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リーダー

第5回 「専門職が自己実現できる組織を」――Amebaリーダーの夢


岑康貴(@IT自分戦略研究所)
赤司聡(撮影)
2010/3/15

長瀬慶重氏
長瀬慶重(ながせのりしげ) サイバーエージェント 新規開発局 局長、アメーバ事業本部 ゼネラルマネージャー 1975年12月、熊本県出身。法政大学大学院システム工学専攻卒業後、通信業界にてR&D開発を経験。次の可能性を感じる環境を求めて、2005年8月にサイバーエージェントに入社。入社後は「アメーバブログ」をはじめ、Amebaの新規サービスの開発を担当。現在はAmebaのメディア開発の責任者を担当。また、同社 新規開発局 局長として、140名を超えるエンジニア、クリエイターを束ね、“技術のサイバーエージェント”の実現に向けて日々奮闘中。

■「ものづくり」と「事業」、両方の組織を見る立場

 現在、わたしは「新規開発局」と「アメーバ事業本部」、2つの部署のリーダーとして仕事をしています。新規開発局は現在、約140人のエンジニアとクリエイターで構成されています。サイバーエージェントにおける「作り手」が集まっている組織です。一方、アメーバ事業本部は、主にAmebaブランドのサービス企画、開発、運営を担っています。いかに多くの人に「面白い」と感じて使ってもらえるサービスをたくさん作るか、をミッションとしています。

 新規開発局という組織には、マネジメントを行う人間はわたし1人しかいません。あとは全員「専門職」の集団です。わたしの役割は採用や組織戦略、評価などを通じて、彼ら専門職の人たちが、自己啓発に努めながら伸び伸びと「ものづくり」に専念できるような環境をつくることです。

 わたしは、新規開発局とアメーバ事業本部、つまり「ものづくり」の部門と「事業」の部門を両方見ていることによるメリットがあると考えています。それは、いかに技術者たちに「広く使ってもらえるものを作る」という意識を持たせるか、という部分です。

 エンジニアのエゴで作ったものが世の中に流通してしまうのは、誰にとっても不幸なこと。Amebaのサービスは、分かりやすくて、ITリテラシーの高くない人にも使ってもらえるものを目指しています。エンジニアたちが作ったものが、誰にとってもハッピーなサービスになるのが重要なのです。一方で、もちろんエンジニアたちが楽しんで、自己実現を図りながら仕事をするのも重要です。その両方のバランスを取るためには、ものづくりと事業、両方を見ていないといけないのです。

 世の中には、技術寄りの企業・サービスと、事業寄りの企業・サービスがそれぞれたくさんあります。でも、バランスが悪くて、いずれかの部門の人間が生き生きしていないことが多いように思います。それでは良くない。うまくバランスを取った企業・サービスにしていきたいと考えています。

 わたしは「専門職の終身雇用の組織」をつくりたいんです。エンジニアやクリエイターが、専門職として生き生きと仕事をし続けられるような組織をつくることで、会社を成長させたい。もちろん、確固たるマネタイズ基盤がないと、それは容易には実現できないでしょう。でも、優秀なエンジニアやクリエイターは、生き生きと仕事ができる組織でなければ、離れていってしまいます。事業と、専門職にとって魅力な組織づくり、その両方をバランスよく伸ばしていきたいですね。

■「大きな技術者組織をつくりたい!」

 前職は通信業界でシステム開発に従事していました。最終的にはプロジェクトマネージャ(プロマネ)になって、大きなプロジェクトを回すような経験を積みました。でも、もっとユーザーと直接対話できるような、広く使ってもらえるようなサービスを作りたかったんです。そこで、Webサービスの世界に飛び込もうと考えました。それが2005年ごろのことです。

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 当時、サイバーエージェントはいわゆる「営業集団」のイメージが強くて、実際のところ、そのイメージは間違いではありませんでした。Amebaブランドのサービスをどんどん立ち上げていこうと考えてはいたものの、エンジニアは20〜30人くらいしかいなくて、大掛かりな開発は外部発注がほとんどでした。内製の重要性をきちんと理解している人が少なかったのかもしれません。

 営業部門が強くて、技術部門はまだ小さい。そんな組織に飛び込んでいって、自分たちのサービスをしっかり開発できるような大きな技術者集団をつくれたら――そんなふうに考えて、サイバーエージェントを選びました。藤田(同社 代表取締役社長の藤田晋氏)の人柄に引かれた、という側面もありました。何か大きなことができそうな気がしたんです。

 入社してまずやったことは、外部発注していた開発案件を、プロマネとしてすべて巻き取って整理することでした。そのうえで、「内部でエンジニアを抱えて開発しなければ、サービスの品質は上がらない」ということを経営陣に訴え続けました。

 藤田も2006年ごろからエンジニアの積極的な募集を社内外で口にし始めていました。徐々にエンジニアが増え始めて、わたしが局長になった2007年前半には、70人くらいの規模にまで拡大しました。

■みんなでアイデアを出し合って、楽しんでサービスを作るというカルチャー

 現在のサービス開発で注意しているのは、とにかく「分かりやすく、使いやすいサービス」にすること。エンジニア目線のとがったものになりすぎないように気を付けています。そのために、開発担当者だけにサービスを黙々と作らせるのではなく、例えば画面遷移がある程度決まった段階でほかの人間にレビューさせるなど、なるべく多くの人の目に触れさせるようにしています。ユーザーインターフェイスは分かりやすいか、表示速度はストレスを感じないレベルか、クリック数が多くなりすぎないかなど、わたし自身も含めて厳しくチェックしています。

 サービスの企画やアイデアを考える人は、案件によって、エンジニアだったり、ほかの人だったりします。例えばアメーバピグは、藤田が「アバターを作ろう」といい出して、それを受け取った現場のエンジニアが「チャットをいまふうに作ったらどうなるだろう」というコンセプトに発展させました。あるアイデアを誰かが放り投げると、いろいろなところからアイデアが重なっていく、という風土がサイバーエージェントにはありますね。

 この風土は、もともといた30人ほどのエンジニアたちが持っていたものです。数年前は正直、エンジニアにとっては厳しい環境でした。事業責任者が「これを作れ」といってきて、厳しいスケジュールでそれをこなしたり、上の人間がシステム要件も分かっていなかったり……。それでも、彼らは「楽しんでサービスを作る」というカルチャーを持っていました。エンジニアを増やしていくにあたっては、このカルチャーを薄れさせず、組織に浸透させていくよう気を付けました。

 具体的には、採用の時点で、「楽しんで、アイデアを出し合って開発していく」というスタイルに合う人しか選んでいません。技術力があるだけではダメです。また、入社後も、「主体的に考えて行動する」人でないと活躍できない組織であるというメッセージを発信し続けるようにしました。

■優秀なエンジニアたちの役に立ちたい

 幸いなことに、アメーバ事業は黒字に転換し、順調に伸びています。でも、常に「えもいわれぬ不安」にさいなまれているのも事実です。慢心してはいけないと考えています。

 新規開発局の局長になったとき、宇佐美(同社 取締役、ECナビ代表取締役社長の宇佐美進典氏)にいわれた言葉をよく覚えています。

 「物事が順調なときは、問題があっても包み隠されてしまう。でも、事業が厳しくなってくると、それまでの問題点が一気に顕在化する。だから、順調なときに、1つ1つ問題をつぶさないといけない」

 事業は順調だけど、だからこそみんなと常にコミュニケーションを図って、風通しの良い組織をつくることを意識しています。

 もちろん、「良い組織」をつくるだけじゃいけない。藤田には「メンバーのモチベーションを上げて、組織を活性化させるのがミッションなんじゃない。成果を出すのがミッションだ」といわれています。仲良し組織をつくるのが目的ではない。でも、良い組織づくりを忘れては、成果は出せないと思っています。

 わたし個人としては「Web業界で専門職の人が自己実現できる組織をつくりたい」という夢があります。それは「21世紀を代表する会社に」という、この会社のビジョンのベースになると信じています。

 わたしはその一端を担えればいい。上に立ちたいとか、出世したいとか、目立ちたいとか……決してそういう気持ちがまったくないわけではないけれど、強くはない。それよりも、「人の役に立ちたい」という思いが強いですね。この会社のエンジニアたちは、本当に優秀な人ばかり。彼らが生き生きと仕事ができるような環境をつくって、彼らの役に立ちたい。わたしは「局長だから、偉い」というわけじゃなくて、ただ単に「マネジメント」という役割を担っているだけなんですよ。

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