ITエンジニアにも重要な心の健康
第27回 全員に認めてもらえなくてもいい
ピースマインド
カウンセラー 田中貴世
2006/6/2
エンジニアにとっても人ごとではないのが心の健康だ。ピースマインドのカウンセラーが、毎回関連した話題を分かりやすくお届けする。危険信号を見逃さず、常に心の健康を維持していこう。 |
■「付き合いにくい人」から自分を守る
もしも職場にこんな人がいたら、あなたはどうしますか。
- 自分にできることは他人にもできると思い込み、自分のやり方を他人に強要する人
- 部下に仕事を任せずに抱え込んでいる人
- いつも自分が話題の中心にいないと機嫌が悪い人
- 自分の意に沿わない行動を取る他人を、30分もしかる人
- 相談を持ちかけるとまず「バカだなぁ」という人
- はしの上げ下ろしのような細かいことにも口を挟んでくる人
こんな人が身近にいたら、誰でもうんざりして「付き合いにくい人だな」と思うことでしょう。あなたの職場にも程度の差こそあれ、上記のような行動を取る人や、似たようなタイプの人はいませんか。こんな言動を取る人が最近増えてきたように感じるのは、気のせいでしょうか。
現代日本社会の居心地の悪さ、ギスギスした人間関係、出口の見えない閉そく感、子どもが育つ家庭内での人間関係の変質、それらが相まって「付き合いにくい人」を生み出す土壌となっているようです。
病的なレベルではなくても、他者との適切な距離が取れず、ひどく利己的になったり、攻撃性をあらわにしたりする人がいます。そんな人と職場で出会ってしまったら、あなたはどんな行動を取りますか。
「付き合いにくい人」との人間関係に振り回されて、それまでの順調だった人生が一転してしまったり、煩わしさのあまり精神に変調を来してしまったりする例もあるのです。職場の対人関係のトラブルであなた自身の心の健康が失われないためにも、あなたにとっての「付き合いにくい人」とは適切な距離を取ることが必要になります。
■パワーハラスメントが投げ掛ける問題
最近話題になっているパワーハラスメントを例にしてみましょう。
パワーハラスメントの定義: 職権などのパワーを背景とし、本来の業務の適正な範囲を超えて継続的に人格や尊厳を侵害する言動を行い、就労者の働く環境を悪化させる、あるいは雇用不安を与えること |
パワーハラスメントでないもの: ・社会的常識の範囲内(マナー違反、常識のない行動などへ)の注意 ・本人の能力、意欲不足への苦言 ・戦略、マネジメント方針の食い違い ・評価、人事異動など会社方針による処遇 |
パワーハラスメントであるかどうか疑わしいものは、被害者が訴えた時点で、中立な第三者が判別する必要があります。
明確にパワーハラスメントと判断されたものには、以下の6つのレベルがあります。
パワーハラスメントのレベル: 1.刑法などの法律的問題 傷害、暴行、脅迫、侮辱など刑法に触れるもの。税法、商法などへの違反行為の強要など 2.労働法上の問題 解雇、サービス残業、セクシャルハラスメント、不当な扱いなど 3.健康管理上の問題 加害者の意図は関係なく、うつなどの病人が出ており、労働安全上大きな問題となる可能性があるもの 4.マネジメント上の問題(意識的ハラスメント) 加害者が悪意を持って、意図的に攻撃や排除をしているもの。その結果被害者の能力が低下し、心理的に悪い影響を受けている。職場風土も悪い 5.マネジメント上の問題(無意識的ハラスメント) 加害者にハラスメントの意図はないが、被害者の能力が低下し、心理的に悪い影響を受けているもの 6.マネジメント上の問題(誤解ハラスメント) 被害者に対して就労に必要な教育がなされていず、コミュニケーションが不十分だった結果、ハラスメントだと誤解されているもの |
これらのパワーハラスメントは、就労者に対する教育を広く行うことで予防することが可能です。あなたの職場では、パワーハラスメント予防のため、社員に向けての正しい情報の周知や啓もう活動が実施されているでしょうか。
パワーハラスメントの被害者は、恐怖や混乱のために判断力が低下してしまっています。そのうえ、「こんな言動をされるのは、私の方にも悪いところがあるからだ」と感じている人がかなりいるのです。だからこそ、しかるべき部署の設置やカウンセラーの活用など、第三者の介入が必要となります。
パワーハラスメントを放置するような職場では、個人のモチベーションやパフォーマンスの低下(怒り・悔しさ・不安・絶望感から不眠・胃痛・下痢などの身体症状が現れ、ミスなどの仕事上の影響が起こる)や、2次的ハラスメント(職場内で密告者捜しをして人間関係がさらに混迷する、セクシャルハラスメントからパワーハラスメントに移行するなど)を招くことになります。
直接の被害者でなくても、その職場で仕事をしたくないと思う人が出てくることも予想され、人材の流出や、職場の士気の低下の可能性を高めることになります。このようにパワーハラスメントは、職場の全員にとって無視できない状況を生むことになります。
■職場の人間関係には、冷静な「大人の部分」で対処を
パワーハラスメントと定義されない程度であっても、「付き合いにくい人」の干渉や攻撃に遭ってしまうことがあるでしょう。この場合も、「自分が悪いのかもしれない」と思ってしまうことによって事態の悪化を招く可能性があります。
冒頭の「付き合いにくい人」の例を思い出してください。例えば、あなたが大ざっぱでダイナミックな人ならば、はしの上げ下ろしにまで口を出してくる上司を煙たく感じるでしょう。はしの上げ下ろし上司からすれば、あなたの大ざっぱな行動が危なっかしくて、口を出さずにはいられない心境なのです。でもあなたが緻密(ちみつ)に細部にまでこだわる人ならば、同じく緻密な部分を持った上司を頼もしく思い、上司もあなたの正確さを高く評価してくれる可能性があります。
要するに、人との関係は相性や取り合わせにより変化するものだということです。これは身近に見聞きすることも多いと思います。職場とは、あくまでも仕事をするところ。人間関係といっても、夫婦や恋人、友人同士の関係とは目的とするところが違います。あなたが職場の全員から好かれ、すべての人と良好な人間関係を築くことは不可能です。あなたと合う人もいれば、合わない人もいます。
その現実を認識しましょう。そうすれば、職務に必要な範囲を超えて相手に好かれようと気を使うことも、思いどおりにならないからといってイライラすることもなくなります。「自分が悪いのかもしれない、おかしいのかもしれない」と自分を責めることもないでしょう。「全員が認めてくれなくていい。半分くらいの人が認めてくれればいいや」と開き直ることで、気持ちが楽になることもあります。
このように少し気持ちに余裕をつくっておいてから、冷静に「付き合いにくい」相手を観察してみましょう。そして相手の良いところは認め、欠点を上手に受け流す。そのうえで、仕事上の交流をスムーズにするためにはどうしたらよいかを考える。それが、職場での対人関係ストレスを減らす方法です。
■「付き合いにくい人」のペースにはまってしまったら
あなたがもし、すでに「付き合いにくい人」のペースにはまっていて、自分のペースを崩してまで相手に合わせている状態に生きづらさを感じていたら、こんなメッセージに耳を傾けてください。
あなたが何をやっても相手が満足しないとき、「何か変だ」と気付きましょう。相手から要求されたことをやり抜いても、やり方が悪いとか、足りないところがあるとか、完全ではないとか、文句をいわれます。さらに努力して相手のいうようにすると、これもダメでまた文句がきます。何をやっても、逆立ちしても、相手は満足しません。
こんなことを続けていると、自分はどこかおかしいのではないかと疑い始め、自分はダメな人間なんだと思うようになってしまいます。最後にはボロボロになり疲れ切ってしまいます。
こうならないためにも、できるだけのことをしたら、相手が何といおうと自信を持ちましょう。できる範囲で最大限の努力をしたことを自分に認め、地に足をしっかり着けて、それ以上動き回らないようにしましょう。相手が満足しないのは相手の問題で、あなたの問題ではありません。
あなたと相手との間に、しっかりと境界線を引きましょう。「ここまでは私の領域で、できる限りのことをやりました。あとはあなたの問題です。私は私の領域の責任を取ります。あなたはあなたの領域の責任を取ってください。私はあなたの責任を肩代わりしません」。そう心の中で明確にすることをお勧めします。
「付き合いにくい人」と仕事上接触しなければならないときは、このようにして心の距離を上手に取りましょう。同時に、近づかない、必要最低限しか話さない、会議のときは離れて座るなど物理的な距離も取るようにし、大切なあなた自身を守っていきましょう。
参考文献など 「パワーハラスメントとメンタルヘルス〜働きやすい職場づくりのために〜」 (研修会、中央労働災害防止協会主催) 『女と男の関係をめぐって』ヘルスワーク協会刊 『スピッティング! 職場のいじめ』日本放送出版協会刊 |
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