内定を手堅く得た人には、社員訪問やOB訪問を熱心に行っていたケースが多い。昔ながらの手法で、Webの情報と違って効率も悪そうに見える。だが実際のところ、これほど効率のよい就職活動はない。
秋から冬にかけて、多くの企業は説明会を展開する。それに足を運ぶ学生も多い。それはそれで悪くないことだが、そこで黙って聞いているだけではメリットは少ない。企業側は採用ページに毛の生えた情報を丁寧に話してくれるだろうが、そこで分かることは多くないからだ。
![]() ぼくらの就活戦記 森健(著) 文藝春秋 2010年10月 798円(税込み) |
社員訪問で重要なのは、就職活動をしている主体である自分が「質問」するところにある。
大学の大教室で講義を垂れ流し的に聞くのが頭に入らないのと同様、説明会でマイクから流れる声をメモしていても、多くは頭に残らないはずだ。なぜか。自分が質問していないからだ。その会社がどういう会社なのかを本当に知るには、実際に社員に会い、これでもかというくらい、質問を投げ掛けることが必要だ。
日々の業務実態から、職場の雰囲気、いまの会社の方向性、仕事のやりがい、業界の状況、待遇……。採用ページや説明会などから知り得た情報をぶつけながら、本当はどうなのか、その人自身はどう感じているのか、ありとあらゆる疑問をぶつけていく。そうすることで、その会社の実際が見えてくる。業界構造や企業間の関係性が分かってくれば、その会社以外でも候補を見つけていくことができる。また、そうして質問を重ねることで、自然と胸のうちに明確な動機(あるいは拒否感)が芽生えてくる。要は、自分が自分の頭で考えて人と対峙することが重要なのだ
説明会やセミナーは座っていれば情報は入ってくるが、1対1なら自ら質問しなければ情報は得られない。面接などの訓練にもなる。
「お目当ての企業に、うちのOBがいなくて……」
そんなこともあるだろう。それなら、説明会に乗り込んで、誰か話をさせてくれる人を紹介してほしいと頼み込めばいい。地方であれば、支店や営業所などに飛び込んでお願いをするのでもいい。ぶっつけ本番で飛び込むのは勇気がいるかもしれないが、いわれる側からしてみると、さほど気にしないものだ。それどころか、むしろ「度胸あるね」と歓迎してくれるかもしれない。
どういう形であれ、誰か志望企業の社員を探す。それは面接がスタートする4月でも遅くない。むしろ、内定を複数取る学生の中には、面接が始まってからさらに多く社員と会った、という人もいる。
最後の最後まで、人に会う作業は真摯(しんし)に続けていくとよい。
元も子もないといわれそうだが、実際のところ、運や縁としかいいようがない部分が、「採用」という領域には存在する。
エンジニアライフ コラムニスト募集中! |
あなたも@ITでコラムを書いてみないか 自分のスキル・キャリアの棚卸し、勉強会のレポート、 プロとしてのアドバイス……書くことは無限にある! コードもコラムも書けるエンジニアになりたい挑戦者からの応募、絶賛受付中 |
先に「思考は論理的で、戦略性と先見性があり……」といった抽象的な“優秀な学生像”を挙げたが、仮にそんな人材がいたとしても、その人が希望の企業に採用されるかどうかは分からない。要素を足し算すれば採用獲得率が上がる、というわけではないのだ。なぜなら、人の印象は、言語化できない部分が多いからである。一例を挙げよう。
見た感じ爽やか、話した感じ楽しそう、クセはあるけど気になる、体が大きいので押し出しが強そう、繊細そうだが粘りはある、寡黙で弁舌は立たないが信頼感はある、笑顔がかわいいので人好きがしそう……。
このような、会ったときの感覚的な印象は、大抵データでは表現されない。また、採用を決定づける要因としても根拠が薄いうえ、法則化もされにくいので、就職を支援する側も指導ができない。
にもかかわらず、こうした部分に採用の決め手はあったりする。
簡潔にいえば、その人の核となる部分、人間性という部分だからだ。そんな核心部分を一朝一夕で直すのは無理があるし、取り繕ったところで、面接ではボロが出る。つまり、何かに書かれたような人格を演じるのではなく、素のままの自分を出していくしかない(補足すれば、ダメな部分をわざわざ見せつける必要もない)。
企業側も同じような人間を採用するのではなく、多様性の名の下、いろいろなタイプの人材を望んでいる。そこで運と縁があれば、面接が進んだり、内定を得たりできる。身もふたもないが、まさに相性の問題なのだ。
であるなら、落ちた会社は、早めに運と縁がなかったと割り切った方がいい。
選考の過程で失敗が続いてくると、どうしても自分を責めてしまったり、極度に落ち込んでしまうことがある。筆者もそういう話はしばしば耳にした。だが、あまり失敗に拘泥したり、自分を責めてもいいことはない。早めにあきらめ、淡々と次の企業に向かう方がよほど現実的だし、可能性も広がる。
逆に、うまく内定が取れたとしても、それも運と縁でしかないのだ。
「志望先の選定には、人気企業を上から受けていくのではなく、業界構造を研究したうえで中堅企業や中小企業を受けていった方がいい」とか、「エントリーシートは多くの人に見てもらって直していった方がいい」とか、ほかにもいいたいことはある。
だが、そうした各論以前に、胸に刻んでおいてもらいたいのが、先に挙げた3項目だ。
就職活動は若者が自分と向きあい、社会と向きあう大きな機会だ。苦労や困難も多いだろうが、それは必ず成長につながる。そう信じて、就職活動に臨んでもらえたらと思う。
筆者プロフィール | ||
|
@IT自分戦略研究所は2014年2月、@ITのフォーラムになりました。
現在ご覧いただいている記事は、既掲載記事をアーカイブ化したものです。新着記事は、 新しくなったトップページよりご覧ください。
これからも、@IT自分戦略研究所をよろしくお願いいたします。