第2回 「バグをなくす」には、「バグのない世界」を文章で示せ
前田卓雄
2008/10/15
■問題の核心をつかむ
それでもなお、問題を表面的にとらえてしまうことがある。複数の問題を整理しないまま、問題解決に取り掛かってしまう。これでは目先のことだけが関心事になり、問題の本質を取り違える。解決したい問題をはっきりさせ、文章で記載しなければならない。
そして、根本原因をさかのぼり、核心となる問題を明確に定義する。同時に、問題がなくなればどんな状態なのか、解決された姿をイメージとしてつかむことが必要である。つまり、問題の核心を定義し、解決されたときの「あるべき姿」を文章でしっかりと表す。
この「理想的に解決された状態」のイメージは、前回では言葉だけ出てきた「TRIZ」のツールの1つである「究極の理想解(IFR)」である。究極の理想解をどこまで実現できるか、理想解から考え始め、その実現を妨げている要因を消滅させて問題解決を達成すると考える。そして、現実的にどこまで実現できるかを検討し、徐々に現実的な解決策を導き出す(図3)。
図3 TRIZのアプローチ 出典:「TRIZ実践と効用−体系的技術革新」より修正し引用 |
TRIZについて、ここで少し詳細に紹介しておこう。TRIZは、ゲンリック・アルトシューラー氏(旧ソビエト連邦タシケント生まれ)が膨大な特許を調査研究し創出した、「発明のための体系的な思考方法・プロセス・ツールの集合体」を指している。TRIZはもともとロシア語であり、英語ではTheory of Inventive Problem Solving、日本語では「発明的問題解決の理論」と訳されている。このTRIZの中に含まれた、世界中の発明者が生み出した解決策を、われわれの問題解決に適用することが可能になっている。
TRIZを学習する前と後とで比較し、TRIZを適用することで創造力を向上させた事例が報告されている(注2)。この発明原理を将来の問題に適用するのであるから、創造力を向上させることもなるほどと思える。
ソフトウェアやITの分野にTRIZの適用を想定した場合の事例も多数紹介されている(注3)。ソフトウェアやIT技術者も、このような創造的な発明手法やアプローチを活用することによって、現在困っている問題に創造的な解決策を見いだせるかもしれない(図4)。
図4 創造へのアプローチ |
(注2)「創造能力への回帰 − TRIZの効用を実績で実証した」 (注3)「ITとソフトウェアにおける問題解決アイデア集 − TRIZの発明原理で分類整理」 |
■問題解決ツールをアイデア出しに適用する
TRIZには、「究極の理想解」だけでなく、「40の発明原理」「矛盾マトリックス」「進化のトレンド」「物質‐場分析」「心理的惰性打破ツール」「機能分析」「知識ベース」など、創造に役立つさまざまなツールが用意されている。
これらのツールを新製品の開発や企画、設計、生産プロセスに適用すれば、多様な解決策や、革新的なアイデアを生み出すことができるかもしれない。また、マネジメントの革新にも適用されている(注4)。ITやソフトウェア開発への適用も大いに進展するだろう。
このように、TRIZには実際にさまざまな適用分野があり、実践してみる価値がある。冒頭に登場したオズボーン氏は、「アイデアはすべての人間問題を解決する、といってもさしつかえない」とさえ述べている。創造的な努力をすることによる報酬は想像以上のものになる可能性がある。それに、何よりも楽しい。生き生きした自分を発見できる。
(注4)『Hands on Systematic Innovation for Business & Management』Darrell Mann著、IFR Press社発行、2007年 |
■系統だった創造プロセスを理解する
とはいえ、実際に自分の抱える問題にアイデア出しのアプローチを適用し、創造的に問題解決を図るには、さまざまなツールをやみくもに適用するのは得策ではない。先人の経験を体系化し系統立てたアプローチを採用する方が賢明だ。この目的に適するように、TRIZを利用しやすいアプローチに改良したUSIT(ユーシット、統合的構造化発明思考法)も、すでに開発され活用されている(注5)。
USITの最大の特徴は、問題解決のプロセス、すなわち手順を明確に示している点である(図5)。これまで述べてきた創造へのアプローチもUSITを土台にしたものである。手順があることは思考を発散させることなく、アイデア出しのゴールへと着実に進めることを意味している。アイデアを生む可能性が高いのである。
問題は「宝の山」であり、問題の存在が成長に欠かせない。では、問題がなければ(問題が認識できなければ)どうなるか。典型的な結末は、茹で蛙(ゆでがえる)になることである。水に蛙を入れておき徐々に熱すると、蛙は温度の変化に気付かずに、茹で上がってしまう、というとんでもない結果を招く。
この例えからすれば、問題はあった方が望ましいといえる。万一、問題がまったくなければ(こんなことは、ほとんどあり得ないが)、問題を新たに探し出し、さらに成長することもできるだろう。こんなにも可能性を与えてくれるのであれば、問題解決を実践し楽しみながら、仕事を創造的なものに変えてみてはどうだろう。
次回はTRIZ/USITを実際に使って、われわれが抱えている問題から新しい解決策・発明・革新につながる道筋を探索しよう。
(注5)「日本におけるUSITの発展−創造的問題解決の新しいパラダイム」 |
筆者プロフィール |
前田卓雄(まえだたくお) 匠システムアーキテクツ株式会社 代表取締役 外資系コンピュータベンダのシステムエンジニア、デロイトトーマツコンサルティングを経て独立。主に、ユーザー企業、行政機関、大手システムインテグレータ、ハイテク企業、大手組み込みソフトウェア開発ベンダにおいて、情報戦略の立案、ユーザーが自ら作成するRFP(提案依頼書)作成を支援、ソフトウェアビジネスのプロジェクトポートフォリオ、プログラムマネジメント、プロジェクト管理とプロセス改善、開発プロジェクト管理システムの開発、バグ削減・欠陥予防・ソフトウェア生産性や競争力向上コンサルティングに従事。 |
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