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ITコンサルタントが語る! 世界の現場から

 

第8回 海外勤務を乗り切る3つのアドバイス

アビーム コンサルティング
マネジャー 紀本武史

2008/10/17

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その2:楽しもう。しかし、注意深くあれ

 2006年から始まったバンコクのプロジェクトは、PM(プロジェクトマネージャ)以下各メンバーの努力とチームワークで、決して順調ではないものの、何とかプロジェクトとして回っていきました(楽なプロジェクトなど日本でも少なく、難しい案件こそ依頼されがちな弊社の昨今です)。

 そんな中、別の日系企業をクライアントとしたプロジェクト(今度はインドネシア)が立ち上がることとなり、2007年半ばから急きょ、そのプロジェクトに参加することとなりました。

 タイのプロジェクトは、弊社メンバーの人数も多く、またクライアント現地メンバーとも良好な関係であったため、たいへん居心地がよい状態といえました。そのせいか、他国でも自分の力が本当に通用するのか、若干の不安を感じ始めていました。それゆえ、タイと比較して、ビジネス環境、住環境などを含め、数段困難な状況にあるインドネシアのプロジェクトへの参加を前向きな気持ちで決めたのです。

 ここで、インドネシアという国について少し触れたいと思います。

 インドネシアは、BRICsに続く経済新興国の代表国です。イスラム教国家であり、多産国として有名です(世界4位の人口大国です)。かつてはアセアンの雄としてタイ以上にこの地域のけん引役として期待されていましたが、政治腐敗や1997年の通貨危機、その後の暴動によるイメージ低下が引き金となって、経済的には、BRICs、シンガポール、マレーシア、タイの後塵を拝することになってしまいました(2005年World Bank発表による1人当たりのGDPでは、マレーシアのおよそ4分の1、タイの2分の1程度です)。

 日本との関係は、ODA(政府開発援助)の額で測ると、とても身近な存在に感じられると思います。1950年代以降(1970年代を除く)、日本の開発援助受け取り国のトップはインドネシアです(逆にいうと、両国は長らくこの関係から卒業できていません)。

 タイで業務、生活、健康面などで支障なく過ごしてきたわたしは、その経験を生かしながら、比較的スムーズなプロジェクト・スタートを切りました。困難や不便を楽しむ姿勢や余裕もあったのでしょう。

 弊社メンバーはごくわずか、あとはすべて協力会社のメンバーという構成にもかかわらず、チームは順調に作業を遂行していきました。英語、日本語、インドネシア語、タイ語(弊社のタイメンバーも参加したため)が飛び交う賑やかでエネルギッシュなプロジェクトとして始まったわけです。当地クライアントにとって非常に重要な一歩となるテーマ性の高いプロジェクトということもあり、現地メンバーのモチベーション状況もなかなか良いように思えました。

 しかし、プロジェクトが進むにつれて、品質面のばらつきがひどくなってきたのです。メンバーによっては生産性が落ちていました。調べてみると、チームやテーマによって、インドネシア人とタイ人の間で、「理解」や「やる気」の微妙なずれがあり、チームワークが非効率的になっていました。また、インドネシア人が進めるコミュニケーション頻度や密度では、日本人やタイ人に情報が十分伝わりにくいといったケースも浮き彫りになっていました。

 インドネシアは通信状況が決して良好ではありません。電話やメールベースのコミュニケーションがうまく図れないということも、プロジェクトの進ちょく具合に影響を与えていました。メンバー間で、あるトピックの理解のずれが生じることが多々ありました。そうしたケースが積み重なると、プロジェクト全体で大きな誤り(仕様ミスなど)が発生する可能性が高まります。

 停電が頻発する時期もあれば、洪水が起きることもあります。日本ではそうめったに遭遇しない「自然災害」に見舞われ、その結果として、コミュニケーション不全やチームワーク上のミスが徐々に蓄積されていきました。結果として、プロジェクト全体の品質低下やチームのモチベーション低下へとつながっていったのです。

 字面だけを見ると、初歩的な不具合に見えます。タイでの経験で慢心したわたし自身の油断があったのかもしれません。コミュニケーション状況には注意を払うべきだということを痛切に感じました。幸い、当初からとても友好的なムードを持ったプロジェクトであったため、リカバリを行い、つい最近、ようやくシステムの稼働を迎えることができたのでした。

 それぞれの人や国民性、コンサルティング・サービスの各国成熟度などによって当然リソースの質的違いが生じます。そうした違いによる影響を受けずに素早く現場になじむには、「楽しむ」という心構えが大切です。この心構えは、チームビルディングの成否を決めます。しかし、心構えのほかにも、愚直なくらいの注意深さや観察の両立がプロジェクトの運営には重要だと感じたインドネシアの体験でした。

2つ目のLesson Learnt
リーダーが「楽しみながら」仕事をすれば、メンバーもなじみやすい
しかし、注意深くあろう。よく周りを見つめよう

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