コラム:自分戦略を考えるヒント(23)
新人が「仕事の壁」を乗り越えるポイントは?
堀内浩二
2005/9/22
■いまぶつかっている仕事の壁
こんにちは、堀内浩二です。先日お話ししたのは今年社会人になった千葉さん(仮名、23歳、男性)です。勤務先は社員数20人のベンチャー企業で、現在は先輩エンジニアと2人で開発プロジェクトにほぼ常駐しているとのことでした。技術的な問題を相談できる相手がいないことで悩んでいます。
堀内 いまはどんなプロジェクトにいるんですか。
千葉 ある企業のWebアプリケーションを作っています。先輩がプロジェクトマネージャをやっていて、僕と他社からのプログラマさんが3人くらいです。僕の担当は画面周りのところで、言語としてはPHPとHTML、JavaScriptがメインです。実はいま、僕が原因で進ちょくが遅れてしまっていて……。
■その原因を自分で考えると
堀内 原因というと?
千葉 要するに技術スキルが低いということになるんでしょうが、そもそもプロジェクトで画面周りをやっているのは僕だけなんですよ。詳しい人もいないので、1度分からないことが出てきちゃうと、すごい時間のロスになりますよね。
堀内 プロジェクトメンバーからのアドバイスはありますか。
千葉 先輩は技術に詳しいわけではないので、「検索してみた?」「本なら買っていいよ」といわれて終わり、ということが多いです。プロマネの先輩はプロマネ経験が初めてで、自分の仕事に必死という感じです。他社のメンバーは「技術的には可能なはず」とはいってくれますが、「どうやって」という部分ではやはり詳しくないですね。というよりも、そもそも担当外のことにはなるべくタッチしないようにしているみたいです。
大学のときの同期の話を聞くと、研修とか社内勉強会とかをやっている会社もあって、正直焦りますね。やっぱり勉強するチャンスがないと、自分の成長もないじゃないですか。
堀内 ご自分でも勉強はされているんでしょう?
千葉 もちろんですよ。週末に家でいろいろ調べたり試したりしておかないと、スケジュールが遅れる一方ですからね。
堀内 大体分かりました。確かに、聞ける人がいないことでプロジェクトの生産性も落ちますし、千葉さんも不安ですよね。ただ、他人事みたいで恐縮ですが、「自分を伸ばすチャンスのまっただ中にある」という印象を強く持ちました。技術的なアドバイスは差し上げられないと思いますが、仕事で壁に当たったときに気を付けるポイントならいくつかお話しできそうです。
■問題解決のメソッドを身に付けること
千葉 ぜひお願いします。
堀内 1つ目は、エンジニアリングは問題解決の積み重ねですから、自分なりに問題解決のメソッドを身に付けること。「自分なりに」とはいっても、問題解決には「王道」があります。@IT自分戦略研究所の「「問題解決力」を高める思考スキル」という連載の第6回で「課題解決のステップ」として紹介されていますよ。類書も多いので、相性の良い本を探すのも手です。
自分なりのメソッドを持つと、まず「迷子になる」ことが少なくなります。
千葉 迷子?
堀内 どこから手を付けていいのか分からずに、途方に暮れてしまうこと(笑)。混乱してくると、どこまで分かっていてどこから分かっていないかも分からなくなってしまいますからね。さらに、自分の思考の過程を他人に説明しやすくなりますし、自分のメソッドと比較しながら理解することで、新しいメソッドも学びやすくなります。
千葉 でも、メソッドを持っていても知識がなければバグは取れないですよね(笑)。僕の場合は絶対的に技術の知識が足りないと思うんですよね。
堀内 そうですね。仕事上必要な知識は身に付けなければなりません。ただ、問題解決のメソッドを持つことで、例えば目的に立ち戻って考えることができるようになります。目的が明確であれば、優先順位が付けられるようになりますし、ほかの手段を探すこともできるようになります。
以前、全社プロジェクトの一部として帳票印刷のアーキテクチャを考えたことがありました。夜間に出力される帳票をビル内の適切な部署のプリンタに遠隔出力するのですが、とても時間がかかってしまうんです。全体の処理時間に影響のある要素は、例えばバッチプログラムのパフォーマンス、ジョブスケジューリング、ネットワーク設計、プリンタの性能などさまざまですよね。そのときのわたしも、千葉さんと同じで、それぞれの技術に詳しい人がいなくて困りました。
■具体的な解決策
千葉 で、どうされたんですか。
堀内 技術的な観点からは処理能力を上げることで解決を図るべきですが、帳票自体を減らしても同じ効果は得られますよね。そこで、大量に・あるいは頻繁に出力されている帳票や、遠隔出力の必要性が低そうな帳票については見直しをお願いしました。
結果的には、詳しい人をつかまえてパフォーマンス分析をしてもらったり、一部のプリンタを買い替えたり、さらには出力する紙の量を減らしたり、一部遠隔出力をあきらめたり、いくつかの打ち手の合わせ技で何とか解決できました。
千葉 技術力があれば、技術の問題として解決できたということはないですか。
堀内 あると思います。そういう意味ではとても「スマート」とはいえません(笑)。ただ実際には、知識や人材や時間や予算など、いわゆるリソースはいつも不足がちなものです。自分の技術力やサポート不足などは将来解決すべき問題として覚えておいて、現在のプロジェクトでは、目的を達成するためにそのとき使えるリソースをフル活用するしかありませんよね。
■周囲を巻き込むこと
堀内 2つ目は、「周りを巻き込む」ことです。プロジェクトにおける問題の多くは、それが難しい問題であるということよりは、その問題が適切に現場から上げられていかないところから始まると思います。
1つ目の話と重なりますが、ある目的を達成する打ち手は1つではないわけです。千葉さんにとって「難しい」問題ならば、もしかしたら別の方向性を試す方がいいのかもしれない。ところが、上司が千葉さんの仕事に無関心だったり、批評家的な態度だったりして放置していると、千葉さんが解決できないからという理由でプロジェクト全体が遅れてしまう。
千葉 ちょっとそんな感じになっている気もします。具体的にはどうしたらいいですか。
堀内 うーん、千葉さんは新人なので上司の方もきっと意識してケアしてくださっているとは思いますが、一般的には、いわゆるホウレンソウ(報告・連絡・相談)というやつで、コミュニケーションをこまめに取るところからでしょうね。
■意外と効用がある日記を付けること
仕事の壁を乗り超える3つ目のポイントは、ぐっと具体的になりますが「日記を付ける」ことです。
千葉 はあ。あんまり日記で問題が解決できるようには思えないんですけど。それに日報は書いてますよ。
堀内 日報でも用が足りるかもしれません。日記というよりは作業メモというイメージなのですが、行き詰まるときというのは、往々にして思考が堂々巡りになってしまいます。書きためていくことでそれを防ぎ、壁を乗り越えるヒントがつかめると思います。
千葉 堀内さんはメモを付けていましたか。
堀内 はい、会社でも推奨フォーマットはありましたが、わたしは基本的に
- 事実
- 疑問
- アイデア
のようなマークを付けて、時系列にずらずらと書いていました。
日記を後から振り返ることで「壁」の正体が分かることがある、という効用もあります。純粋に技術的な知識不足のこともあれば、チーム体制に問題があったのだなと気が付くこともあるでしょう。プロジェクトごとにノートを変えていけば、将来貴重な財産になると思いますよ。
筆者紹介 |
堀内浩ニ●アーキット代表取締役。早稲田大学大学院理工学研究科(高分子化学専攻)修了。アクセンチュア(当時アンダーセンコンサルティング)にて、多様な業界の基幹業務改革プロジェクトに参画。1998年より米国カリフォルニア州パロアルトにてITベンチャーの技術評価プロジェクトに携わった後、グローバル企業のサプライチェーン改革プロジェクトにEビジネス担当アーキテクトとして参画。2000年に帰国、ソフトバンクと米国VerticalNet社との合弁事業において技術および事業開発を担当。 |
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