第6回 メンバーとプロマネの「話がかみ合わない」正体と対処法
ピースマインド
カウンセラー 石川賀奈美
2010/11/4
チームビルディングとカウンセリングには共通点がある。「人の話をきちんと聞く」「相手の立場になって考える」――口でいうのは簡単だが、実行するのは難しい。訓練を受けたプロカウンセラーからカウンセリングで使うコミュニケーションスキルを学び、メンバーとの信頼関係構築、チーム内のモチベーション維持、すみやかな情報伝達のために生かそう。 |
前回「部下が本当に嫌がることは、しかられることではなく『無関心』」で紹介した「ストローク」に続いて、今回は交流分析理論から「3つの自我状態」を取り上げます。親・大人・子どもの「3つの自我状態」を、チームメンバーとのコミュニケーションに応用してみましょう。
■かみ合わないマネージャとエンジニア
Aマネージャは、メンバーのEさんと話すのが苦手です。
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Eさんはスキルがあって、ミスのない仕事をするので、Aマネージャはメンバーとしてとても頼りにしています。ですが、職場から離れて2人で昼食を取るとなると、途端にやりとりがぎこちなくなってしまうのです。
「Eさんはまじめなのはいいんだけど、こちらが笑いを誘おうと自分の失敗談を話しても、“それはAさんの○○○についての判断がまずかったですね。△△△についても検討した方がよかったと思います”っていわれちゃうんですよね。それはもっともなんだけど、話が続かなくなってしまって……」と、Aマネージャはお困りの様子。
■親・大人・子ども――人は「3つの自我状態」で交流している
どうすれば、AマネージャとEさんのようなすれ違いを防げるのでしょうか。
交流分析では、親(Parents)、大人(Adult)、子ども(Child)という「3つの自我状態」を想定しています。自我状態とは、一言でいえば“心の状態”です。誰でも成長していく過程で、この3つの心の状態を獲得していきます。そして、常にどれかの自我状態を使って他者と交流しています。
【カウンセラー用語辞典】 交流分析理論 |
アメリカの精神分析医エリック・バーンによって開発された分析理論。 |
【カウンセラー用語辞典】 自我状態 |
関連ある一連の行動パターンを伴う感情の体系。例えば、「嘘をついてはいけない」と親に育てれらた場合、「嘘も方便」という行動は受け入れづらく、そうした行動をとる人に対して批判的になる傾向にある。 |
コミュニケーションをする際には、「自分がいま、どの自我状態で相手に接しているのか」を意識してみると、すれちがいや平行線を防げます。
●P(Parent……親の自我状態)
P(親)の自我状態は、わたしたちが育つうちに親的な役割を演じた人たちから取り入れた、一連の感情・行動・態度のパターンです。
P(親)には、「父親的側面」と「母親的側面」という2つの側面があります。
- 叱咤激励(しったげきれい)したり、こうあるべきという指針を出す、父親的な側面(Critical Parent)
例:「SEは体力勝負だ! なんでそこで諦める! しっかりしろ!」 - なぐさめたり面倒を見たりする、母親的な側面(Nursing Parent)
例:「うーん、分かったよ。手伝うからさ。あのリーダーにはね、こう接した方がいいんだよ」
●A(Adult……大人の自我状態)
A(成人)の自我状態は、成長していく過程において、親が教えたことを受け入れるだけではなく、事実を求めて自分で計算し、決断するときのパターンです。合理的で冷静な判断や問題解決をします。
例:「コストに見合うようにするために、この設計部分は削った方がいいと思います」
●C(Child……子どもの自我状態)
C(子ども)の自我状態は、幼児期の一連の感情・行動・態度のパターンです。C(子ども)には、「自由な側面」と「従順な側面」という2つの側面があります。
- 自分の欲求や感情を損なわない、自由な側面(Free Child)
例:「あの頑固オヤジ、いまに見ていろ!」(と先輩に毒づく) - 相手の要求に沿うために、自分を抑えて相手に合わせる側面(Adapted Child)
例:「(本当はめいっぱい仕事詰まってるんだけど)いいです。やります……」
■どの自我状態も大切、でも過剰になるのは注意!
どの自我状態が良い/悪いということは一概にいえません。誰しも、この3つの自我状態を持っています。3つのバランスが「その人らしさ」を形成しているともいえます。
ただ、いずれかが過剰になると、社会生活でつらくなることがあるので注意が必要です。
Critical Parentが過剰になると「〜すべき」が強くなり、柔軟性に乏しくなります。楽しんだりくつろいだりするときも、「自分はこんなことをしていてはいけない」など、自分に批判的になる場合があります。
Aが過剰になると、効率を重視するあまり他者への配慮が欠けたり、冷たい人と見られたりします。また、自分自身の感情の動きに鈍感になることもあります。
Cが過剰になると、「子どもっぽい」と見られます。問題が起きると、自身で対応できない場合があります。
■自分は、どの自我状態を使うことが多い?
さて、「3つの自我状態」を理解したところで、次は自分の自我状態について考えてみましょう。あなたはどの自我状態を使うことが多いでしょうか?
以下に紹介する自分への問い掛けで、自分がどの自我状態を多用するか、ある程度把握できます。
(1)自分がよく使う言葉や、くせは?
- 「ダメです」「〜すべき」「しっかりしなさい」⇒P(親)
- 「正しい」「役に立つ」⇒A(大人)
- 「できない」「えーっ」⇒C(子ども)
(2)他者との交流はどんなパターンが多いか?
自分の状態によって、他者との交流方法が変わってきます。
例えば、自分がCの部分が多い状態であれば、相手のCの部分と楽しく交流できます。自分がPの状態であれば、相手のCの部分に拒否されるかもしれません。Aの部分が多いと、相手もAになりやすくなります。
(3)幼いころの自分を思い出してみて、どのような記憶があるか?
幼いころに見た両親の姿を思い出してみてください。自分のP状態は、両親の話し方や考え方と似ているかもしれません。逆に、「いま自分はCの部分が多い」というときは、幼いころに持っていた考え方を再現している可能性があります。このように、PやCの状態は、自分の幼児期と大きく関連しています(Aについては、大人になる過程で身に付けたものなので、ここでは該当しません)。
自我状態を把握して、かみ合わない会話を予防する |
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