仕事に役立つビューチェンジのノウハ

第4回 システムを開発するようにキャリアを開発しよう!

樋口研究室
樋口節夫

2010/1/18

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「自分は正しく行動している」と考えていても、評価者がそう感じていなければ、あなたの評価はあなたが納得する形でなされない可能性が高い。評価者に考え方を変えてもらう? もちろん、それは不可能ではないが、はっきりいって非常に難しい。むしろ、自分のビュー(視点)を相手のビューにチェンジ(変化)させた方が楽だ。

 今回はビューチェンジを活用したキャリアづくりのノウハウを解説する。

 多くのITエンジニアはキャリアづくりを、「異動や転職、起業のこと」あるいは「仕事を通じてスキルを身に付けること」というふうに考えている節がある。このようなとらえ方が、キャリアを考えるうえで、必ずしも間違っているというわけではない。しかし、キャリアというのはあくまでも職業を基盤とした人生の設計図であって、必ずしも会社生活とリンクしている必要はない。もし、会社だけでキャリアづくりをするというのなら、それは会社のビジネスモデル(もうけ方)の設計図を作ることと同じ意味になるだろう。自分の人生を会社に限定して終わらせるのはちょっと寂しい気がする。未来永劫、存続する会社はない。(会社の)使えるところをうまく利用しながら、楽しく、幅広く、人生の設計図を描く方が得だ。若い時からそう考えて行動すれば、キャリアづくりが人生の中で面白いテーマとなっていく。

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■キャリアは自分でつくるもの

 樋口研究室では、キャリアをつくる作業のことを「キャリア開発」といっている。キャリアは自分でしっかり開発しなければいけない。他人がつくった道(キャリア)を歩いて、もし、災難に遭ってしまったらどう感じるだろうか。「どうして自分は他人がつくったこんなひどい道を通ってしまったんだろう……」。きっと悲しみや悔しさでいっぱいになり、身動きが取れなくなってしまうだろう。自分のつくった道を、自分の力でしっかり歩く。そうすれば、多少の失敗があっても納得がいく。

■キャリア開発はシステム開発に似ている

 キャリアづくりに「開発」という言葉を使うのは、キャリアづくりもシステム開発と同じように、「設計」(デザイン)や「実装」(プログラミング、テスト)、「運用」(稼働監視、メンテナンス)というステップで分けられるからだ。キャリアの開発方法は、システムの開発方法と似ている。つまり、“自分システム”の開発作業がキャリア開発というわけだ。

 キャリア開発でいう設計とは、自分の進みたい方向を決めることだ。実装は、自分の仕事内容のこと。運用は、自分の仕事をやった結果を指す。

 「プログラミングができる」「設計ができる」など、キャリアを論じるときには往々にして「〜ができる」という技術面の達成度が重要視されるけれども、このことはキャリア開発における「内容」に重きを置いた議論でしかない。仕事内容を充実させれば、素晴らしいキャリアを開発できるわけではない。方向付けを誤らず、仕事の内容を充実させ、良い結果を出すこと。キャリア開発のすべてのステップを上手にこなすことで初めて、キャリア開発は成功するといえる。

■キャリアは微調整を繰り返して出来上がる

 システム開発では、よく「設計が重要だ」といわれる。確かに、優れた業務システムは、上手に設計されている。それゆえに、キャリアづくりでも設計が大切だといわれるのだが、いくら優れた設計であっても、実装の段階で失敗をしたり、システムの稼働後にバグ(失敗)が出ると、その開発プロジェクトは失敗の烙印(らくいん)を押されてしまう。キャリアづくりにおいては、しかし、そのこと自体は悪いことではない。修正個所をキャリア設計に反映させ、自分のキャリアを改修して再稼働させる。自分のキャリアを常に振り返り、微調整を欠かさないようにすること。固定化したキャリア設計は環境の変化に弱い。微調整を行いながら開発することがキャリアづくりには大切だ。

図1 微調整をしながらキャリアを開発する

■キャリア開発にビューチェンジを活用する

 キャリアづくりを成功させるには、キャリアについて漠然と考えるだけではいけない。仕事の方向性や考え方を微調整できるよう、自分自身にパワーをかけ続ける必要がある。そんなパワーをかけるツールとして、ビューチェンジ手法が役に立つ。

◎キャリアの設計段階で「強みビュー」を使う

 自分の過去を分析して強みを見つけることがキャリアづくりのスタートラインである。自分の進むべき方向を見つけるために「強みビュー」を使う。強みをキャリア設計に組み込めば、逆境に負けない強いキャリアを設計できる。なお、強みには「すでに持つ強み」と「与えられた強み」「与えた強み」の3種類がある。

 「すでに持つ強み」とは、経験によって身に付けたスキルや家系、国籍のような、失う可能性の少ない強みのことである。「与えられた強み」とは、資産や財産、資格、社員のような、維持を怠ると失う可能性のある強みのことを指す。「与えた強み」とは、貢献や感謝、介護、人助けなど、自分の行動がもとで相手に喜ばれる強みのことだ。

図2 強みビュー

 どの強みを採用するかで、キャリア開発の難易度が変わってくる。「すでに持つ強み」のように、元から自分が持っている強みを使うキャリア開発は比較的楽だが、「与えた強み」を採用する場合は相手の評価が重要になるため難易度は向上する。相手に感謝されるような人間になれば成功した人生(成功したキャリア)といえるが、そのようなキャリアは、簡単には手に入らない。

◎キャリアの実装段階で「満足ビュー」を使う

 どのような場所(仕事の内容)でキャリアを育てていきたいか。キャリアの「実装段階」にかかわる問題である。自分の思いどおりに仕事ができると、モチベーションがアップし、キャリアをスムーズに築いていくことができる。そういう場所を見つけるために「満足ビュー」を使う。満足ビューには、「わたし満足」と「あなた満足」「みんな満足」の3種類がある。

図3 満足ビュー

 仕事の内容を重視するのが「わたし満足」の仕事の選び方だ。仕事の評価が自分の評価に直結する。そんな仕事をすればモチベーションがアップする。

 自分のおかげで相手が成功し、喜んでくれるような仕事を探す。それが「あなた満足」の仕事の選び方だ。相手の喜ぶ姿を見ることが、自分のモチベーションアップにつながる。

 グループや組織、会社の喜びにつながる仕事とはどんな仕事か。「みんな満足」の仕事とは、組織の一員として従事できる仕事のことである。1人ひとりがきっちり作業をこなせば、全員が幸せになる。その結果、自分のモチベーションが向上する。

◎キャリアの運用段階で「制御ビュー」を使う

 キャリアづくりを進める途中(キャリアの運用段階)では、たくさんの障害があなたの行く手を遮る。不況に襲われるとき、他人に揚げ足を取られるとき、成果の横取りをする人間が現れることもあるだろう。障害の排除を面倒だと思わず、1つ1つ地道に取り除いていかなければ、キャリアづくりはスムーズに進まない。

 障害を取り除くには「誰に」頼むと一番効率的か。自分で取り除くことができるのか。ほかの人に頼む方がよいのか。このことを事前に考えておき、障害が発生したときに活用すること。このような地道な作業がキャリアづくりにおいて効果を発揮する。キャリアの運用段階で使えるのが「制御ビュー」だ。制御ビューには、「自分制御」「相手制御」「規律制御」の3つがある。

図4 制御ビュー

 障害を自分の決断で取り除く方法が「自分制御」だ。自分の力で障害を排除するということ。人から文句が付けられないような仕事をしていることが条件だ。

 リーダーを心から信頼して仕事をしているのなら「相手制御」を採用するとよい。仕事の権限はリーダーにあるが、障害が現れた場合、彼らに援助を仰げば、障害を排除する良い解決策を与えてくれるだろう。

 法律や社則などのような「手順」や「規律」に自分を合わせることで障害を排除できるケースもある。そのようなやり方を「規律制御」という。「決められた仕事をきちんとやっている」「何十年も同じ会社に勤めていることで自動的にキャリアが形成されていく」などは、その会社で定められた規律に従順になることで初めて手に入るキャリアだといえる。

■例のエンジニア。その後はどうなったのか

 以下にビューチェンジの事例を挙げる。

 事例に登場するエンジニアは、過去の樋口研究室の記事に出てきたエンジニアだ。「何をやっても続かないSEを変えた『貢献・評価・満足』」では「強みビュー」や「満足ビュー」の考え方を使ったところで終わっているが、その後も彼のキャリアづくりは継続している。

 彼は現在、情報システム部からネットメディアを活用した新規事業の開発部門に異動して業務に励んでいる。そんな彼だが、先日、大学時代の先輩から起業の誘いを受けたという。Webデザインを事業の主軸に据えた会社の設立に参加してほしいとのこと。「Webデザイナーとして誘われたなら、確実に断っていた」と彼はいう。しかし、実際には、Webシステムの基盤設計者兼共同経営者として誘いを受けたのである。彼は悩んだ。「このまま会社で仕事を続けていて、満足できるキャリアを築くことができるのだろうか……」

 わたしは、制御ビューを使って考えたらどうかと彼に提案した。

  • いまの仕事は、自分で手に入れたものなのか?(自分制御)

  • いまの仕事は、上司が見つけてくれたのか?(相手制御)

  • いまの仕事は、たまたま新規事業の計画に乗って立ち上げられたものなのか?(規律制御)

 彼の悩みの原因(これがキャリアを進めるときの障害だ)がどこにあるのかをしっかり考え、想定される障害を排除できるなら先輩の提案に従うべきだし、排除できないと予測できるのであれば、会社に残るべきだ。彼は現在、いずれの道を選ぶかを真剣に模索している……。

 いずれにせよ、彼のキャリアづくりはステップアップ(微調整)の段階にきていたのだとわたしは考えている。転職(起業)を選べば、新しい仕事(内容)が始まる前に、キャリアの微調整を行わなければならない。一方、会社に残り続けるにしても、遅かれ早かれ、組織体制の変更などで人間関係に変化が訪れ、キャリアの微調整を迫られるに違いない。ほとんどの場合、2年間隔でキャリアの微調整を行う時期がやってくるものなのだ。

筆者プロフィール
樋口節夫●外資系ITメーカーに22年間勤め、SIプロジェクトから技術支援、営業、人材開発まで豊富な経験を持つ。在職中に樋口研究室を設立。独立後、合同会社ビューチェンジ代表に就任。技術コンサルタント、キャリア設計アーキテクトとして活躍中。

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