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IT業界専門のヘッドハンターを直撃取材!

人材不足のネット企業が狙う、SIerエンジニアの市場価値

ネットサービス業界が、SI業界のエンジニアを採用したがっている。なぜSI業界のエンジニアを欲しがるのか、どんなスペックが求められているのか――IT業界専門のヘッドハンターに聞いた。

 不況の影響で現在の仕事や会社に閉塞(へいそく)感を持つSI業界のエンジニアたち。目の端には急速な成長を続けるネットサービス業界の盛況が見えている。ネットサービス業界の将来性や、ネット業界がSI業界のエンジニアを欲しがる理由、採用に当たっての具体的なスペックやキャリアなどを、IT業界専門のヘッドハンターに聞いた。

  急伸するネットサービス業界。
営業利益が前年同期比で約4倍の企業も

クライス&カンパニー
コンサルタント 武田直人さん

Web/モバイルなどのインターネット業界やコンサルティング業界が得意分野。業界を問わず「独自性」「独創性」を持った企業や、「躍動感あふれる」企業から「安定感のある」企業まで、前進し続ける企業に注力している。

 IT業界のエンジニアの大半は、顧客企業のソフトウェアやシステムを受託して開発するシステム・インテグレータ(SIer)に所属しながら仕事をしている。しかし、SIerはかつてほど利益率の高い業界ではなくなった。リーマン・ショック以降の景気低迷は、企業のシステム投資意欲にも影響を与えており、かつてのような大規模システム案件は影を潜めているのが現状だ。

 こうした中でSI業界で働くエンジニアの視野に入ってきたのが、ネットサービス業界の仕事だ。ポータルや検索エンジン、eコマース、SNS、マイクロブログ、ネット広告、動画ストリーミングなど、さまざまな企業がBtoC(個人向け市場)で、まさに百花繚乱(りょうらん)のごとくサービスを競っている。

 PC、携帯電話だけでなく、スマートフォンなどアクセスのためのデバイスも広がりを見せてきた。SI業界の売り上げ、利益率が落ち込む中で、ネットサービス業界は堅調。2010年度は主要14社の全社が増収となっている。

 中でも目立つのは、ソーシャルゲームがヒットするSNS企業の急成長ぶり。例えば「モバゲータウン」のDeNA(ディー・エヌ・エー)は、2010年4〜6月期の連結売上高が前年同期比2.7倍の241億円、営業利益も3.8倍の119億円となり、このペースで成長すれば、売り上げは年間1000億円の大台に乗ると見られる。

 単に成長力が高いというだけでなく、仕事の内容もネットサービス業界とSI業界では異なる。SIerはあくまでも顧客のためにシステムを構築するのが仕事だが、ネットサービス業界は基本的に自社でサービス企画を決定し、そのうえでソーシャルアプリなどが動くプラットフォームも自社で開発する。多くがサーバやネットワーク機器などのインフラを自前で管理し、その運用責任まで担うという課題を抱えている。ビジネス企画から、システム実装、運用までが事業として一体化しているのだ。

  エンジニアの“人格”重視。
インフラ、アプリ系の人材補強に投資を惜しまず

 人材面で見ると、1960年代からあるSI業界に比べて、ネットサービスはIT業界の中でも比較的新しい業態なので、エンジニアがまったく足りていないのが現状だ。年齢構成が若いのは会社の元気度という点では魅力だが、「技術の蓄積」という意味では弱みを持つ。ただ、自前で技術力を蓄積することがサービス内容の差別化につながるという認識は共通だ。これまでの外注比率を相対的に少なくし、エンジニアを正社員として採用しようという意欲は他の業界に比べても高い。

 「これまではWeb技術をメインに据えた求人活動を行ってきたが、近年はサービス基盤を支えるインフラ系の技術者についても強い関心を示すようになり、SIerから積極的に人を採用している。中でもSNS企業ではソーシャルゲームが好評で、月間ページビューが数百億にも上るなど、サーバトラフィックが急速に伸びており、その高負荷をさばくためだけでも、インフラ系のエンジニアを喉から手が出るほど欲しがっている」

 こう語るのは、IT業界のヘッドハンティングサービスで知られるクライス&カンパニーの人材コンサルタント・武田直人氏だ。

 2010年8月に、DeNA、グリー、ドワンゴの3社が競うように、中途採用のエンジニアに200万円までの準備金、支度金を支給することを表明するなど、エンジニア争奪戦もいよいよ熾烈(しれつ)な様相を呈してきた。

 「ともするとIT業界では、エンジニアの労働を人月単位で捉えがちだが、ネット業界では積算量としての労働ではなく、1人ひとりのエンジニアのクリエイティビティを重視している。いわばエンジニアの“人格”を大切にしたいという意思の表れだろう」と武田氏はこの動きを評価する。

 ネットサービス業界が、同業種や関連のSAP業界(ソーシャルアプリケーション・プロバイダ)だけでなく、SI業界にも求人の触手を伸ばすようになったのには、理由がある。

 「1つのSNSの会員が2000万人を超えるなど、ネットサービスは新たな社会インフラになりつつある。サーバへの負荷は高まる一方だ。これをさばくには、企業の基幹系サービスや金融システムなど、24時間365日、一瞬たりとも止めることのできないミッション・クリティカルなシステムを安定的に構築・運用してきた経験が必須になる。その経験者は、現状ではSIerにしかいないからです」(武田氏)

  現場感覚を失わないエンジニアなら、転職可能性大

 インフラ系だけではなく、ソーシャルゲームなどのアプリケーション開発でも、SIerでの経験は高く評価されている。

 「SIerで、これまでシステム構築を中核で担ってきた人たちなら、汎用性の高いテクニカルスキルを持っていると見なされる。たとえオープンソース・ソフトウェアに慣れていなかったり、PHPやPerlなどのWeb系技術に詳しくなかったとしても、それらは入社後すぐにキャッチアップできるだろうと期待されています」と武田氏。

 現に、SNS各社の最前線で人気ソーシャルゲームを開発するエンジニアの中には、SIer出身の人が多い。使用言語やツールは入社後に習得したという人も少なくない。

 とはいえ、先にも触れたように、ネットサービス業界では、ビジネス企画から、システム実装、運用までが事業として一体化しているのが特徴。最初の企画からサービスリリースまでの期間もわずか数カ月など、極めて短い。企画担当と実装担当者が2人1組となり、3カ月で新種のゲームを開発するなど、少人数でのアジャイルな開発が求められている。

 「SIerでの経験が長くなると、プロジェクトリーダー(PL)やプロジェクトマネージャ(PM)に昇格して、開発の現場から離れて久しいという人が出てくる。ネットサービス企業では企画と実装は同時進行なので、頭と手を同時に動かさなければならない。これができないと転職は難しい」(武田氏)

 逆に言えば、たとえ現在はチームの統括的なポジションにいても、時には自分でもコーディングを手伝うとか、新しいWeb、サーバ技術のために自宅で絶えず実験を行っているなど、“現場寄り”の感覚を持ち合わせている人なら、十分に転職が可能というのだ。

 「私たちがご紹介したケースでも、学生時代にゲームを作っていて、SIerに就職後も自宅でPCを自作し、マルチOSで動かしたり、Web技術を独学していたという点をアピールポイントにしていた。技術への継続的な関心を失わずに、手を動かしていた人ことが採用の決め手になった」と、武田氏は言う。

  「食わず嫌い」はもったいない。
グローバルな成長戦略の中でキャリアを積む意味

 ネットサービス業界からの熱心な“ラブコール”を、SIerのエンジニアはどのように受け止めているのだろうか。

「SIerからネット系への転職意向度は徐々に高まっているとはいえ、まだ大きなものとはいえない」と武田氏。その足かせの1つになっているのが、「ゲーム」だ。自分自身がソーシャルゲームで遊ばない人の場合、ゲーム開発と聞いて抵抗感を持つ人が多いというのだ。

 「SIerのエンジニアにはもともと、システム構築を通して世の中を便利にしたい、世の中の役に立ちたいという思いが強い。それが、ゲームとなると単なる暇つぶしのように見えて、開発意欲がわかないのかもしれない」(武田氏)

 しかし、その多くは「食わず嫌い」とも武田氏は言う。「ソーシャルゲームは実際にやってみると、意外と奥が深いもの。やっているうちに、その可能性に気付く人も多い。何よりも自分の開発したサービスが身近な人に利用される実感や、やりがいを直接感じることができるのは、開発者にとっては大きなモチベーションになるはず、その可能性に気づく人も多い」という。

 ソーシャルゲームはゲームとしてはシンプルなものだが、1人遊びで完結するものではなく、ネットワークの中でのコミュニケーションこそが醍醐味(だいごみ)。アイテムを奪い合うという関係に始まり、時には協力して敵に向かうなど、他のユーザーとの関係こそが肝になる。バーチャル世界での交流が、リアル生活では得られない充実感をもたらす。それは、もはやネットなしでは生きている実感がない、私たちの今の世界の在り方を鏡のように映すものだ。

 つまり、優れたソーシャルゲームは、人間社会におけるコミュニケーションを活性化させるツールなのだ。たかがゲームと侮ることはできない。そもそも、いま表に見えているのは、ソーシャルゲームだが、いずれのSNS企業もそれがサービスの終着点だとは考えていない。

 「ソーシャルゲームを起点に、eコマースや他のエンターテインメント産業と連携したり、日本国内にとどまらずグローバル市場を目指したり、彼らが考えているビジネスモデルはスケールが大きい。競争も激しいが、ネットサービス産業の成長余力はまだまだ高い。5〜10年先のエンジニアライフを考えたとき、成長企業の中に入ることは重要な選択肢になる」と、武田氏はシフトチェンジの意義を語る。

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