エンジニアが価値を生むための発想法

第3回 「納期に間に合わない!」の根本原因を探る

前田卓雄
2008/11/14

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根本原因を推定する

 2つの問題を突き合わせて、どちらの問題が他方の問題発生の原因になっているかを示したのが図4だ。

図4 根本原因を推定する

 「納期に間に合わない」に最も多く「←」が登場していることから、この問題がそれ以外の問題によって引き起こされる、最終的な結果であることが分かる。逆に「空白」が多い問題は、それ以外の問題の原因になっているか、問題同士の関係がはっきりしないことを表す。「空白」が多ければ、その問題は全体の根本的な原因になっている可能性が高い。

 ある問題が「なぜ発生するのか」という疑問に対して、「なぜ」を繰り返せば問題の掘り下げを行うことができる。だが、掘り下げ自体を果てしなく繰り返す必要はない。解決すべき問題を解く際に、この問題を解けばそのほかの問題もきれいに解ける、というところでとどめる。

 図4を見れば、「チーム間の双方向の伝達確認が取れていない」あるいは「新技術に対するスキルが不足している」に「空白」が多く、根本的な原因であることがうかがえる。問題の掘り下げができたら、「解くべき問題」をあらためて定義し直し、問題を見失わないようにすることが大切である。われわれの問題では「納期どおりにソフトウェア製品を出荷する」ことである(図5)。

納期通りにソフトウェア製品を出荷する。
図5 解決すべき問題定義文

解決しようとすると、対立が発生する

 「解決すべき問題」をあらためて定義すると、目指すべきゴールがはっきりする。心の中に、ちょっとした余裕が生まれる。これは自分の中に問題解決への「軸」ができた状態である。あらゆる現象が「解決すべき問題」とどのようにかかわっているのか、新鮮にとらえることができる。

 しかし、実際に問題解決が可能なアイデア出しには、まだ「道半ば」であることを思い出そう。すぐさま分かることは、「解決すべき問題」を解決させない「対立した問題」が多数存在することである。例えば、図4の「納期に間に合わない」以外の問題は、すべてそれを解決させまいとする「対立」である。とりわけ、図4で根本原因と考えた問題の方が、ほかの原因となった問題よりも対立が大きい。

 われわれはこれまでこのような対立をあえて避けてきたのではなかったか(だから何も解決されず問題が蓄積されてきた)。しかし、体系的な問題解決の方法では「対立」が生じることを歓迎する。TRIZ(発明的問題解決の理論)では、対立から解決策(アイデア)を導き出す方法を提示している。これを「矛盾マトリクス表」という(図6)。

図6 矛盾マトリクス表
出典:「TRIZ実践と効用 体系的技術革新」
参考:Interactive TRIZ Matrix & 40 Principles

 問題を解決するには、あるパラメータを良くすることが必要である。しかし、そうすることによってほかのパラメータが悪化する。例えば、生産性を向上させようとするとコストが増加する。矛盾が生じるのである。

 このような矛盾を解くために、「矛盾マトリクス表」にはそれぞれの矛盾解決に適した発明原理の番号が記されている。メカトロニクスやエレクトロニクス向け、ビジネスやマネジメント向け、ソフトウェア向けがあり、それらがわれわれの実践的なアイデア出しを支援する。

われわれの問題に適用してみよう

 図4に「矛盾マトリクス表」の発明原理を適用してみよう(今回はマネジメント向けの矛盾マトリクス表を使用する)。「納期に間に合わない」は、良くしたいパラメータ8の「生産時間」である。だが、このパラメータを良くしようとすると、「決まっていた仕様が変更されたり、新たに仕様が追加されたりする」に該当するパラメータ31「安定性」が損なわれると考えられる。

 マトリクス表には、発明原理10「先取り作用」、15「ダイナミック化」、29「流動化」、2「分離」の適用が示されている。最初の発明原理10「先取り作用」は、「システムあるいはオブジェクトに要求される変更を、それが必要とされる前に実行する」、あるいは「最も便利な場所から行動に移せるようなシステムの要素を、納品に必要な時間を失うことなく、あらかじめ調整する」ことである。

 次のようなアイデアを示唆している。

  • 事前に計画を立てる

  • 現場を見る(成果物の本当の仕様を見る)

  • 組織を変える前に担当者と対話する

  • 成果物が使用される前に、変更があることを知らせる

  • ジャストインタイム生産システム(カンバン方式)を検討する

  • セル生産方式を検討する

  • 「ハブアンドスポーク」のネットワークの考え方を検討する

 われわれの問題でこの発明原理を適用してみると、どんなことが考えられるか。例えば、仕様変更や仕様追加の発生が予測できれば、あらかじめ開発担当者やテスト担当者に伝えるというアイデアが出てくる。あるいは、仕様変更や仕様追加を許容する仕組みや、その仕組みを用いて担当者の役割をセル生産化することも考えることが可能だ。

さまざまなアイデアを構造化し、組み合わせる

 TRIZやUSIT(統合的構造化発明思考法)を活用すれば、アイデア出しを加速させることができる。かえってたくさんのアイデアの対処に困るかもしれない。しかしここでも、USITではアイデアを構造化する(グループにまとめる)方法や、組み合わせる方法を提示してくれている。

 こうして複数の解決策のコンセプトを獲得することができる。コンセプトは、「解決すべき問題」に対する解決策の考え方を明らかにしたものである。アイデア出しを実行した担当者は、複数のコンセプトに自分が評価した優先順位を付けて解決策を明示する。

 どのアイデアが採用されるかは、この段階では分からない。しかし豊富に、しかも短期間にアイデア出しを行うことによって、われわれの宝探しは着実に現実的なものに近づいていく。

 今回はアイデア出しの思考過程のアウトラインを紹介した。次回は、アイデア出しをさらに実践的に行うにはどうしたらよいかを取り上げ、宝探しに磨きをかける。

筆者プロフィール
前田卓雄(まえだたくお)

匠システムアーキテクツ株式会社 代表取締役

外資系コンピュータベンダのシステムエンジニア、デロイトトーマツコンサルティングを経て独立。主に、ユーザー企業、行政機関、大手システムインテグレータ、ハイテク企業、大手組み込みソフトウェア開発ベンダにおいて、情報戦略の立案、ユーザーが自ら作成するRFP(提案依頼書)作成を支援、ソフトウェアビジネスのプロジェクトポートフォリオ、プログラムマネジメント、プロジェクト管理とプロセス改善、開発プロジェクト管理システムの開発、バグ削減・欠陥予防・ソフトウェア生産性や競争力向上コンサルティングに従事。

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