第1回 新人あら太君、お客さま訪問に遅刻する?
ナレッジエックス 中越智哉
2008/5/12
■あら太君、初めてのお客さま訪問
この日から、しんじ君はあら太君のメンターとして、会社のルールや開発業務の進め方などを指導することになりました。これまでは自分が周囲に質問するばかりだったしんじ君ですが、慣れない役回りに苦労しつつも、何とかメンターの仕事をこなしています。
ある日、しんじ君はプロジェクトリーダーの鮫島さんに呼ばれました。
しんじ君 | 鮫島さん、お呼びですか。 |
鮫島さん | ああ、しんじ君、悪いね。明日のナレッジ商事さんの打ち合わせなんだけど、別のプロジェクトの設計がかなり難航してて、ちょっと私が行けそうにないんだ。 |
しんじ君 | そうなんですか、鮫島さん、大変ですね。 |
鮫島さん | うん、そっちのプロジェクトは納期が厳しくて、これ以上遅らせることができないんだ。しんじ君、ナレッジ商事さんのいまのプロジェクトの内容は、それなりに分かるだろう? |
しんじ君 | え、ええ、鮫島さんほどではないですが、それなりには……。 |
鮫島さん | じゃあ、悪いんだけど、私の代わりに打ち合わせ行ってきてくれるかな? ナレッジ商事の遠藤さんも忙しいらしくて、延期しちゃうと、次はいつアポを入れられるか分からないんだよ。 |
しんじ君 | はい、分かりました。時間は何時からですか? |
鮫島さん | 2時から。まあ1時ぴったりに会社を出れば間に合う感じかな。 |
しんじ君 | そうですね。うちからナレッジ商事さんまでは、だいたい1時間弱ですよね。 |
鮫島さんもしんじ君も、ナレッジ商事をよく訪問しているので、移動にかかる時間はだいたい把握しています。
鮫島さん | あ、そうそう。坂上君も連れてってくれってさ。麻根主任もあいさつがてら同行してくれるそうだから。 |
しんじ君 | は、はい。 |
そんなわけで、しんじ君はあら太君のところへ行き、明日の訪問について伝えました。
しんじ君 | 坂上君、ちょっといいかな。 |
あら太君 | はい、何でしょう先輩。 |
しんじ君 | (いまどき、会社で「先輩」とか呼ぶのはテレビドラマの中くらいだろう……)あ、明日なんだけど、打ち合わせに同行してもらえるかな。 |
あら太君 | はい、時間は何時からですか。 |
しんじ君 | 2時からだよ。1時ちょうどに会社を出発するから、そのつもりでよろしく頼むよ。 |
あら太君 | はい! |
■お客さま訪問に出発! なのに、あら太君がいない?
そして、翌日の昼になりました。しんじ君は昼食から戻った後、打ち合わせの資料や外出用のノートPCなどを準備して、1時少し前に麻根主任のところへ行きました。
しんじ君 | 麻根主任、そろそろ時間ですね。 |
麻根主任 | そうだな、そろそろ行くか。あれ、ところで坂上君はどうした? |
しんじ君 | あ、そういえば、戻ってないですね……。 |
麻根主任 | 出発時間、彼にちゃんと伝えた? |
しんじ君 | ええ、1時ちょうどに出発っていったのですが。 |
麻根主任 | もしかして、先に1階まで降りて待ってるかもしれないな。われわれも下まで行くか。 |
しんじ君 | はい。 |
2人がオフィスを出て、エレベータホールでエレベータのボタンを押そうとしたとき、1台のエレベータが到着しました。中から出てきたのはあら太君です。
あら太君 | はっ、麻根主任、中山先輩! すみません、でも、何とか間に合いました。いまちょうど1時だから、ギリギリセーフですよね? |
麻根主任 | セーフなもんか。1時出発だぞ、いま戻ってきて、いますぐ出られるのか? |
あら太君 | 大丈夫です、このまま行けます! |
しんじ君 | でも、坂上君、カバンは? 名刺は持ってる? |
あら太君 | はっ、そうか、取ってきます。名刺も机に入れっ放しでした。 |
しんじ君 | で、どうして遅れちゃったの? |
あら太君 | あ、実は、今日食べに行った店が込んでまして……。昨日、テレビで紹介された○○って店なんですが、すごい行列で……。 |
麻根主任 | ……。まあいいから取りあえずカバン取ってきて。駅まで速歩きだな。 |
あら太君 | はい! |
■しんじ君、あら太君にアドバイスを試みる
出発に少々手間取ったものの、しんじ君たちはナレッジ商事には遅れることなく到着できました。打ち合わせも無事に終え、夕方には会社へと戻ってきました。
しんじ君は打ち合わせの議事録をまとめてナレッジ商事の担当者である遠藤さんにメールで送信しました。
ほっと一息ついたとき、しんじ君は出発のときのあら太君とのやりとりを思い出しました。メンターとしては、アドバイスをしてあげるべきところでしょう。しんじ君はあら太君を席に呼びました。
あら太君 | 先輩、何でしょう。 |
しんじ君 | うん、昼のことなんだけど……。 |
あら太君 | あ、あの店のことですか? あそこは待たされたけど、待たせるだけあって、ホントにおいしかったですよ! |
しんじ君 | いや、そうじゃなくて……。麻根主任のおっしゃった話だよ。1時出発なんだから、1時までに出発できる準備ができてないといけない、ってこと。学生じゃないんだから、1時に教室に戻ってればいいってわけじゃないんだよ。 |
あら太君 | あ、はい……。でも注文した料理が出たのが12時50分くらいだったので、急いで食べたんです。 |
しんじ君 | そ、そうなんだ……。いや、その前に、そんなに行列してる店にわざわざ今日行かなくてもよかったんじゃないかな。 |
あら太君 | そうですよね……。でも、昨日テレビを見てたらどうしても食べたくなって、つい。 |
しんじ君 | ……。まあ、気持ちは分かるけど、次からは気を付けて。 |
あら太君 | はい、先輩! |
あら太君はそういうと、席へ戻っていきました。
一応メンターとしてアドバイスを行ったつもりのしんじ君でしたが、何となく消化不良な気分でした。
しんじ君 | 後輩社員にアドバイスをするのって、想像以上に難しいんだなあ。自分のいいたいことは、あら太君に伝わったのかなあ。 |
しんじ君は、メンターという役割の難しさをあらためて感じていました。同時に、去年の自分がそうだったように、周囲の助言によってあら太君が成長していくのだと考えると、しっかりやらなければいけないと身の引き締まる思いがするのでした。
今回のインデックス |
しんじ君、新人あら太君のメンターになる |
あら太君、初めてのお客様訪問。なのに? |
筆者プロフィール |
中越智哉●北海道出身。北海道大学大学院電子情報工学専攻修士課程修了。在学中はJavaとLinuxに熱中。卒業後、Javaの仕事にあこがれ、1999年にテンアートニ(現・サイオステクノロジー)に入社。Java の受託開発案件や教育事業、コンサルティングなどを幅広く担当した後、2006年2月に同社を退社。同年3月にナレッジエックスを設立。 JavaをはじめとするIT開発技術の教育に奔走する。趣味は自転車と草野球、そして毎日欠かさない耳かき。 |
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