第3回 新人あら太君、質問したいのに先輩は忙しそう……
ナレッジエックス 中越智哉
2008/7/9
■問題発生。でも忙しい先輩には聞きづらい……
こうして2〜3日は、あら太君はしんじ君にほとんど質問することなく、疑問点を自分で解決することができていました。
ところが数日後のある日、あら太君がいくら調べても解決方法のきっかけすら分からないような問題が起こってしまいました。以前のあら太君であれば、真っ先に隣を見て、しんじ君に質問を投げ掛けるところです。
しかし、久しぶりに質問しようとしんじ君の方を見ると、しんじ君はう〜んとうなりながら実装作業をしていたり、ほかのメンバーと設計内容の修正をしていたりと、とても忙しそうです。
しんじ君のそんな様子を見て、あら太君はどうしても質問をすることができませんでした。しんじ君も自分の作業に忙しく、あら太君が悩んでいることに気が付いていませんでした。
夜になり、これ以上考えても無理だと思ったあら太君は、明日引き続き考えることにして帰宅しました。帰り際にしんじ君に進ちょくを聞かれたのですが、
しんじ君 | あら太君、進ちょくの方は順調かい。 |
あら太君 | はい、先輩、何とか大丈夫です。 |
しんじ君 | そうか、順調なら良かった。お疲れさま。 |
と、作業が止まってしまっていることをいい出せずにいました。
■納期間近。なのにあら太君の担当部分ができていない!
納期も間近に迫ったある日。自分の作業が何とか一段落したしんじ君は、あら太君の作業がまったく進んでいないことに気が付きました。
しんじ君 | あら太君、最近作業があまりはかどっていないようだけど、大丈夫? |
あら太君 | は、はい、大丈夫です、もうすぐできると思います。 |
しんじ君 | そうなの? じゃあ、完成しているコードを見せてもらえるかな。 |
あら太君 | は、はい、これです。 |
しんじ君はコードを眺めてみました。すると、本来なら数日前には完成していなければならないはずのコードが、まったく完成していません。
しんじ君 | あら太君! ぜんぜん進んでないじゃないか。納期までもう時間がほとんどないのに、どうしてこんな状態で放置していたの? |
あら太君 | いえ、放置していたわけではないんです。僕もいろいろ調べて、何とか自分で解決しようと思ったんですが、どうしてもできなくて。 |
しんじ君 | そういうことはきちんと報告しないとダメだよ。いまからじゃ間に合うかどうかも分からないじゃないか。ホウレンソウって研修で習ったろ。 |
あら太君 | で、でも僕だって先輩のためにと思って精いっぱい頑張ったんですよ! 先輩は忙しそうだから、なるべく質問もしないようにって! |
しんじ君 | そ、そうなの? でもさあ……。 |
そんな2人の様子に気付いたリーダーの鮫島さんが、席にやってきました。
鮫島さん | おいおい、納期も間近なのにそんないい争いをしていてもしょうがないだろ。まずは、目前のコードを何とかするんだ。2人で。 |
しんじ君 | は、はい、そうでした。あら太君、取りあえずコード内容を一緒に追いかけてみて、分担できそうなところは分担しよう。 |
あら太君 | はい、先輩。 |
何とか遅れを取り返そうと、しんじ君とあら太君はその夜と翌日の1日いっぱい、ひたすら作業に没頭しました。その甲斐もあって、ぎりぎりで納期に間に合わせることができました。
あら太君 | さすが先輩、僕が悩んでいた部分もすぐに解決しちゃいましたね。 |
しんじ君 | ま、まあね、たまたま僕も似たような部分で悩んだ経験があるから、すぐ分かっただけなんだけどね。 |
■後輩はきちんと報告。先輩は後輩の進ちょくを確認すること
こうして無事に難局を乗り越えたしんじ君とあら太君を、帰り際に、麻根主任が席に呼びました。
しんじ君 | 麻根主任、お呼びでしょうか。 |
麻根主任 | うん、君たちのことは鮫島君から聞いたよ。坂上君、自分で調べて解決して先輩に時間を使わせないようにするのは、とてもいい心掛けだ。 |
あら太君 | はい、ありがとうございます。 |
麻根主任 | しかし、それにも程度というものがある。自分の作業が止まってしまって納期に遅れたら、自分だけでなくほかのメンバーにも影響してしまうぞ。 |
あら太君 | はい……。申し訳ありません。 |
麻根主任 | 本当に困っているときは、遠慮なく先輩社員に聞いてみなさい。そして、報告時には都合の悪いことでもきちんと報告すること。 |
あら太君 | は、はい、分かりました! |
麻根主任 | それと、しんじ君。 |
しんじ君 | はい、何でしょうか……。 |
麻根主任 | 君も、メンターなんだから坂上君の面倒をきっちり見てやってくれよ。順調ですと報告されたからといって、何も確認しないのでは、こういう事態に気が付くことはできない。報告を受けたら、どの程度の進ちょくなのか、きちんと確認しなければダメだ。できればソースコードの中身も確認して、自分自身で進ちょく度合いを判断しないといけない。 |
しんじ君 | は、はい、分かりました。 |
麻根主任 | まあ、何とか納期にも間に合ったし、2人ともよくやった。今日は帰ってゆっくり休みなさい。 |
しんじ君・あら太君 | はい。 |
ちょっとぶつかったしんじ君とあら太君ですが、麻根主任の言葉もあってか、いままで以上に信頼関係が深まったようです。
あら太君 | 先輩、今日はもう遅いですし、一緒にご飯でも食べていきませんか? 僕、こないだ結構おいしい店を近くで見つけたんですよ。 |
しんじ君 | へえ、そうなんだ。じゃあ行ってみようか。 |
あら太君 | 結構行列する店なんですけど、いいですか? |
しんじ君 | 大丈夫、今日はこの後もう何もないから、気にすることないよ。 |
あら太君 | そうですよね。そうと決まったら行きましょう! |
2人は仲良く肩を並べて、オフィスを出て行きました。
今回のインデックス |
自分で調べることを(やっと)覚えた新人あら太君 |
どうしても分からない! でも先輩には聞きづらい…… |
筆者プロフィール |
中越智哉●北海道出身。北海道大学大学院電子情報工学専攻修士課程修了。在学中はJavaとLinuxに熱中。卒業後、Javaの仕事にあこがれ、1999年にテンアートニ(現・サイオステクノロジー)に入社。Java の受託開発案件や教育事業、コンサルティングなどを幅広く担当した後、2006年2月に同社を退社。同年3月にナレッジエックスを設立。 JavaをはじめとするIT開発技術の教育に奔走する。趣味は自転車と草野球、そして毎日欠かさない耳かき。 |
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