情報処理技術者試験の傾向と対策:平成17年版

小川則明(TAC 情報処理講座
2005/1/14

平成16年の出題から見た各試験の傾向と対策

午前試験

 午前試験は「出題範囲(平成16年11月版)」(PDF版)に定められた試験区分ごとの出題範囲と重点分野と技術レベルに準じて出題される。

 午前試験の問題数は、ソフトウェア開発技術者と基本情報技術者と初級システムアドミニストレータは80問であり、そのほかの試験区分は50問(平成17年からは55問)である。

 平成16年の午前試験の分野別出題数(表2)を見てみよう。試験区分により、出題数の多い分野は固定している。

 システムアナリストとプロジェクトマネージャとアプリケーションエンジニアは午前試験が共通である。これらの試験では「コンピュータシステム」「システムの開発と運用」「情報化と経営」の分野が出題の9割を占める。

 テクニカルエンジニア(ネットワーク)では「ネットワーク技術」、テクニカルエンジニア(データベース)では「データベース技術」、情報セキュリティアドミニストレータでは「セキュリティと標準化」のそれぞれの専門分野の出題が多くなっている。

 午前試験の問題の7割以上は既出問題か類似問題である。このことから、その区分の過去問題や、ほかの試験区分の過去問題演習が試験対策として有効であることが分かる。

表2 午前試験の分野別出題数(平成16年)
分       野
試  験  区  分























































アナリスト
プロマネ
アプリケーション
  13 19     5 13   50
ソフトウェア開発 16 24 20 8 7 5     80
ネットワーク   14 8 24   4     50
データベース   15 7   23 5     50
システム管理   14 13 6 5 12     50
エンベデッド   32 8 7   3     50
情報セキュリティ   7 8 6   16 8 5 50
上級シスアド   12 14     5 19   50
システム監査   4 7     12 13 14 50
初級シスアド(秋期)   20 30     10 20   80
基本情報技術者(秋期) 15 25 20 6 4 3 7   80
  出題の多い分野

 午前試験はIRT(Item Response Theory:項目応答理論)に基づいてスコアを算出する。午前試験のスコアの範囲は、最低200〜最高800点であり、午前試験の合格基準は600点である。平成16年の午前試験のスコア(表3)を見てみよう。各試験区分とも、午前試験の通過率(合格基準を満たす者の割合)は高くなっている。

表3 午前試験のスコア(平成16年)
試験区分 受験者数 600点未満 600点以上 通過率
ソフトウェア開発 47,880 24,726 23,154 48.4%
データベース 12,822 6,462 6,360 49.6%
システム管理 6,687 3,450 3,237 48.4%
エンベデッド 2,456 1,244 1,212 49.3%
システム監査 4,716 2,448 2,268 48.1%
初級シスアド(秋期) 76,785 45,407 31,378 40.9%
基本情報技術者(秋期) 83,182 58,559 24,623 29.6%

システムアナリスト

  平成16年の試験で新たに取り上げられた技術やテーマとしては、無線ICタグ、業績評価指標、国内外でのビジネス展開などがあった。受験者は常にビジネスのトレンドや最新の情報技術を把握しておくことが必要である。

 午後I試験は、4問中3問を選び、90分(ただし、平成17年からは100分)で解答する記述式試験である。問題文が2ページで3ページ目に設問という構成である。記述解答の制限字数は、例年は40字程度だったが、平成16年は35字や25字で解答する設問が多くなった。問題文中に図表はなく、文章を読んで解答する。経営戦略に基づいた業務構造改革や業務プロセスの改革について問われる。提示されている問題文が短いため、内容を理解するのは容易だが、その内容だけを根拠に解答をまとめるのは難しく、明確な答えが作りにくい設問が多い。

 平成16年の問題テーマは、次のとおりであった(表記は問題文のまま)

  • 食品メーカの事業構造改革
  • 電子部品メーカにおけるシステム化
  • 小売業における設備保全管理の業務委託
  • 旅行業の販売促進策

 午後II試験は、3問のテーマから1問を選択して、120分で2400字以上の小論文を論述する。例年は「情報戦略」や「経営戦略」に直結するテーマが出題されるが、平成16年は論述の対象範囲は限定されていた。

問1 業績評価指標を総合的に取り扱うシステムの立案
問2 国内外でビジネスを展開する企業における情報システムの統制
問3 部門間にまたがる業務プロセスの“あるべき姿”に基づいた改革の立案

 「業績評価指標」「国際的なビジネス」「部門間にまたがる業務プロセス」がキーワードである。

プロジェクトマネージャ

 午後I試験は、プロジェクトマネジメントの実務上の基本的な視点や知識などが多く問われた。問題文中に解答の根拠を埋め込んでいるものもあるが、ヒントがほとんどなく、プロジェクトマネジメントの経験やプロジェクトマネージャの視点で考えて解答するしかないという設問もあった(4問中3問に解答、90分)。

 平成16年の問題テーマは、

  • ドキュメント管理
  • 開発途中のプロジェクトの立直し
  • システムの段階的再構築
  • 営業支援システムの構築における計画変更

であった。解答の制約条件が盛り込まれている設問が多いので、指示された条件に沿って解答することが重要である。また、平成16年も前年に引き続いて計算問題は1問もなかった。記述の制限字数は10〜40字の範囲で、総記述量も220〜240字の範囲に収まり、問題間の格差は少ない。

 平成16年の午後II試験は、

問1 プロジェクトの機密管理
問2 オフショア開発で発生する問題
問3 請負契約における品質の確認

について出題された。問1と問3は趣旨が明確で、実務上で経験することも多い状況が出題された。これらの2問は機密情報の漏えい防止といった最近注目のテーマと請負契約の場合の品質管理で、論述しやすかったと思われる(3問中1問に解答、120分)。

アプリケーションエンジニア

 午後I試験、午後II試験でインターネット関連の業務や、ICタグ、パイロット開発といった時代の流れに適合した比較的新しいテーマが取り上げられる傾向にある。これらのキーワードを知っていればよりいっそう取り組みやすくなると考えられる。雑誌などで新しい技術に関する知識も習得しておくと、今後の試験対策にも効果的といえる。

 午後I試験では、必須問題である問1ではDFDに関する問題が出題され、問2ではICタグについて出題されている。難易度は平均的であり、それほど難しくはない。選択問題である問3では、UMLのアクティビティ図やクラス図に関して問われている。アクティビティ図については今回初めての出題となるが、アクティビティ図自体は提示された凡例と問題文から把握できる。同じく選択問題の問4は購買システムの移行がテーマであり、システムフローを問う問題である(3問中1問に解答、120分)。

 午後II試験では、問1の「パイロット開発」の経験がある受験者は少ないと思われる。問2の「システム間連携の設計」に関しては、多くの受験者が経験した事例であると想定される。問3の「Webアプリケーションシステムの設計」も比較的多くの受験者が経験していると予想されるため、何を書こうかと迷う受験者は少なかっただろう。

ソフトウェア開発技術者

 午後I試験は120分で6問解答する必須問題である。「通信ネットワーク」「情報セキュリティ」「ソフトウェア工学」「システム構成技術」「アルゴリズム」「システム開発」「データベース」の分野から出題され、バランスの良い問題構成である。分野ごとの技術的な知識を持ち、問題文を理解し、設問のポイントや専門用語を把握していることが前提となる。情報技術を体系的に理解しているだけでなく、さらに提示された問題事例に応用できることが必要である。

 平成16年は、性能計算に関する問題が2問出題されている。「Webベースの検索システムに関する問題」ではLRU法、キャッシュを用いた平均アクセス時間の計算が出題された。「Webを用いた情報提供システムに関する問題」では、システムの負荷分散に関して、複数窓口の待ち行列モデルの処理時間の計算が出題された。「通信ネットワーク」「情報セキュリティ」分野の問題としては、公開鍵暗号方式を用いた認証方式に関する問題が出題された。公開鍵暗号、共通鍵暗号、認証局に関する深い知識が求められた。

 午後II試験は60分で1問解答する必須問題である。システム開発の知識を土台に、「アルゴリズム解析」や「データベース構築」などの問題解析能力や問題解決能力が問われる。また午後II試験では、長文の問題を素早く読んで理解する能力が必要である。

 「アルゴリズム」と「データベース」の問題が交互に出題されているが、試験対策としては両方の準備をお勧めする。

テクニカルエンジニア(ネットワーク)

 午後I試験は4問中3問を選び、90分で解答する記述式試験である。図や表を含む事例を読み、各問はさらに4設問あり、それに各10〜50字で答える。いずれも知識を問う設問が中心である。主なテーマは「DHCPリレーエージェント」「ブリッジのフィルタ」「IP-VPN」「ping」「SNMP」「スイッチ間のケーブル接続」「広域イーサ網」「伝送時間の計算」「VRRP」「DNS利用の負荷分散」といった重要知識が取り上げられた。

 平成16年の問題テーマは、

問1 社内ネットワークの移行
問2 ネットワークの運用管理
問3 ネットワークの再構築
問4 システムの高可用性

が出題された。

 今後もネットワーク技術の土台であるTCP/IPに関する総合的で基礎的な知識とともに、有効性と効率性、安全性を追求するために必要な技術についても知識が要求されていくと考えられる。試験動向に対応するために、基礎技術で足元を固めることが合格への最短コースといえる。

 午後II試験は2問中1問を選び、120分で解答する記述式試験である。平成16年の問題の問1は、「システムの災害対策」というテーマでネットワークシステムの運用を柱にした総合的な知識と技術に関する問題であった。問2は「コンテンツ配信システムの構築」というテーマで、インターネットを活用したストリーミング型のマルチメディア配信システムの構築事例を中心に、知識と理論が問われた。2問とも基礎知識や技術をきちんと理解しておかなければ解けない問題であった。午後I試験と同様に、ネットワークの総合的な知識を活用して、午後IIはさらに専門的な長文をじっくり読み取れる能力も求められた。そのため知識の暗記だけではなく、事例研究の記事などを読み取る能力も養成していなければ対応できない問題であった。

テクニカルエンジニア(データベース)

 午後I試験は4問中3問を選び、90分で解答する記述式試験である。図や表を含む事例を読み、問いごとの2〜3の設問に答える。平成16年の問題は、

問1 データベースの基礎理論
問2 販売分析システムのSQL
問3 プロジェクト稼働管理システムのデータベース設計
問4 関係データベースの索引設計

が出題された。

 技術テーマに関しては、「正規化を柱とするデータベース理論」「SQLプログラミングを柱とするアプリケーション開発」「テーブル設計を柱とするデータベース設計」「DBMSの仕組みと働き」とほぼ安定した傾向がある。これら4分野の技術知識を確実にマスターすることが不可欠である。多値従属性が出題されたので、正規形については第4正規形やボイス・コッド正規形までは押さえておく必要がある。

 午後II試験は2問中1問を選び、120分で解答する事例解析試験である。図や表を含む事例を読み、問いごとの3〜4設問に答える。平成16年の問題は、

問1 人材派遣会社の受注管理システムにおけるデータベース設計とメタデータ管理
問2 商品配送業務の概念データモデル設計

である。問1はメタデータ管理の問題であり、表管理リポジトリやXML形式のデータなど、単なるデータベース設計とは違う視点から見ることが必要とされた。問題と設問を合わせて17ページと長く、時間内で内容を把握することは難しい。問2は従来の傾向と同様、ER図の作成などデータベースの設計に関する問題が出題された。業務モデルも、昨年(平成15年)に引き続いての商品配送業務であり、問題文も13ページと通常の分量であった。そのため、問2を選択した受験者が多かったと思われる。

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