情報処理技術者試験ははITSSでこう変わる?

岩崎史絵
2007/11/27

「合格」が採用時の条件になる?

 現在、情報処理技術者試験とITSSとのかかわりについて、どのような点が議論されているのだろう。

 冒頭に挙げた、産業構造審議会の人材育成ワーキンググループでは、高度IT人材として、3つのタイプを挙げている。(1)経営における付加価値を創造する基本戦略系人材、(2)信頼性や生産性の向上を実現するソリューション系人材、(3)技術イノベーションを創造するクリエーション系人材だ。

 こうした人材を育成するに当たり、注目されたのが「キャリアとスキルの可視化、共有化」だ。具体的には、上記3つの人材像に対し、「必要なスキルを明確化すること」と、「各人材のキャリアを7レベルに区分し、ミドルレベル(第3段階)までは情報処理技術者試験の合否により、レベルを判定する」という施策が検討されている。そして、基本戦略系人材・ソリューション系人材・クリエーション系人材という3体系の中で、「マーケッター」「システムアーキテクト」など、9つの職種(3つに分類されない職種「その他」も含む)を振り分け、それぞれレベル判定の基準として情報処理技術者試験を図のように位置付けている(図参照)。

図 新しい情報処理技術者試験制度では、ITSSのレベル1〜3までを試験で判定しようと考えている。レベル4は、試験のほか、業務経歴などで判定しようと考えている。図をクリックすると、拡大して表示されます

 この案が公表されたのは2007年9月7日、パブリックコメントは同年9月27日まで受け付けられ、10月31日に「情報処理技術者試験 新試験制度の手引き」として発表された。

 同試験自体について、もう少し詳しく見ていこう。レベル1〜3は、エントリ試験、基本情報技術者試験、応用情報技術者試験となり、いわば基礎知識の有無を問うもので、基本的にペーパー試験で合否が判定される、レベル4になると、ITプロフェッショナルとしての実務経験が求められ、そのスキルを試験と実績で評価する。レベル5以上になると、知識は問われず実務経験を基に審査される。

 「レベル1は、現在の『初級システムアドミニストレータ』に該当するもので、一般教養として知っておくべき知識を問う試験になると思われます。新卒採用する場合の条件として、IT企業の中には取得を義務付けるところが出てくるかもしれません。レベル1〜3は、基本的に『IT企業が求めるリテラシーを備えているか』が焦点となりそうです。レベル4以上は、実務からスキルを判定する視点が追加されるのですが、具体的な試験方法については、まだまだ議論の余地があります」(斉藤氏)。

 今回の案について、斉藤氏は「従来からいわれていた、『スキルを評価する基準がいま1つ分からない』というITSSの弱点を補完するため、大きな意義を持つと思います」と評価する。国家試験である情報処理技術者試験の活性化や再活用にもつながるうえ、「レベルをきちんと明示できる」というメリットは、ITエンジニア個人にとっても大きな励みになるだろう。

「試験にだけ通ればいい」という風潮を避けるため

 とはいえ、懸念がないわけではない。その論点は2つある。

 第1に、すでに情報処理技術者試験を取得している場合、どのように新試験と関連付けされるのかがあいまいな点。第2に、試験だけでは計れない“実務能力”“スキル”を重視して誕生したはずのITSSだが、新試験制度により、「暗記して試験にだけ合格すればいい」という風潮が生まれるのではないか、ということだ。どちらもまだ検討段階とのことで、明確な指針は出ていない。

 斉藤氏はむしろ、「ITSS誕生の理念が失われて、形骸化された試験だけが残るのではないか、また、これまで数年かけてようやく企業に普及、定着してきたITSS体系でのしっかりとした人材育成が必要だという本質的な考え方に、水を差すようなことにならないか」という点に不安を見せる。「情報処理技術者試験への適用は、ITSSのレベル評価基準として活用されるのであれば、ITSSの普及にも大きく貢献すると思います。しかし、『試験に合格すればいい』というのは、今回の案の狙いである高度IT人材の育成の観点からいっても、あまり歓迎されることではありません。レベル1〜3の基礎リテラシーについては、統一試験で審査するという方法もあるとは思いますが、その裏には、単なる試験対策教育ではない、トータルな人材育成のための研修体系もあるべきで、レベル4以上の『実務経験』に伴うスキルをどのように判定するか。ここが、ITSSと新情報処理技術者試験の“実用度”を決定付けると思います」と斉藤氏は語る。

 まだこの試みは始まったばかり。確かなことは、「国レベルで、高度なIT人材を育成しようとしている」ということだ。そのため、レベル感を全体で共有する試みは必要だが、その基準についてはまだ慎重に検討していく必要があるということだろう。

 

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