情報処理技術者試験はITSSでこう変わる?

岩崎史絵
2007/11/27

2007年4月、経済産業省から「高度IT人材の育成を目指して」(リンク先はPDFです)という施策案が発表された。この中で、ITプロフェッショナルの職種とスキルを規定した「ITSS」と、「情報処理技術者試験」を融合した形で、スキルレベルを共有化しようという動きがある。これにより、ITSSや情報処理技術者試験はどのように変わるのだろうか。

ITSSとの融合で、情報処理技術者試験が大きく変わる?

 経済産業省管轄の下、「ITサービス・プロフェッショナルの教育・訓練に有用な共通フレームワーク」として、ITSS(IT Skill Standard:ITスキル標準)が定められたのは2002年12月のこと。以来、5年が経過する中で、ITSS自体も「ITSS V2 2006」へと改良され、その概要も徐々に普及しつつある。

 ITSSの作成・普及に携わる経済産業省の外郭団体「独立行政法人情報処理推進機構」(IPA)が、2005年4月に出した報告書(リンク先はPDFです)によれば、「2005年2月、従業員30人以上のITサービス事業者」を対象にアンケートを行ったところ、「約7割の事業者が、何らかの形でITSSを導入済み/導入検討中」であるとしている。このアンケートから2年以上たった現在、さらに多くの企業でITSSの活用が進んでいると思われる。

 そんなITSSが、ここへきて大きな転換期を迎えている。2006年10月、経済産業省の産業構造審議会情報経済分科会情報サービス・ソフトウェア小委員会人材育成ワーキンググループが、「高度IT人材育成のための施策のあり方」について議論を開始し、その結果「ITSSのスキルフレームワークと連携を取る形で、情報処理技術者試験を刷新する」という意向が発表された。

 情報処理技術者試験は、「情報処理に関する必要な技術・知識」を認定する国家試験として1969年にスタートした。現在、この試験の管轄は、ITSSと同じくIPAが担当する。運営するグループはそれぞれ「ITスキル標準センター」「情報処理技術者試験センター」と独立している。ITSS、情報処理技術者試験の融合で、情報処理技術者試験はどのように変わるのか。また、ITエンジニアのキャリアやスキルはどのように変化するのか。ネクストエデュケーションシンク 代表取締役で、ITSSユーザー協会 教育企画委員会 副委員長 斉藤実氏に伺った。

「国際競争力を強化するIT人材育成」のために生まれたITSS

 ITSSの策定・普及は、前述のとおりIPAが担当しているが、業界として、ITSSの普及促進を担う団体もある。それが特定非営利活動法人であるITSSユーザー協会だ。この協会は、主に「ITSSを自社内の人材育成プランに適用したい」というIT企業を中心に構成されており、現在約110社の法人会員(正会員と準会員)と、約40人の個人会員がいる。斉藤氏は同協会の教育企画委員会というワーキンググループに所属し、ITSS導入に伴う研修体系の作成と人材育成のコンサルティングなどを行っているという。

ネクストエデュケーションシンク 代表取締役 ITSSユーザー協会 教育企画委員会 副委員長 斉藤 実氏

 そもそも、ITSSが策定された経緯はどのようなものなのか。斉藤氏によると、「理由は3つあります。1つは、ITエンジニアの仕事を、これまでのように単なる人月工数で換算されるのではなく、自身のスキルや能力によって、明示しようという動きが出てきたこと。もう1つは、これと関連し、単なる技術知識の有無ではなく、その“スキル”“実務能力”を正しく評価し、育成するために、体系的なフレームワークが必要だったこと。そして最後に、こういう取り組みをすることで、インドや中国といったIT人材大国に負けない『ITの国際競争力を向上させる』という国の狙いによって、ITSSは誕生したのです」という。

 ITSSは、ITエンジニアの職種を「コンサルタント」「ITアーキテクト」「プロジェクトマネジメント」など11種に分類し、各職種の活動内容から、求められるスキルをブレイクダウンしたフレームワークを「キャリアフレームワーク」として分け、そのレベルを7段階で提示している。

 斉藤氏によると、大手の人材紹介会社によっては、ITSSを適用したスキルフレームワークを用い、登録人材を分類し、単価にスライドさせるという方式を採用しているところもあるそうだ。またIT企業でも、この5年間で、大手を中心に、自社の人材育成プランやキャリアマップにITSSを反映させるという取り組みが続いている。

 普及について、斉藤氏は「大手はもとより、最近は特に、大手からの要求もあって、従業員100人以下の中小IT企業にまでITSS導入の気運が広がっています。また2007年3月より、『国の情報システム調達時にITSSの職種とレベルを記入する』などが明示されたこともあり、今後さらにITSSの導入が本格化するでしょう」と見ている。

 昨年10月に発表されたITSS V2により、「キャリアフレームワークはほぼ完成されました」(斉藤氏)とのこと。「完成度としては8割です。あとの2割は、各企業のキャリアマップとの連動もあるでしょうし、あるいは企業独自の業務スキルやコンピテンシー、モチベーション維持の研修など、ITSS以外の独自業務スキル、ビジネス能力、研修プログラムと合致させるカスタマイズ部分などがあると考えてください。つまり、まずはITSSだけをそのまま導入したいのであれば、ITSS V2 2006を見れば企業の人材育成や研修体系づくりに必要なほとんどの情報が提供されています」と斉藤氏。

 人材育成には時間がかかるため、わずか数年ですぐ結果が出るものではないが、ITエンジニア個人の立場で考えると、「自分の能力の見える化(可視化)ができるので、モチベーション向上や価値の把握には役立つはず。それを会社の中に根付かせることで、人材品質が向上できます」(斉藤氏)という。

結局試験に合格すれば、という風潮が怖い

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