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採用の舞台裏から見える転職事情

第4回 キャリアチェンジ転職の現実とは

山本直治(キャリアコンサルタント)
2006/12/5

転職を考えるITエンジニアは、つい書類選考や面接をどうすれば突破できるかに目が向かいがちだ。そんなとき、転職者を募集する企業の舞台裏では、どんなことが起きているのだろうか。まずは己の敵を知れということで、キャリアコンサルタントが求人企業の裏事情を紹介する。転職する際の参考にしていただきたい。

よくある話

「いまは○○をやっているが、これからは××をやりたい」

 IT業界(特にシステムインテグレーション業界)内の転職に限ったとしても、お会いした人材からこのような希望を聞くことは少なくありません。

○○→××に当てはまるものを例示してみると、次のようなものがあります。

  • 汎用系→オープン系
  • VB(Visual Basic)→Java
  • アプリ系SE→インフラ系SE(逆もある)
  • サーバ系SE→ネットワーク系SE(逆もある)
  • 業務系SE→組み込み系SE(逆もある)
  • SE→コンサルタント

 上記のような転職は、プログラマ→SE、2次請け→元請けSEといった同じ分野の転職に比べて、求められるスキルセットの違いが大きいため、採用企業としては「キャリアチェンジ」として見ることがあります。

 若手のITエンジニアならば、「新卒のときはインフラ系でやっていこうと思っていたのですが、アプリ(ケーション)系のITエンジニアと一緒に仕事をしていると、やっぱりアプリ系の方が面白く思えてきて」といった動機での方向転換も可能でしょう。しかし、年齢が30歳近くになってくると、そういった真正面からのキャリアチェンジは少しずつ難しくなってきます。

キャリアチェンジ転職を企業はどう見るか

 読者には「釈迦に説法」と思いますが、企業が中途採用を行う理由は、企業活動を進めるうえで必要な能力(スキルセット)を持つ人材が、現に社内で不足しているため、外部から獲得したいと考えることにあります。その意味では本来、中途採用では即戦力の人材を求めることが前提です。

 ただし、ここ最近の好景気による求人難というご時世もあり、即戦力ではない人材をポテンシャル採用して、社内で育てるというケースもあります。とはいっても、社内で育てる余裕があるかどうかなどの個別の事情もあり、このパターンを当てにするのも限度があるでしょう。

 そのあたりの事情をくみ取ったうえで、IT業界でのキャリアチェンジの希望者を、採用選考側の企業がどういう気持ちで見ているかを考えてみましょう。

(1)本来は、応募者が持っているスキルがぴったり生かせる特定のポジションで、即戦力として活躍してくれるかどうかで採用を判断したい。
(2)もし(1)に当てはまらない場合、(1)に当てはまる職種を本人が希望しない場合を含む)は、即戦力とはならなくても、応募者が持っているスキル(ポテンシャルを含む)をトレーニングによって伸ばすことで、遠からず戦力として活躍してくれるポジションがあるかどうかで採用を判断したい。

キャリアチェンジを成功させるための戦略

 キャリアチェンジ転職である以上、志望する職種でストレートに上記(1)に該当することはあり得ません。このため、応募者としては、

(A)ポテンシャルでの採用、つまり上記の(2)に期待して、当初からやりたい職種での転職を目指す
(B)当初はこれまでの経験を生かせるポジション、つまり上記の(1)で転職したうえで、転職先の社内でキャリアチェンジを目指す

のいずれかを考えることになるでしょう。

急がば回れ?

 (A)と(B)のどちらがよいかといわれれば、通常、見習いであっても最初からやりたい仕事に就ける(A)の方がよいと考えられそうです。

 実際、Javaの案件を多数抱えるシステムインテグレータ(SIer)やソフトハウスでは、Java系エンジニアの求人難を理解したうえで、Visual Basicや汎用機でのプログラミング経験者の採用を検討することがあります。

 しかし、(A)で入社するためには、それまでの経歴と目指す職種のスキルの重なり具合や年齢が大きく影響します。条件は意外に厳しく、(A)を目指し真正面から転職活動をしても、書類選考を通過できない人もいます。

 そこで考えられるもう1つの方法が(B)です。これには実例があります。例えば、汎用系の人材を求めるソフトハウスが、入社後の社内異動でいずれオープン系案件へキャリアチェンジできることを示して、汎用系の人材を募集した例があります。

キャリアがかけ離れて手も足も出ないとき

 しかし、(B)もそれまでの経験と、今後希望する職種が多少なりとも関連しなければなりません(例:業務知識が共通であるなど)。それなりの年齢になって業務アプリケーションからインフラへ転向したいといったような大転換を目指す場合は、(B)の方法によるキャリアチェンジもなかなか難しいと思います。

 そんなときはどうするか。「まずはこれまでの経験である○○を生かして御社で○○の仕事をしたいが、いずれは××もやってみたい」と志望理由を述べたところで、まともに企業に取り合ってもらえるかどうかすら怪しいところです。

 となると、私が別の記事(「志望動機は直球勝負ばかりが能じゃない」に書いたように、本当の志望動機を伏せて入社を試みる方法もないではありません。ただその場合、表面上希望した仕事はできても、その後社内でどんなに騒ごうが、最終的にやりたい仕事へ転向することは難しいでしょう。企業にいわせれば、

「あなたは○○の仕事のために採ったんだ。××をやりたいなんていっていなかったじゃないか」

 ごもっともです。そこで出てくるのが、いわゆる社内公募制(社内FA制)のある会社を目指す方法です。本当は××をやりたいのに、自分の強みである○○をやりたいとだけいって転職し、その後の社内異動に賭ける作戦です。

キャリアチェンジの決断は早めにすべし

 社内異動であれば、たとえキャリアチェンジとなっても、社員ならば面倒を見てくれる可能性は高いはずです。外からキャリアチェンジで入ろうとする場合とでは、難しさに雲泥の差があるでしょう。

 しかしながら社内公募制といっても、すべての企業に導入されているわけではありませんし、企業ごとに制度内容もさまざまです。そもそも志望先の上長がYESといわないと異動できない仕組みを採用しているところも多く、制度があるからといって、簡単に社内キャリアチェンジができるかといえばそうでもありません。

 こればかりは会社の中の話なので、人材紹介会社も責任は持てません。ある程度の抜け道はあるにせよ、結局、キャリアチェンジのご希望・ご相談はお早めに、ということに尽きるのです。

筆者プロフィール
山本直治
労働市場の限界と格闘しながらITエンジニアのキャリア形成をサポートする公務員出身の異色キャリアコンサルタント。 現在はロード・インターナショナルで活躍中。



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