第8回 「異動」や「転職」と並ぶ「起業」という選択肢
樋口研究室
樋口節夫
2010/5/14
「自分は正しく行動している」と考えていても、評価者がそう感じていなければ、あなたの評価はあなたが納得する形でなされない可能性が高い。評価者に考え方を変えてもらう? もちろん、それは不可能ではないが、はっきりいって非常に難しい。むしろ、自分のビュー(視点)を相手のビューにチェンジ(変化)させた方が楽だ。 |
あなたは「起業」という言葉を聞いて、どう思うだろうか。わたしには関係ない、と思うかもしれない。「起業」や「独立」は、とてもハードルが高いことであると感じる人が多いだろう。
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しかし、会社の仕組みが分かってきたり、自分のやりたいことが分析できてくると、起業や独立という言葉が、かなり現実味を帯びてくる。
今回は起業や独立をキーワードにして、ITエンジニアがキャリアアップを目指すときに、ぜひ使ってほしいビューチェンジの発想法を紹介する。
■ 給与明細から会社の仕組みをひも解く
未曾有の不況を経験したいま、もし勉強する時間が取れるなら、ぜひ経営の勉強をしてほしい。
経営を勉強するきっかけは、給与明細書にある。そこには会社がどんな目的であなたにお金を支払っているかが記載されている。その意味を、順を追って考えていくと、自動的に会社(経営)の原理が見えてくる。
給与明細書の中で、誰しも目がいく項目は「基本給」だろう。しかしもっと重要なのは、社会保険(公的年金や健康保険)や雇用保険(失業保険)と記載されている項目だ。
知っている人もいれば、知らない人もいると思うが、社会保険と雇用保険は、正社員(正規社員)と会社が半分ずつ負担する。一方、正社員でない場合は全額、自分で負担する。
社員本人ならまだしも、なぜ社員の家族の健康や、社員が失業したときのことまで考えて、会社がお金を負担する必要があるのか。そこには歴史的な経緯がある(興味がある読者は調べてみてほしい)。結果的に、日本には雇用を守る手厚い仕組み(法律)がある。だから多くの人が正社員になりたいと思う。
雇用に手厚いのは喜ばしい限りだが、会社にとってそれはコスト(費用)だ。
会社は収入があって初めて存続できる。景気が良いならいいが、不況になれば人員を削減してでもコストを減らして財務の悪化を食い止めるのが「経営」というものである。
だから、雇用に手厚いという恩恵も、楽に手に入る恩恵ではなく、会社の努力があってこそ手に入る恩恵だということを、強く頭に入れておくことが大切だ。
■ 事業、部門、予算、給料
自分の給料の仕組みが理解できてくると、今度は経営者の給料(報酬)の仕組みが気になってくる。一体、経営者の給料は誰が決めているのだろうか。
経営者(経営層)は基本的に、給料を自分たちで決めることができる。だから頑張って会社を大きくする価値が出てくるわけだ。しかし社員(従業員)はそうではない。従業員の給料は経営者が決めた予算の範囲内で決まってくる。従業員が自由に決められるわけではない。
給料について分かったら、今度は経営者が会社のどの部分(事業や部門)にどれだけのお金(予算)をかけてビジネスをしようとしているか調べてみてほしい。会社がたくさんお金をかけている事業や部門であれば、そこに在籍する社員に対する会社からの期待が大きいことが分かる。つまり、社員の功績に合わせて給料をたくさん支払えるだけ予算があるということだ。
さらに、自分が所属する課やグループにどれだけ予算が配分されているか調べてみよう。調べるのはそれほど難しいことではない。部門やグループの会議で管理職(上司)がそれとなく予算配分を話していると思うので、それを聞き逃さないようにするのが重要だ。
配分される予算によって課やグループの体制・人数が決まり、同時に社員の給料の幅も決まる。成果主義制度が導入されていて、会社に大きく貢献した社員がいたとしても、その予算枠から逸脱した給料が支払われることはない。
このように順を追って考えると、会社の事情が分かってくる。
■ いまのままで、自分の望むキャリアが手に入るか?
会社からもらう給料は、自分の力で稼ぐというよりは、組織の力を経由して稼いだお金だ。
だから会社は、自分のやりたい仕事ができる場所というよりは、会社がやらせたい仕事をさせてくれる場所であると考えられる。
会社から給料をもらっている限り、会社から与えられた仕事に文句はいえないわけだ。
こうした会社の仕組みが理解でき始めると、わたしたちは、次のキャリアアップを考えるタイミングを迎える。「異動の希望を出す」「転職する」などの道が生まれてくる。
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