2012年の注目技術&サービス展望
エンタープライズ技術の2011年トピックまとめ&2012年予想
エンジニアtype
2012/2/10
めまぐるしく情報が飛び交う昨今のIT業界。そんな激動の時代に遅れを取らないためにも、右往左往してしまう人たちは多いのではないだろうか。「常に業界トレンドに敏感でありたい」と思うあなたのために、IT業界の著名人たちが2012年のITキーワードを大予測。 |
※本記事は、「エンジニアtype」のコンテンツを一部@IT表記に統一した上で、許可を受けて転載するものです。
インターネットの半歩先の未来を、【Webサービス】【エンタープライズ】【インフラ】の3つに分類し、各領域を代表する識者たちにそれぞれ、2011年の振り返りと2012年の注目トピックについて語ってもらった。
- ロケットスタート 古川健介氏
- ケイブ 安生真氏
- ジークラウド 渡辺薫氏
【エンタープライズ編】(今回)
■ ござ先輩の予測
「ITベンダが本格的な転換期を迎える」
エフ・ケーコーポレーション システム部 湯本堅骼 人気ブログ「Go The Distance」管理人の“ござ先輩”として知られるアルファブロガー。アイ・ティ・フロンティアを経て、2009年、エフ・ケーコーポレーションに転職。 |
●【2011年振り返り】PaaS(Platform as a Service)
クラウドを活用して「明日から使えます」、「この上で業務アプリがプログラマでない方でも作れます 」というビジネスと、現在のシステム・インテグレータ(SIer)との相性は“最悪”と言っても過言ではありません。
昨今の景気低迷により、ユーザー企業の予算が削られたこともあって、「何でもかんでも受託開発」する理由がなくなっています。クラウドを活用して、「これで充分だ」とコストパフォーマンスに満足される。このトレンドは、今後も続いていくでしょう。
●【2011年振り返り】内製回帰
仮想化技術の導入が促進したことで、大幅なコストダウンと柔軟なITインフラを手に入れることが可能になりました。その次に何を目指すかといえば、ユーザー自身が内製し、運用することを前提としたシステム作りではないか、と考えます。
それができれば、ベンダからユーザーに主導権が移り、払うべきコストが明確になるからです。景気低迷の今だから、逆に内製がクローズアップされているように感じます。日経BPから内製事例集が出たことも、その一環かもしれません。
●【2012年予測】クライアント/サーバシステム
スマートフォンの台頭により、マルチデバイスが当たり前になってきたので、WebブラウザだけがUIではなくなりました。マルチデバイスのうま味をいかすためには、バイナリ通信が可能であったり、デバイス上のアプリにデータを保存できるようにした方が、何かとメリットが大きい。
というわけで、Web技術を活用しながら、今までにはない新しい形のクラサバシステムが今後、増えていくことでしょう。
●【2012年予測】脱・ITソリューションビジネス
クラウドが台頭する前は、ITベンダが用意したさまざまなプロダクトを使ったソリューションビジネスがエンタープライズ業界をけん引していましたが、クラウドが台頭してから元気がありません。ITシステムの生産手段がますます高度化されているので、「CRM」や「SFA」といった3文字言葉のソリューションありきなビジネスでは市場は拡大しないでしょう。
クラウド時代の独自性をつけるために今までのソリューションを捨てて、新たな道を模索するベンダやSIerが増えていくと考えています。
■ 豆蔵CTO・羽生田氏の予測
「関数型オブジェクト指向言語Scalaが、ポストJavaとして普及しはじめる」
豆蔵 取締役 CTO 羽生田栄一氏 2000年に豆蔵を設立。オブジェクト指向・モデリング技術、開発プロセス、要求開発、パターンとアーキテクチャ、人材開発の分野でコンサルティング・教育を展開。 |
●【2011年振り返り】アジャイル開発
日本ではなかなか普及が進まないと言われているアジャイル開発ですが、今年からクラウド化の推進とともにユーザー企業を中心にじわじわと利用が進んでいます。今後は、SIベンダ側もアジャイル的な要素を取り込んだサービス形態が登場してくるでしょう。来年あたりから、UX(ユーザーエクスペリエンス)などのデザイン分野と融合した適用も加速しそうです。
●【2011年振り返り】サービスサイエンス
来年「なぜサービスサイエンスなのか」が、クラウド時代のビッグデータの扱いの日常化とともに納得される年になると思います。製造業のプロダクトライン化のエンタープライズ版がサービスサイエンスであり、今後、現場でのニーズや課題とビッグデータを結び付けて行動できるクラウド利活用人材の育成が、急務になるのではないでしょうか。
●【2012年予測】開発型言語ルネサンス&ScalaのポストJava化
今後、マルチコアやクラウド環境での高品質で効率的かつお手軽な開発に、関数型プログラミング言語の有効性がHaskellやF#を中心に認識されていくはず。その流れの中で、各業務ドメインにフォーカスしたDSLの利用も促進される。
さらにDSLが作りやすく、既存Java資産と共存しやすい関数型オブジェクト指向言語Scalaが、ポストJava言語として普及を始める年になるのではないでしょうか。
●【2012年予測】現場指向型クラウド利活用人材の活躍
来年は、クラウド環境のもとで、ビッグデータ、HTML5、UX、DSLといった技術・手法を取りまとめ、ユーザー指向のサービス方法論として現場と一緒に使いこなしていけるIT人材が活躍を始める年になるでしょう。
企画から設計・マネジメントまでをアジャイルマインドを持って引っ張っていける新しいタイプのIT人材です。日本で生き残るSIerは、徐々にそのようなサービス提供に置き換えられていくはずです。
■ ソニックガーデン代表・倉貫氏の予測
「アジャイル開発を用いた、仮想的内製化が進む」
ソニックガーデン 代表取締役社長 CEO 倉貫義人氏 大学卒業後、東洋情報システム(現・TIS)入社。2003年に同社基盤技術センターの立ち上げに参画。2005年、社内SNS「SKIP」を開発し、オープンソース化。2009年5月に社内ベンチャー「SonicGarden」を設立し、2011年7月、MBOを経てソニックガーデンを創業。 |
●【2011年振り返り】ITエンジニアの流動が活発化
今年は、グリーやディー・エヌ・エーを筆頭に、ITを使ってビジネスにしていく企業が増えてきました。それに伴って、サービスをより顧客ニーズに即応していくために"システム内製化"が進んだ1年だったと思います。ITビジネスは開発途中で機能追加や改善を行う必要があるため、企業もエンジニアを自社に抱えるようになったのです。
そのため、かつては受注側だったエンジニアが顧客側に転職するなど、人材の流動が活発でした。来年、内製化の動きがさらに激しくなれば、エンジニアの転職市場は面白くなるでしょう。
●【2011年振り返り】“ITのサービス化”の模索
IT業界ではこれまで、どの経営者も「ITのサービス化」を盛んに強調してきました。でも、その実態は何かというのを、誰も明快に打ち出してこなかった。必要性は分かっていても急には知識集約型に転換できない、というのが現状ではないでしょうか。
その結果として大手や中堅SIerが陥りがちなのは、クラウドサービスの提供を開始したり、製品を持ったり……。今はまだ、具体的なビジョンがないまま、次々に新しいサービスを提供するという悪循環に直面しているような気がします。
●【2012年予測】アプリナイズドWeb
スマートフォンを持つユーザーが増えて、今人気のサイトがWebサイトではなくアプリっぽくなってきたのを感じます。つまり、ユーザー側の使うデバイスがPCやフィーチャーフォンではなくなってきていることを意識して、ブラウジング型からタッチスクロール型に大きくシフトしてきていると思います。
これまでのブログはブラウジングするスタイルですが、EvernoteのPCブラウザでの画面などはアプリを意識した構造になっています。今後はWebサイトがアプリ対応するのではなく、アプリオリエンテッドなサービス提供を第一に考えるスタイルが増えるでしょう。
●【2012年予測】仮想的内製化
当社のビジネスモデルがまさにこれなのですが、ユーザー企業と開発会社とがチームとなって開発プロジェクトを進める「仮想的内製スタイル」がもっと広がっていってほしいですね。内製化への動きとアジャイル型の開発スタイルというのは、本当に相性が良いんです。
このビジネスモデルがさらに普及、浸透していく環境は整いつつあって、すでにECサイトの商売主をはじめ、さまざまな場面でシステムの仮想的内製化を実践しています。結果として、われわれのようなビジネスと従来のSIerのビジネスは、上手く住み分けが進めば良いと思っています。
■関連リンク(エンジニアtype)
- 2012年ITバズワード大予測!(1/5)−9人の識者が語る「今年のオレ的ニュース」と技術・サービス展望
- 2012年ITバズワード大予測!(2/5)−Webサービス編(ロケスタ古川氏、日本Androidの会安生氏、ジークラウド渡部氏)
- 2012年ITバズワード大予測!(3/5)−エンタープライズ編(ござ先輩、豆蔵CTO羽生田氏、ソニックガーデン倉貫氏)
- 2012年ITバズワード大予測!(4/5)−インフラ編(ブレインパッド草野氏、びぎねっと宮原氏、ゼロスタート山崎氏)
- 2012年ITバズワード大予測!(5/5)−IT識者たちが実践する、「変化の大波」を乗り切る情報収集の極意
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