で仕事を規定しなくても、プロジェクトをゴールに導ければそれでいいんです。

 これは企業にもいえることです。本来は、戦略が組織を規定するのが普通です。ところが、段々と組織が戦略を規定するようになります。ゴールにたどり着くための戦略が組織を生むのに、組織の方がゴールのような顔をし始めるんです。恐ろしいですよね。そういう組織の中では、人は自分の「職種」という型にはめられて、その仕事をこなすことしか求められなくなってしまいます

 ある人に“できる仕事”をさせるのではなく、まずポジションがあって、そこに見合う人を連れてくる。この考え方だと、ポジションの周りにその人の「できること」がはみ出すことになります。実は、このはみ出した部分こそが面白いかもしれません。ゲイリー・ハメルは『経営の未来』という本で「創造的でない人はいない」といっています。創造的に見えない社員がいたとしたら、その人はきっとそのポジションからはみ出した部分で創造的なことをしているはずなのです。――ただし、会社の外で

 人がポジションに押し込められて、はみ出した部分ができると、それを別のところで発揮しようとする抵抗活動が起きます。エンジニアのオープンソース活動は、実はそういうことなんじゃないだろうかと考えています。「会社ではCOBOLを使ってるんだけど、Rubyがやりたくてオープンソース活動をしています」なんて人がけっこういる。どう考えても無償労働にしか見えないオープンソース活動をこれだけ多くのエンジニアが行っている。その理由を「こぼれ落ちた部分」の抵抗活動と考えるとしっくりきます。

「全人格的な働き方」と「企業」の折り合いをつける

 ゼロベースはROWE(Results-Only Work Environment、完全結果志向の職場環境)を試しています。社員は「結果さえ出せば、働き方(場所や時間)は自由」です。2008年秋くらいから考えていました。いま、まさに実験中です。これでうまくいくかどうかは分からないのですが、ゼロベースは「そうせざるを得ない」と思っています。少なくとも、僕はそうじゃないと会社で働けません。

 自分の理想とする働き方は「全人格的な働き方」です。人をポジションに押し込むのではなく、その人のできることを最大限に発揮してもらいたい。そういう働き方をしたいという人同士が集まって、チームを作って働くのが理想です。

 本来ならフリーランスの人がプロジェクトごとに集まって仕事をすればいいだけのことかもしれません。でも、いまの日本にはフリーになる人が圧倒的に少ない。本当はフリーの方が会社に勤めるより向いている人であっても、なかなかフリーにはなりません。未知からくる恐怖があって、選択できないんです。食っていけなくなるんじゃないか、とかね。

 だから、もう少しハードルの低い道が必要なんです。全人格的な働き方が「企業」と折り合いをつけられるようにするには、ROWEの考え方が合っているのではないか、と今のところ思っています。

 もっとフリーになる人が増えて、フリーになることが当たり前の選択肢になる時代がきたら、こういう組織は必要なくなるのかもしれませんね。

「最小国家」の実験

 「新しい働き方のできる組織を作ってみたい」というのが、ROWEを試している理由です。「新しいことを思いついて、その仮説の有効性を示す」というのは面白い。「組織」や「働き方」のオルタナティブな提案がしたい。学者みたいですね。

 ただし、手続きにあまりこだわりたくはありません。仮説を立てて、取り合えずやってみて、振り返る。いまはまさに「やってみる」の実践中です。だから、ROWEは最適じゃないかもしれない。そうしたら一度振り返って、微調整してあげればいい。実験をしているイメージです。

 僕は「社長」ですが、人の面倒をみることに情熱が湧かない人間です。世の中には立派なマネージャが存在することは認めますが、僕はそうはなれない。だったら、「自分で自分の面倒をみる人がいちばん得をする」という仕組みの組織を作ればいいんです。ぎりぎり「企業」としての枠を持ちつつ、インセンティブを設計して、仕組みで人を動かす組織。国家論でいう「最小国家」「夜警国家」に近いでしょうね。

 いまは「最小国家」的な方向に、かなり極端に振っているところです。これでうまくいかなかったら、ちょっとずつ戻していきます。もっとも、この場合の「うまくいく」とは、別に組織が拡大していくことを指しているわけではありません。そもそも、いまゼロベースは正社員4人の会社で、普通に考えたらあまり拡大していない、うまくいっていない会社ですよね。でも、ずっと4〜5人の会社でも、僕らが成功していると思えればそれでOKです。

 仮説検証は、人が生きる上で非常に重要です。それがなければ、人は失敗から学べない。僕はいま、企業や組織、働き方という領域で仮説検証を繰り返しています。その領域でオルタナティブな提示がしたいのです。

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