第1回 すべてのチームビルディングは「共感」から始まる
ピースマインド
カウンセラー 石川賀奈美
2010/5/31
チームビルディングとカウンセリングには共通点がある。「人の話をきちんと聞く」「相手の立場になって考える」――口でいうのは簡単だが、実行するのは難しい。訓練を受けたプロカウンセラーからカウンセリングで使うコミュニケーションスキルを学び、メンバーとの信頼関係構築、チーム内のモチベーション維持、すみやかな情報伝達のために生かそう。 |
本連載は、「プロジェクトマネージャやリーダー層に向けて、チームビルディングのノウハウを提供する」ことがテーマです。この連載を執筆するのは、プロジェクトマネージャではなくカウンセラーです。「なぜカウンセラーがプロジェクトのチームビルディングについて説明するのか?」と思った方のために、本連載の主旨を説明します。
■「カウンセリング」と「チームビルディング」の共通点
そもそも、「チームビルディング」とは何でしょうか。本連載では、「メンバーの個性を生かし、思いを1つにしてそれぞれが成長し合いながら、目的に向けて効率よく進むチームをつくること」とします。そのため、チームビルディングには「メンバー同士のコミュニケーション」「目的の共有」「メンバーのセルフマネジメント能力」などの要素が必要です。その中でも、「メンバー同士のコミュニケーション」はチームビルディングのベースとなる非常に重要なものです。
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では、「メンバー同士のコミュニケーション」とは、具体的にどのようなものでしょうか。まめに進ちょく報告をしてもらえばいいのでしょうか、それとも、会議をたくさん開いて話す機会を増やせばよいのでしょうか。必ずしもそうではないことは想像がつくと思います。
■「相手のことを考える」――いうは易く、行なうは難し
人間はコミュニケーションを日常的に行っていますが、専門的に学ぶ機会はなかなかないと思います。「人の話をきちんと聞く」「相手の立場になって考える」――口でいうのは簡単ですが、実行するのは難しいでしょう。わたしたちプロフェッショナルとして働くカウンセラーは、「コミュニケーション」の専門家として、さまざまな訓練を受けています。そして、カウンセラーが持つコミュニケーションスキルは、プロジェクトマネージャとメンバー、またはメンバー同士のコミュニケーション、信頼関係の構築に応用できる重要な要素を含んでいます。
これから、プロジェクトマネージャ、リーダー層の技術者がチームをつくる際に必要なコミュニケーションスキルについて、カウンセリングで用いる技術を応用して考えてみたいと思います。どうぞお付き合いください。
■カウンセリングの道は「共感」から始まる
チームビルディングにとって、まず重視すべきは「メンバーとの関係性」です。これはカウンセリングでも同様で、カウンセラーはまず相談者との関係づくりを目指します。信頼関係を築けるか否かが、相談の成否を決めるといっても過言ではありません。そこで大切なのが「共感」です。
共感(共感的理解)は、スキルという言葉ではいい表せないくらいカウンセリングにおいて重要なものです。共感を学ぶため、カウンセラーは多くの時間をかけてトレーニングを重ねます。リーダーの皆さんが共感を心掛ければ、メンバーとのコミュニケーションを良い方向に変化させられるでしょう。
今回は、「共感」とは何か、どのようにすれば「共感」できるのかについてお話しします。
■「説得」じゃ駄目なの? 物別れに終わった会議
新任のプロジェクトマネージャ Aさんは、あるテーマについて会議で議論していたとき、メンバーのBさんから「Aさんの方針には不満がある」といわれました。Aさんは、自分の主張の根拠を丁寧に説明し、Bさんに納得してもらおうとしました。しかし、Bさんは意見を変えず、結局その会議は時間切れとなってしまいました。
Aさんは「自分は正論を話したし、分かりやすく丁寧に説明したつもり。でも説得できませんでした。相手に理解力がないのではないでしょうか?」といいます。
どうすれば、相手にいいたいことが伝わるのでしょうか。
■相手を知ることから始めよう
Aさんは、あることに気付きました。自分が主張したいことは一生懸命に説明したけれど、Bさんがどういう点で不満を感じたのか、きちんと聞いていなかったのです。そこで、AさんはBさんと2人で話してみることにしました。
AさんはこれまでBさんとは一緒に仕事をしたことがなかったため、あらためてこれまでの担当業務などを尋ねました。仕事で苦労したことや達成できたこと、得意なことなどを「そうか……それはしんどかったね」「それはうれしかったよなあ」などと相づちを打ちながら聞きました。
話が進むうちに、会議でなぜBさんがAさんの方針に不満を唱えたかが見えてきました。「以前のプロジェクトでうまくいかなかった経験があるから」、これが理由でした。話を聞いているうちに、AさんはBさんの気持ちが伝わってきたように感じました。
「悔しくて、もうそんな思いはごめんだと考えたのかな」と聞くと、Bさんは大きくうなずきました。そこで、当時の経験を踏まえて「どうすれば今回のプロジェクトがうまくいくか」について、2人で考えました。その結果、Aさんの方針に若干の修正を加えて採用する、ということでBさんに納得してもらいました。
■「共感」と「同感」は似て非なるもの
共感とは、「相手が感じていることを“あたかも”自分も感じているかのような状態」のことを指します。相手が何かを感じている瞬間、すぐ隣に立って一緒に感じてみる姿勢、といってもいいでしょう。
しかし、自分と相手は同じ人間ではないので、同じように感じなければならないわけではありません。ただ、「そのときそう感じた相手をそのまま認める」ことが大事なのです。
一方で、同感は「自分がもしその場にいたら自分もそう感じる状態」のことを指します。自分の感じ方や経験が前面に出て、主体が相手ではなく自分にある点が「共感」とは異なります。
Bさんは、話し合いをしたとき「Aさんが自分の近くに来てくれて、同じ問題を一緒に見ている」と思えたようです。そして、ふと「この人の話を聞いてみようかな」という気になったとのことでした。
■正論はときに正論“すぎる”
正論があまりに正論であればあるほど、「そうはいっても……」といった反論を受けることがままあります。「何をいったか」よりも「どういう関係の中でいったか」が影響することが多いのです。
誰しも一度は「あの人がいうなら……」と思ったことがあるのではないでしょうか。それは、理性より感情の方が先に動くからです。BさんはAさんと話したことで関係性が変わり、話を聞く姿勢が変わりました。つまり、リーダーは「聞く耳を持ってもらう努力」をする必要があるのです。
また、「正論であるが故に聞く側が受け入れにくい」ということもあります。なぜなら、聞く側が関与する「余地」がないからです。手間のようですが、話の途中で相手の了解を得ながら結論まで積み上げていくと、相手の抵抗感が少ないでしょう。
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