改正された国家試験の変更点は
情報処理技術者試験は受験すべきか?

加山恵美
2001/6/21

2. 情報処理技術者試験の傾向を知る

応募者や受験者の推移を見る

 ここで受験者と合格者の推移を見ていこう(表3)。ただし、新試験は平成13年から開始されたばかりなので、旧試験制度での推移となる。旧試験のどの試験区分も応募者と受験者の数はほぼ横ばいだが、ネットワークスペシャリストと初級アドミニストレータは目立って受験者と合格者が増加している。近年のインターネット技術の進化と職場へのパソコン導入の増加を反映しているのだろう。第2種情報処理技術者試験も徐々ではあるが増加傾向にある。

 一方、合格者数を見ると情報処理試験がいかに難しい試験かがわかる。合格者が多いのは第2種と初級アドミニストレータだが、第2種情報処理技術者試験の合格率は、平成10年度の22.6%から平成12年度には11.6%へと約半分に落ちている。逆に初級アドミニストレータ試験の合格率は、平成10年度の25.9%から平成12年度には33.6%へと上昇している。しかし、これでも合格率は良い方で、ほかの試験では合格率は7〜8%台とほぼ1けたとなる。

 
平成10年
平成11年
平成12年
  応募者 合格者 応募者 合格者 応募者 合格者
システムアナリスト
6,407
235
6,783
249
6,812
297
システム監査技術者
4,327
146
4,396
163
4,024
151
プロジェクトマネージャ
10,897
422
12,114
472
12,862
519
アプリケーションエンジニア
23,994
741
24,903
920
24,559
970
システム運用管理エンジニア
4,040
151
4,173
158
4,593
178
プロダクションエンジニア
14,399
825
15,311
742
15,278
634
ネットワークスペシャリスト
49,451
1,790
60,088
2,413
70,880
2629
データベーススペシャリスト
12,346
551
14,807
539
17,092
818
マイコン応用システムエンジニア
2,460
219
2,701
231
2,685
195
第1種情報処理技術者
78,828
7,129
89,498
5,638
97,613
9,721
第2種情報処理技術者
247,351
38,195
275,280
31,348
298,192
23,768
上級システムアドミニストレータ
8,063
281
8,364
359
8,172
389
初級システムアドミニストレータ
108,341
21,003
186,551
49,548
222,150
53,223
表3 情報処理技術者試験の試験区分別応募者数・合格者数の推移(平成10年〜平成12年まで)

 ここで見方を変えて、平成12年度における第2種情報処理技術者試験の応募者内訳を見てみよう(グラフ1)。応募者のうち学生の割合は40%にもなる。第2種情報処理技術者試験は基礎的な分野なので、学生のうちに取得して就職活動の武器にしようしているのかもしれない。特に最近は不況で学生は厳しい就職活動を強いられるため、少しでも見栄えのよい履歴書にして企業側にアピールしたいという学生側の努力が表れている可能性があるからだ。さらに試験時間の長さや体力面から考えても、学生に有利なのかもしれない。

グラフ1 平成12年度における第2種情報処理技術者試験の応募者の内訳

 次に受験者・合格者の年齢層を見てみよう(表4)。第2種情報処理技術者試験は、20歳代前半もいるが、それ以外はほぼ20歳代後半〜30歳代の人が受験していることがわかる。特に平均年齢が高いのはシステム監査技術者で、40歳に近い年齢層が多く受験している。恐らく第2種情報処理技術者試験に限っては、前述したように学生が就職活動に備えて受験するが、それ以外は社会人になってから取得しようとするためだろう。また、どの試験にも共通していえることだが、合格者は受験者の平均年齢より低い。つまり、若い受験者ほど合格率が高い傾向がある。

試験区分 応募者 受験者 合格者
システムアナリスト
38.2
38.3
37.1
システム監査技術者
39.5
39.6
37.5
プロジェクトマネージャ
38.3
38.3
37.2
アプリケーションエンジニア
33.6
33.6
32.9
システム運用管理エンジニア
36.1
36.2
35.9
プロダクションエンジニア
33
32.8
29.1
ネットワークスペシャリスト
30.1
30.1
30.1
データベーススペシャリスト
32
31.9
30.7
マイコン応用システムエンジニア
33.3
33.2
33
第1種情報処理技術者
28.9
28.5
26.9
第2種情報処理技術者
24.4
23.8
24
上級システムアドミニストレータ
36
36.4
36.8
初級システムアドミニストレータ
28.75
28.45
28.75
表4 試験区分ごとの応募者、受験者、合格者の平均年齢。第2種情報処理技術者と初級システムアドミニストレータは、春期と秋期の平均値

どのような試験対策があるのか

 企業によっては情報処理試験のための通信教育や講座受講の補助を出してくれるところもあるが、多くは自費で自習することが多いだろう。基本情報処理技術者や初級アドミニストレータならば、受験者も多いので専門雑誌も出版されている(学研『合格情報処理』)。また、これらの試験は受験者も多いので、専門学校や通信教育などでも講座を設けているところが多い。それ以外の試験では、一部専門学校や通信教育でも講座があることもあるが、基本的には参考書や問題集が発売されているので、それを購入して勉強すればいいだろう。

 インターネットで情報処理技術者試験に関するサイトも多く開設され、過去の問題や回答例を掲載しているサイトもある。また、毎日問題を出題して翌日に解答を公表するメールマガジン、通勤途中に勉強できるようにiモード対応のサイトも存在する。

末広ページ 情報処理技術者試験対策
高度情報処理技術者試験
情報処理技術者試験の自習に役立つサイトの例

情報処理技術者試験でのキャリアパス

 これまで、情報処理技術者試験には、これといった明確なキャリアパスがあったわけではない。しかし、ITエンジニアの能力開発の目標を設定すること、企業の人材育成の重要性を認め、新試験制度から情報処理技術者試験センターでは、一応のキャリアパスの例を提示するようになった。ここではあくまでも一例だが、ベンダー企業、情報システム部門のエンジニアと、利用する側のユーザー企業の人が受験する場合の資格取得の例(順番)を示しておこう。

エンジニアのキャリアパス1

 エンジニアからスタートして、エンジニアを管理・統括するマネージャやシステム全体を企画からとりまとめるシステムアナリストに進む道がある。なお、システムアナリスト試験受験後は、今年から開始される予定のITコーディネータ試験を受験するのも、このキャリアパスの最終目的にしてもよいだろう。

エンジニアのキャリアパス2

 管理部門ではなく、エンジニアの専門分野を極める方向がある。基本情報処理技術者からソフトウェア開発技術者を経て、ネットワーク、データベース、システム管理、エンベデッドシステムのいずれかを選ぶ道だ。また、これらの試験と関連したベンダー試験を受けるといいだろう。例えば、テクニカルエンジニア(データベース)試験であれば、Oracleマスターやマイクロソフト認定データベースアドミニストレータ(MCDBA)などを受験すればよい。

エンジニアにおける2つのキャリアパス

エンドユーザーのキャリアパス

 下の図からもわかるように、初級アドミニストレータから上級システムアドミニストレータを取得する。セキュリティを重視するなら途中で情報セキュリティアドミニストレータを受験してもいいだろう。さらにこのあと、ITコーディネータ試験や利用する製品によって、必要なベンダー試験を受験する方法もある。

エンドユーザーのキャリアパスの例

システム監査技術者のキャリアパス

 システム監査技術者はシステムを監査するという役割上、エンジニアとは対照的な立場にあり、またエンドユーザーとも違う。ただし、エンジニアとしての知識は必要になるので、少なくとも基本情報処理技術者や初級アドミニストレータよりも高度な分野と位置付けられるので、それらを受験してからの方がよいだろう。

 情報処理技術者試験には含まれていないが、通商産業省産業構造審議会人材対策小委員会の提言(平成11年)により、戦略的情報化投資活性化のための環境整備の一環として、ITコーディネータ試験(民間)が企画されている(今年から試験が開始される予定)。詳しくは別の記事で触れる予定だが、要するに情報技術のみに特化した技術者ではなく、企業の経営的観点から情報化を提案できるような人材を育成して認定しようという動きである。もちろん情報処理技術者試験でもシステムアナリストやプロジェクトマネージャがある程度その役割を担うわけだが、ITコーディネータはより経営者に近い立場で企業の情報化に携わる人間を想定している。また、民間の資格とすることによってより新鮮さと現実味を帯びたものにしようとしている。情報処理技術者と組み合わせてITコーディネータの資格を取る人も出てくるだろう。

IT資格の相互認定制度

 2000年10月、平沼通産大臣(当時)がアジアのIT人材の育成、認定制度についての提案を行った。その提案はIT技術の試験制度のある国に対して、双方の国の試験制度が同じようなレベルであれば、それを相互の国で認証しようというもの。相互認証を受けた外国のITエンジニアは、日本の入国規制の緩和措置により、日本への入国がしやすくなる。すでに2001年2月にインドとの間で相互認証に合意し、入国規制の緩和措置が実施されている。さらに中国との間で相互認証の可能性が検討されている。タイ、フィリピンは日本の情報処理技術者試験と同じような試験を創設する方向で話が進んでいる。また、韓国、マレーシア、ベトナム、ミャンマー、台湾もIT資格の相互認定制度について強い関心を持っているという。

 この制度は、日本のエンジニアに直接関係のなさそうな話である。しかし、ある意味、情報処理技術者試験を通して、アジア各国のエンジニア(または国家)が日本市場への参入を狙っていると考えれば、長期的には日本のエンジニアにも影響があるかもしれない。

資格はエンジニアにとって必要なのか?

 情報処理技術者試験といえば、かくいう私も社会人2年目の春に第2種情報処理技術者試験の合格証書を手に入れた。まだ入社間もない比較的余裕のある時期に、会社からのサポートもあり、合格できて幸運だったのかもしれない。しかし、情報処理技術者試験の取得がIT系エンジニアに必須かと考えると、そうとも思えない。試験で問われる範囲の知識があっても、実務に実益はないからだ。経験の長いエンジニアほど実務に追われ、実績重視で評価されるとなれば、合格証書の必要性は感じなくなるのが実情ではないだろうか。

 情報処理技術者試験の歴史を見てみると、もともとはメインフレームのプログラマーを対象に始まった試験である。余談だが、今回取材して試験制度が私より年上だとわかって驚いた。考えてみれば第1種情報処理技術者、第2種情報処理技術者という区分も運転免許のようで古さを感じる。この日進月歩のコンピュータの世界で姿をあまり変えていないのでは、現実性を帯びなくなってくるのも無理はない。

 ネットワークスペシャリストでもネットワークで発生したトラブルをすぐに解決できるとは限らないし、ソフトウェア開発技術者が開発したシステムでもバグがないとは限らない。合格証書で人間は認定されても、稼働しているシステムは保証されないのだ。人間を評価する企業も、合格証書は参考にはするがそれがすべてではない。エンジニアとしてすでに働いているなら、実務に直接有利になる技術的情報収集の方が優先度は高いだろう。

 ただし、問われる内容に現実味がないとはいっても、まるで関係のないことを問われているわけではない。基礎的な情報技術用語やその分野に必要な考え方を勉強したら、実務に役立つときだってあるはずだ。それに情報処理技術者試験は国家試験なので、履歴書を飾ることができる。実務経験のない学生、再就職先を探している社会人には、確かに1つの武器になるだろう。またベンダー独自の試験ではないので、製品やバージョンに依存することもない。企業によっては合格すれば一時報酬金や給料に反映してくれることもある。それどころか昇級の条件に合格証書(資格の取得)が含まれる企業だってある。

 結局のところ、エンジニアには自分の努力に見合ったメリットが得られるかどうかが問題となるのだ。合格するには経済的な負担も含めて多大な労力を投じる必要がある。今後の昇級、就職活動、実務分野の探求、これらを有利に進めるための戦略に役立つと判断するなら、情報処理技術者試験に挑戦するのもいいだろうと私は考える。

次回試験予告

 なにはともあれ、次回の試験を受験するならそろそろ受験申し込みの準備に取りかかる時期だ。もし受験するのであれば健闘を祈る!

実施日 2001年10月21日(日)
願書受け付け 7月2日(月)〜8月3日(金)
受験料 全試験共通5100円(税込み)
対象 システムアナリスト、プロジェクトマネージャ、 アプリケーションエンジニア、テクニカルエンジニア(ネットワーク)、 情報セキュリティアドミニストレータ、基本情報処理技術者、 上級システムアドミニストレータ、初級シテムアドミニストレータ
2001年秋期の情報処理技術者試験の日程

2/2
 

Index
情報処理技術者試験は受験すべきか?
  1. 改正された情報処理技術者試験
2. 情報処理技術者試験の傾向を知る


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