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第4回 海外プロジェクト、「最初は逃げるように帰国」

アビーム コンサルティング
マネジャー 松原悟
2008/6/20

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■海外プロジェクトの光と影 光編

 海外プロジェクトに参加することのプラス面とはどんなことでしょうか。私は、自分とは異なるバックグラウンドを持ったメンバーと仕事をすることによって、多様な考え方があることを知ること、また、それが最終的に自己成長へつながるということ、だと考えています。私の経験を1つ紹介したいと思います。

 とある平日の夕方に現地採用のプロジェクトメンバーから「ちょっといまいいか?」とミーティングルームに呼ばれました。彼いわく「会社を辞めることにした」「2週間後を最後の出社日にしたい」「次の会社も決まっている」とのこと。日本では考えられない急な話なのですが、アメリカで従業員が会社を辞めたいといった場合、2週間前の通知(Two-Week Notice)というのは珍しくもないとのこと。そうはいってもプロジェクトとしては、代替メンバーを探してきて、退職する人からの引き継ぎを実施する期間が必要となるため、取りあえず3週間後の退職に延ばしてもらいました。

 もちろん日本でもプロジェクトの途中で会社を去っていく人がいますが、「立つ鳥跡を濁さず」というか、プロジェクトから「代替メンバーが決まり、引き継ぎが終わるまで退社は待ってほしい」とお願いすれば、調整できることが多いように感じます。

 日本でニュースを見ていると、アメリカの企業が何万人単位でのレイオフを実施し、企業が従業員を簡単に切り捨てているように感じたものでしたが、逆もまた同じであるということを感じました。

 面白いと思ったのは彼とのやりとりの中で、プロジェクト期間に限定して契約している契約社員(Contractor)のメンバーの名を挙げ、「彼はContractorだから、ほかにいい条件のプロジェクトが見つかれば、2週間前どころか『今日を最後にしたい』といってくる可能性だってある。気を付けた方がいい」とアドバイスを受けたことです。「今日で最後」という事態が発生し得るということにも驚きましたが、退社の意思を伝えられた同じ面談の中で、その種のアドバイスを受けたのも驚きでした。

 仕事や退職に関する考え方の違いを知るとともに、プロジェクトを運営するに当たって、「メンバーがプロジェクトを去るリスク」というのを常に考えておく必要がある、ということを学んだ事例でした。

 さて、海外プロジェクトにおけるプラス面として、ここ西海岸プロジェクトには大きな「おまけ」がついています。 

 プロジェクトサイトはLAX(ロサンゼルス国際空港)から車で50分程度南東に移動した所にあります。有名なLaguna Beach、New Port Beachも近く、基本的に毎日カラっと晴れていて快適な場所です。滞在しているホテルは、プロジェクトサイトから車で数分、徒歩なら10分の距離です。満員電車に揺られDoor to Doorで1時間かかるのは当たり前という、日本と比べるとだいぶ負担が少ない通勤環境です。

 気候がよいので、週末にはゴルフ、サーフィンなどを楽しんでいるメンバーも多いです。東京近辺でゴルフをするとなれば、会社に通う平日よりも早起きし、車で2時間かけて移動、なんてこともざらですが、ここでは車で数十分圏内にいくつもゴルフ場があります。また、なんといってもプレーフィーが安いのです。日本の3分の1から半値くらいのフィーを払えば、十分に質の高いゴルフ場でのプレーが可能です。

 私は3年ほどゴルフから遠ざかっていましたが、こっちにきて再開しました(スコアの方は相変わらずですが)。ほかの海外プロジェクトに比べて「おまけ」部分が大きく、「恵まれた環境にあるな」とよく思います。

■海外プロジェクトの光と影 影編

 海外プロジェクトにおけるマイナス面を1つ。

 われわれの業界はプロジェクトベースで仕事をしますので、今回の私の渡米はプロジェクトありきの「出張」扱いで、いわゆる「駐在」ではありません。ビザは取得していますが、「出張」ということは、家族を日本に残して現地のホテルに滞在し、1〜2カ月に1回「フライバック」と称して1週間程度帰国するという、私生活をある程度犠牲にした環境に置かれることになります。

 プロジェクトが無事終了すれば帰国します。もちろんプロジェクトが中止になっても帰国です。また、プロジェクト自体は継続していても、自分自身がプロジェクトから解放されれば帰国です。

 つまり、自分がいつまでここにいられるのかという確約はなく、常に不安定な状況下に置かれることになります。「海外に腰をすえ、落ち着いて安定した生活」というわけにはなかなかいかないのが実態です。

 「海外のプロジェクトで働いてみたい」と思い、手を挙げたものの、上記のような事実を突きつけられて断念するというケースは少なくありません。

■まずは結果を出せ

 西海岸プロジェクトはまだ終わったわけではありませんので、約10年前の私の「挫折」のリベンジが達成されるかどうかはまだ分からない状況です。そんな私からで申し訳ないのですが、「自分は帰国子女でも海外留学経験者でもないけど、それでもグローバルプロジェクトや海外のプロジェクトで働きたい」という方にアドバイスを。

・スペシャリティを持つ

 グローバルプロジェクト/海外プロジェクトで欠かすことのできないのが語学力。語学力はあるに越したことはなく、向上のための努力は常に必要です(ちなみに入社当時の私のTOEICの点数は700点弱でした。いまは900点強ありますが、スピーキングが苦手でいまでも苦労しています。要努力です)。

 ただし、コミュニケーションが取れる一定レベル以上であれば、最終的に重要なのは語学力そのものよりも、話をしている内容、中身の問題です。つまり、語学力以外のスペシャリティを持つことが重要になるのです。当たり前ですが、言語はコミュニケーションのツールにすぎないため、クライアントに提供できる「付加価値」がほかにないと話になりません。日本国内のプロジェクトで結果を出せるスペシャリティを持たなければ、グローバルプロジェクト/海外プロジェクトでも結果を出せない、と思います。

・「急がば回れ」――まずは結果を出す

 グローバルプロジェクト/海外プロジェクトで働きたい、という気持ちを常にアピールするのはもちろん必要ですが、それがかなわなくとも与えられた役割をしっかりこなすことが重要です。主張しないと希望はかなえられませんが、結果を出していなければその希望がかなえられることはありません。「石の上にも3年」なのかもしれませんが、結果を出し、認めてもらうための期間がある程度必要だと思います。結果が出ていないのに主張ばかりを繰り返すのは、むしろ逆効果になると思います。

 これらのアドバイスが少しでも皆さんのお役に立てば幸いです。

 次回は中国の北京からプロジェクトの様子をお伝えする予定です。

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筆者プロフィール
1998年アビームコンサルティングの前身であるデロイト・トーマツ・コンサルティングに入社。以後、ERP導入を中心として製造業のクライアントに対するシステム導入プロジェクトに携わる。 2007年より渡米し、現プロジェクト担当。神戸大学卒。
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