@IT自分戦略研究所
第1回 読者調査結果発表
〜ITエキスパートの自分戦略と実行プランを大公開!〜
小柴豊
アットマーク・アイティ マーケティングサービス担当
2003/6/11
当サイト(@IT自分戦略研究所)の名前を聞いたとき、「自分戦略って何だ?」と思う人がいるかもしれない。アットマーク・アイティ代表取締役の藤村厚夫は、自分戦略とは、「自身の内側に宿るビジョン(自分はいったいどうありたいのか)を、現実の場を通じて実現していくための方法」と定義している。ではITエキスパートは、スキルやキャリアにどのようなビジョンを持ち、その実現のためにどんなアクションを起こしているのだろうか? @IT自分戦略研究所が今年3月から4月にかけて実施した第1回読者調査から、その状況をレポートする。
現在のスキル、キャリアに8割が“不満”
ITエキスパートの自分戦略を理解するために、その背景となるスキル/キャリア意識を見てみよう。まず読者が自分のスキルやキャリアに、現在どの程度満足しているのかを聞いてみた。それによると、全体の約8割が「満足していない(「あまり満足していない」+「まったく満足していない」の合計)」と答えている(図1)。
図1 現在のスキル/キャリアへの「満足度」(N=452) |
ではITエキスパートは、自分のスキル/キャリアにどのような問題意識を持っているのか。 図2は、読者がスキルやキャリアに関して、現在満足していない「課題」と感じている点を、複数回答で聞いた結果だ。全体の約5割が、現在の職務を行ううえで十分な「技術スキルが身に付いていない」を選択した。さらに、「ビジネス/ヒューマンスキル不足」「現職(現在の職務環境)では、(自分の望む)スキル/キャリアアップができない」が、トップ3の課題として挙げられた。
全体的に見ると、人間関係や地位などの外的要因(他者との関係)よりも、スキルレベルなどの内的要因に、ITエキスパートの課題意識は向けられているようだ。
図2 現在のスキル/キャリアに関する「課題」(N=452、5つまでの複数回答) |
自分の能力を発揮できる会社で働きたい
ところで図1の満足度と、図2の課題の間にはどんな関係があるだろうか。現在のスキル/キャリアに満足している読者と不満足な読者の課題意識を比較し、ITエキスパートの意識をさらに探ってみよう。
ここでは現在のスキル/キャリアに「大変満足している」または「おおむね満足している」読者を“満足派”、「あまり満足していない」「まったく満足していない」読者を“不満派”と分類したうえで、それぞれの課題を再集計した。
両者の回答ギャップの比率が大きい順に課題項目を並べ替えたところ、最もギャップの比率が大きいのは、「現職(現在の職務環境)では、(自分の望む)スキル/キャリアアップができない」であり、それに「個性や適性を生かした仕事ができない」が続いている(図3)。
前述のように技術やビジネス/ヒューマンスキルの向上はITエキスパート共通の課題だが、その課題を追求できるような(=実務がスキルアップにつながる/個性を発揮して働ける)職場環境に身を置けるかどうかが、職業的な満足度に大きく影響しているようだ。
ITエキスパートにとって、「スキルの向上」と「キャリアの選択」は、別々ではなくトータルに考えるべき戦略課題であるといえる。
図3 スキル/キャリアに関する課題:現状満足度別(5つまでの複数回答) |
現状維持ではなく“自己変革”
ここまで見てきたとおり、ITエキスパートはスキルやキャリアに関して高い問題意識を持っていることが分かる。では、こうした現状に、彼らはどう対応しようとしているのか?
読者に今後のスキル/キャリアに関するビジョンやプランの保有状況を尋ねたところ、「スキルやキャリアに関して具体的なプランを立てている」のは、全体のわずか15%だった(図4)。
しかし、「(具体的なプランはないが)何をしたいか/どうなりたいかというビジョン(構想)はある」(46%)、および「特にビジョンやプランは持っていないが、その必要性は感じている」(36%)との回答が多いことからも、自分戦略の策定に前向きな読者の姿勢がうかがえる。不満と課題に満ちた現状に対するITエキスパートの意識は、現状維持ではなく“自己変革”に向かっているようだ。
図4 読者の「自分戦略」構築状況(N=452) |
では彼らの自分戦略とは、具体的にどのような内容なのか? もちろん、その中身は個人のスキルやキャリア、そして価値観にもかかわってくるので一概にはいえない。100人のITエキスパートがいれば、100通りの答えがあるからだ。従って、数字で表すような結果は示せないが、参考までに読者のコメントから、特徴的な意見をピックアップしてみよう。
「スペシャリスト」か「プロマネ」志向に二極化
主に20代前半〜中盤の読者からは、「スペシャリスト」志向と「プロジェクト・リーダー/プロジェクト・マネージャ」志向に関するビジョンが、数多く寄せられた。特定分野の技術スキルの習得に集中し、スペシャリストとしての自己を確立したいと考えるのは、若手エンジニアとして自然な意識といえる。また日ごろのプロジェクトで接するリーダーやマネージャ層は、キャリア目標として最も身近な存在であるに違いない。
読者のコメントより | |
|
一方、20代後半から30代以降の読者のビジョンを見ると、「技術スキルだけでは不十分」という意識が共通している。技術に加えて業務/経営などのビジネススキルを習得したうえで、社内でキャリアアップや顧客へのコンサルティング、独立起業といった、より具体的な目標に向かう読者が多いようだ。
読者のコメントより | |
|
自己投資は受け身ではなく能動的
では上記のようなビジョンを実現させるために、ITエキスパートはどんな行動を起こしているのか? スキルアップとキャリアアップの両面から、確認していこう。
まずスキルアップのために実施していることは、「スキルアップ関連Webサイトの閲覧」「スキルアップ関連書籍や雑誌購読」といった情報メディア関連のポイントが高く、現在は“受動型”のスキルアップが中心となっている(図5青棒)。
一方、読者が今後実行したいアクションでは、「資格の取得」がトップに挙げられたほか、「勉強会/セミナーや集合研修/eラーニング」といった“能動型”のスキルアップへの関心が高いことが分かる(図5黄棒)。能動型は受動型に比べて時間/費用がかかることが多いが、そうしたリスクを取ってでもスキルアップを目指す傾向が強まっているようだ。
図5 スキルアップ行動の状況(複数回答 N=452) |
次にキャリアアップについて見てみよう。読者が現在キャリアアップのために実行していることを尋ねたところ、「希望職務に就くための自主的な学習=“座学”」が中心であることが分かった(図6緑棒)。それに対して今後実行したいことは、「キャリアビジョンの明確化」「ビジョンに基づくキャリアプラン作成」および「スキルの棚卸し(点検)などの自己分析」の3点が、ほかを大きくリードして上位に挙げられた(図6黄棒)。
これらは、キャリアアップにおける「分析/設計工程」であるといえる。現代のシステム構築では、市場や顧客ニーズの変化に柔軟に対応するための反復型/アジャイル開発方法論が注目されているが、これらの方法論は(システム構築同様)不透明で変化が激しい現代のキャリアアップ行動にも応用できるかもしれない。次のキャリアを設計するうえで、あなたはどのような要件を定義するだろうか。
図6 キャリアアップ行動の状況(複数回答 N=452) |
ITエキスパートの4割は転職に前向き
キャリアアップといえば、社内での職務転換や昇進のほかに、環境を大きく変える手段として「転職」がある。そこで読者に転職意識を尋ねたところ、現在転職を考えているのは全体の38%(「半年以内の転職を考えている」「1年以内の転職を考えている」「(時期は未定だが)近い将来の転職を考えている」の合計)であった(図7)。
また現在は転職を考えていないが、「良い話があれば考えてみたい」という“転職潜在層”も41%に達しており、ITエキスパートの人材流動化が進んでいることが分かる。
図7 読者の「転職志向」(N=452) |
ではITエキスパートが転職したい会社の条件とは何か? 転職先を選ぶ際に重視する点を聞いたところ、「給料/年収」やそのほかの待遇条件よりもポイントが高いのは、「優れたエンジニアと共に働ける」ことだった(図8)。
前述のように、スキル/キャリアについての課題として、「現職(現在の職務環境)では、(自分の望む)スキル/キャリアアップができない」ことを挙げる読者が多かった(図2・図3)。実際、職務環境の中で“人”が占める意味は大きい。OJTとしての“師匠”を求める場合もあるだろうが、スキルアップを至上命題とするITエキスパートにとって、互いに切磋琢磨(せっさたくま)できる“同志”との出会いこそ、モチベーションの源泉となるのではないだろうか?
今回の調査でも、「プロ意識のない現在の職場にはへきえきとしている。親会社の看板と外注とのなれ合いの中に身を置いていては、自分が駄目になる。転職活動を開始すべく、資金準備と座学を進めている」という読者からのコメントも寄せられている。
図8 転職先選択時に重視する点(5つまでの複数回答 N=452) |
以上、第1回目の読者調査結果を紹介してきたが、スキル/キャリアに関する読者の真摯(しんし)な問題意識と変革への意思を、あらためて確認することができた。@IT自分戦略研究所では、こうしたITエキスパートの自分戦略策定と実現をサポートするコンテンツ、サービスを、今後とも拡充していく予定だ。ご意見、ご希望、ご批判などあれば、jibun@atmarkit.co.jpまでご連絡いただきたい。
調査概要 | |
調査方法 | @IT自分戦略研究所からリンクした Webアンケート |
調査期間 | 2003年3月27日〜4月18日 |
有効回答数 | 452件 |
@IT自分戦略研究所は2014年2月、@ITのフォーラムになりました。
現在ご覧いただいている記事は、既掲載記事をアーカイブ化したものです。新着記事は、 新しくなったトップページよりご覧ください。
これからも、@IT自分戦略研究所をよろしくお願いいたします。