仕事に役立つビューチェンジのノウハ

第3回 その問題の原因、ひょっとしてわたし!?

樋口研究室
飯田佳子

2009/12/17

第2回 「行動に磨きをかけてチャンスをつかむ」へ

「自分は正しく行動している」と考えていても、評価者がそう感じていなければ、あなたの評価はあなたが納得する形でなされない可能性が高い。評価者に考え方を変えてもらう? もちろん、それは不可能ではないが、はっきりいって非常に難しい。むしろ、自分のビュー(視点)を相手のビューにチェンジ(変化)させた方が楽だ。

 多くの部下(メンバー)は、上司(リーダー)から明確な指示が欲しい、そう感じている。しかし、上司の行動に問題があって部下を窮地に陥れているケースは珍しくない。その原因の1つは、部下が上司に意見する仕組みができていないからだ。しかし、そんな仕組みがなくても改善する方法がある。今回は、あなたが上司になったときに備えて、自分の行動の品質をアップさせるビューチェンジの方法を考えてみよう。

■ 部下を成長させたいと思う上司

 今回、登場するA氏は今年の4月にグループリーダー(管理職)になった。そのA氏の部下に、主任に昇格させたい部下が1人いた。この部下の仕事のやり方に問題はない。しかし積極的に自分の主張をいわないおとなしい部下だ。そのせいもあり、同期の社員と比べて少し昇格が遅れていたのだ。

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 A氏は大学で教育学を専攻していた。だから部下の育成に意識が高い。A氏は「部下をしっかり育てて成果を上げさせ昇格させたい」、そう感じていた。

 ところが、その思いが少しアダになってしまって、この部下との関係がこじれてしまったのだ。

■ 力が入り過ぎる上司

 A氏は、現場で学んだある信念を持っていた。それは必ず「全体像を把握せよ」ということだ。全体が見えないと細部も分からない。現場で学んだノウハウを部下に教えたいと思っていた。

 A氏は育成のために、この部下にいくつかやらせたことがある。

 1つ目は、案件の仕様や設計を正確に理解させることだ。A氏のチームは、あるお客さまをサポートする部隊だ。だからチームに共通する資料はたくさんある。A氏はその資料をすべて印刷し、部下に渡して理解するように指示した。

 2つ目は、準備作業の徹底だ。A氏は部下に手順書を渡して業務プログラムのテスト環境を作らせた。この手順は、1つでも設定のやり残しがあると、次の作業に進めない。漏れなく準備をしてから作業をしてほしいと部下に指示した。

 3つ目は、進捗(しんちょく)の完全把握だ。A氏は、進捗を把握するには、会議の正確な記録が必要だと思っていた。そこで議事録の作成をやらせようと考えた。チームが関連する会議は、定時外に実施されるものも多い。そのすべてに部下を出席させ、会議の内容を記録するよう指示した。

■ 次第に反抗し始める部下

 自分の指示にA氏は自信があったそうだ。これで部下は成長する。A氏はそう感じていた。

 だが、部下の反応が少しずつ変わってきた。最初こそA氏の指示を守っていたものの、次第にA氏に対して文句が多くなってきた。例えばこんなことがあったそうだ。

 A氏が案件の資料を読むよう指示したとき、部下は「これを読むのは時間の無駄」、そんな発言をしたという。またA氏が、定時外の会議へ参加を要請すると、部下は「時間になったので帰る」といってきたそうだ。さらにこの部下は、周りの同僚に「A氏の指示は変だ。間違っている」、そういっていることも分かった。

 A氏が部下との関係悪化を確信したのは、その部下が無断で遅刻するようになったことだ。部下はこれまで定時(午前9時)出社をキープしていた。何らかの事情で遅れるときも必ずA氏に連絡を入れていた。しかし、連絡なしの遅刻が多くなったのだ。

 このとき、A氏はマズイと感じたそうだ。このままでは育成どころか上司と部下の関係も崩れる。仕事にも影響する。この状況を復旧するにはどうすればいいのか。A氏は悩み始めた。

■ A氏の言葉は意味不明?

 A氏は部下に対して、しっかり指示をしているという。しかし、わたしは、すべての指示が部下にとって易しい指示ではないかもしれないと感じた。

 そこでわたしはA氏が部下にアドバイスを求められたら、どう対応しているのか尋ねてみた。A氏の対応に原因があるかもしれないと感じたからだ。

 例えば相手が、資料を読んでも分からないといってきたら、A氏はどんなアドバイスをするのだろうか。A氏いわく「もっとしっかり資料を読め」というらしい。

 また相手が、手順どおりに作業をしたが、プログラムがうまく動かないといってきたらどうだろうか。A氏は「手順の間違いを再度確認しろ」というらしい。

 あるいは相手が、会議で出てくる難解な用語が理解できず議事録が書けなかったといってきたらどうだろうか。A氏は「会話をすべて漏らさず記述すれば理解できる」というらしい。

 A氏の言葉を聞いてわたしも分かったことがある。それはA氏のアドバイスは意味不明、ということだ。A氏の言葉は、漠然とし過ぎており、部下の問題解決に直結するアドバイスになっていないのだ。

■ 具体的な作業イメージを連想させよ

 わたしはA氏にもっと分かりやすく指示した方がいい、そうアドバイスした。だがA氏は、理解できないのは、相手の業務知識や経験が不足しているからだという。

 そこでわたしはA氏に、指示を別の表現に置き換えていってみてはどうか、そう提案した。例えば「しっかり読め」なら「3回読め」、「再度確認せよ」なら「作業ログを見直せ」、「漏らさず記述しろ」なら「ICレコーダーの録音内容を書け」、そういう感じだ。

 しかし、A氏は、そんなことはいわなくても分かるだろうという。A氏の頑固さに、わたしも少し困ったが、A氏ができないなら仕方がない。少し考え方を変えて、A氏の説明不足の個所を部下に意見させてみよう、そう思った。そしてわたしはA氏に2つの依頼をすることにした。

  1. ひととおり指示をしたら、相手(部下)に“意味不明と感じた個所はどこか”と尋ねること
  2. 自分(A氏)の指示の目的を相手(部下)にしっかり伝えること

■ 原因はひょっとして、自分……?

 何日かして、A氏がわたしのところに来た。そのとき、わたしに話してくれた内容はとても興味深いものだった。

 A氏はわたしの依頼を実行したという。部下はいろいろとたまっていたものがあったせいか、A氏の指示に勢いよくクレームをぶちまけたらしい。

 しかし、もっとA氏が驚いたことがあったという。それは相手が「その言葉は意味不明だ」、そういってくるものに対して、明確に説明できない自分がいることだったという。

 例えば、手順書の画面が古く、実際の画面と異なっていた。そういうときにどうすればいいのか、部下が尋ねてきた。その問いに明確な解答を与えることができなかったのだ。

 わたしたちは日々さまざまな人たちと話をするが、お互いの意思は通じ合っていないことが多い 。ディスコミュニケーションは世の常だ。仕事上のトラブルの多くは意思疎通の不全が原因であり、上司の仕事とは、つまり、行き違う意見の調整だといってもいい。

 上司は全体を見るのがミッションで、部下は細部を見るのがミッションだが、たとえ教育といえども、部下の作業をきちんとイメージできないと、問題があったときに相手の納得は得られない。

 部下との不和の原因は、ひょっとして、わ・た・し? A氏は、そんな気分になったそうだ。

■ 相手との食い違いを発見するビューチェンジ

 ところで、自分の思いや行動が相手にどのように受け止められているか。これが分かると、自分の悪いところを突き止めて改善することができる。

 相手が自分をどう感じているかを知るには、相手から意見をもらうのが手っ取り早い。ところが忙しい現場や、上下関係が厳しい職場では、相手から意見をもらうのは意外と難しい。

 それなら人の力を借りずに、自分が自分に対して意見(フィードバック)する方法がないか。こんなときにお勧めしたいのが「カメラを使ったビューチェンジ」という方法だ。

 この方法では、自分自身がデジタルカメラになる。そして自分の目をデジタルカメラのレンズにする。この想定で以下の手順に従って自分を撮影してほしい。そこに写った写真は、あなたにたくさんのことを教えて(意見して)くれる。

図1 カメラを使ったビューチェンジ

・手順1 自分で自分の姿を撮影する

 まず自分の手でカメラ(自分の目だ)を持つ。そして自分が自分を撮影した写真を見る。その写真には自分の気付かなかった表情や行動が写っている。これを眺めると自分の真の心と行動が分かる。

・手順2 相手が自分の姿を撮影する

 次に相手にカメラを持たせる。そして相手が自分を撮影した写真を見る。写真の写り具合が良ければ、相手も自分のことを考えてくれているだろう。不鮮明なら相手と自分にギャップがあるかもしれない。

・手順3 自動シャッターで自分の姿を撮影する

 最後に遠く離れた場所にカメラを置く。そして自動シャッターで撮影した写真を見る。その写真には、自分と相手、そして背景も写っているはずだ。そこに違和感があると、同じようにほかの多くの人も違和感を持っている可能性がある。

 ここでは、必ず自分の目を使ったカメラを使ってほしい。人のカメラ(他人の目)で撮影された写真は、すでに何かしら加工されていて、「うそ」や「出まかせ」が入っている可能性があるからだ。

 人の意見に惑わされず、しっかり自分で分析して相手に指示する。そうすると失敗があっても、組織やチームの納得が得られる行動につながる。

筆者プロフィール
飯田佳子●樋口研究室の認定IT コーチ。会社では、プロジェクトの品質管理の仕事をしている。システム構築には技術やプロセスも重要だが、もっと重要なのは人間の品質アップ。そう信じて、日々、社員のパフォーマンス向上を目指している。

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