第9回 プロジェクトの最も手ごわい敵は「べき」という思い込み
ピースマインド
カウンセラー 石川賀奈美
2011/1/25
チームビルディングとカウンセリングには共通点がある。「人の話をきちんと聞く」「相手の立場になって考える」――口でいうのは簡単だが、実行するのは難しい。訓練を受けたプロカウンセラーからカウンセリングで使うコミュニケーションスキルを学び、メンバーとの信頼関係構築、チーム内のモチベーション維持、すみやかな情報伝達のために生かそう。 |
■“ないない”尽くしのプロジェクト?
正月休みが明け、仕事も通常のペースに戻ってきたころ。マネージャのWさんは納期が迫っているせいか、焦りを感じているようです。
「時間がない! 人がいない! カネがない!」
Wマネージャのように「ないない尽くし」と思ったら、気持ちが落ち込んでしまうだけでしょう。「プロジェクトの資源が豊富ではない」というよくある状況の中で、前向きに仕事をするにはどう考えたらいいのでしょうか。今回は、「解決志向のアプローチ」について解説します。
■ないものは取りあえず置いておこう。あるものは何か
いろいろ“ないもの”ばかりだと感じるとき、逆に“あるもの”は何かと考えてみてはどうでしょうか。Wマネージャは、ひねり出すように以下のことを語りだしました。
エンジニアライフ コラムニスト募集中! |
あなたも@ITでコラムを書いてみないか 自分のスキル・キャリアの棚卸し、勉強会のレポート、 プロとしてのアドバイス……書くことは無限にある! コードもコラムも書けるエンジニアになりたい挑戦者からの応募、絶賛受付中 |
「メンバーが納期に向けて、士気高く頑張ってくれている」
「いまのところ、誰も大きく体調を崩すことなく、皆が健康である」
「何より、先輩たちが苦労して築いてきた、顧客との信頼関係がある」
顧客との信頼関係があるからこそ、厳しい納期にも応えようと頑張れることに、あらためて気が付いたWマネージャ。この大切な財産をさらに育てていくことが、自分の使命なのだと考えるようになりました。
「なんだか少し、力が湧いてきた気がします。あともう少しなので、頑張ります」と声に力がこもっています。
状況は変わらなくとも、視点をずらしてみれば現状は変わって見えるかもしれません。まずはそこから始めてみましょう。
■思い込みを捨てる、解決志向のアプローチ
自分のことやメンバーのこと、プロジェクトの管理などについて、あなたを悩ませている“思い込み”はないでしょうか?
Wマネージャは、“プロジェクトはないもの尽くしだ”という思い込みにはまっていました。悩みのもとになっている思い込みを捨てられれば、もっとエネルギーが湧いてくることでしょう。
思い込みを捨てる――これは、問題の原因や責任の追及に目をやるのではなく、いまあるリソース(資源、資質)に着目し、それらを足掛かりにして解決のイメージに焦点を絞っていく発想法で、「解決志向のアプローチ」と呼ばれています。プロジェクトに何かしらの問題があると思うなら、まずは解決志向のアプローチを使って、思い込みを捨てることを考えてみましょう。
【カウンセラー用語辞典】 解決志向のアプローチ |
スティーブ・ド・シェイザーが、妻であり共同研究者でもあるインスー・キム・バーグとともに開発した短期療法技法。問題の探求よりも、解決中心の取り組みに重点を置いている。 ※短期療法(ブリーフ・セラピー):文化人類学者グレゴリー・ベイトソンと催眠療法家ミルトン・エリクソンの考え方を基にして生まれた心理療法。 |
■思い込みを捨てる3ステップ
-
自分の中にある思い込みを認める
-
反証を見つける
- 小さなことから行動を変える
上記のステップをさらに具体的に見ていきましょう。
●ステップ1:思い込みを認める
悩みの解決を阻害する思い込みのパターンを挙げてみます。
- 「○○が悪いんだ!」
自分が悪い、他人が悪い、会社が悪い……誰かが悪いと非難してみたところで、現実は何も変わりません
- 「できない、不可能だ」
できないと最初から決めてしまっていては、変化は起きないでしょう
- 「自分に責任はない」
起きている事象の原因ばかりを追究し、「誰かが責任を負うべき」という発想は、解決への遠回りです。現状をそのまま認めたうえで「自分にできることはないだろうか?」と考えることが大切です。
●ステップ2:反証を見つける
(1)で認めた思い込みについて、「例外」はないかを探しましょう。どんなささいなことでも構いません。非難する相手は、本当にまったく救いようがないのでしょうか? 不可能と思っていることに小さな例外はありませんか? もし、自分のこととして責任を持ってみたら、何ができるでしょうか?
●ステップ3:行動に小さな変化を起こす
(2)で見つけた「例外」をきっかけに、行動に小さな変化を起こしてみましょう。例えば、「全部あの人が悪い」と思っていたけれど「この部分についてはいいところがある」と思えたら、それをさりげなく相手に伝えてみてはどうでしょうか。あなたに非難されていると感じていた相手はきっと驚くでしょう。一足飛びに相手が変わることはないかもしれません。でも、いままでと違う会話が始まる可能性があります。
■行動変化のポイント
- 大きく変えるのではなく、小さなことから変える
- 具体的な行動にする
(例:苦手な相手に声を掛ける→毎朝、「おはよう」にひとこと加える)
- 「〜しない」ではなく、肯定的に表現し、行動する
(例:会議に遅れない→会議室に5分前に入る)
最も手ごわい思い込み「こうあるべき」 |
@IT自分戦略研究所は2014年2月、@ITのフォーラムになりました。
現在ご覧いただいている記事は、既掲載記事をアーカイブ化したものです。新着記事は、 新しくなったトップページよりご覧ください。
これからも、@IT自分戦略研究所をよろしくお願いいたします。