連載:ITエンジニア最新求人レポート No.17<2003年5月版>
キャリアビジョンがあると転職に有利か
小林教至(@ITジョブエージェント担当)
2003/6/4
アットマーク・アイティのキャリアアップ支援サービス「@ITジョブエージェント」を担当している筆者は、同サービスに参加していただいている会社をはじめ、複数の人材紹介会社/人材派遣会社を毎月訪問している。そこでヒアリングしたITエンジニアの求人動向を定期的にレポートする。マクロ的な動向ではないし、具体的な数値もないが、現状の市況や今後のトレンドを推測する資料としてほしい。 |
■上昇トレンドにならない求人動向
先月の求人レポート「2003年度求人予測、注目のキーワードは?」では、昨年秋を底に企業の採用意欲は回復しているとレポートしたが、年度が変わった途端、どうやら変化してしまったようだ。「ITバブル期と違い、いまは中途採用できる企業とできない企業の差が大きいのですが、中途採用できる企業でも採用数は絞り込んでいます。全般的にはマイナス傾向でしょうか」(某人材紹介会社)。
この傾向はIT業界に限らない。2年ほど中途採用に積極的だった自動車、精密機器関連企業も2月ごろから採用数を減らしているとのこと。「イラク戦争が終わっても、米国の景気が回復しない現状に、SARS(重症急性呼吸器症候群)が追い打ちをかけていて、輸出中心に業績を伸ばしてきた企業が採用に慎重になっています」とある人材紹介会社は解説してくれた。
これをまとめると、
ユーザー企業の業績の足踏み→IT投資抑制→IT業界の業績不振
という図式になる。ひところ期待された電子政府関連の“特需”も中途採用増加にはつながっていないという。前述の人材紹介会社は「民間需要が低迷した分、余剰となった人的リソースを官公庁案件にシフトするため、新規の採用にはつながらないのではないでしょうか」と落たんまじりに語ってくれた。
■オフショア開発がじわじわと普及
中途採用と同様に、派遣エンジニアへのニーズも低調なようだ。「人材派遣業界では、年度初めには新規需要があるのですが、今年は少ないですね。代わりに継続案件でも値引き依頼が多く、辟易(へきえき)としましたよ」と、某人材派遣会社営業担当者は愚痴をこぼす。
同氏は、オフショア開発の普及に懸念を示す。「オフショア開発は確実に増えています。詳細設計までを国内で担当し、コーディング以降を海外、特に中国の開発会社に発注するケースが多いですね」。今後プログラマ、テスタの国内需要が落ち込み、代わりに“ブリッジSE”と呼ばれる、海外エンジニアとチームを組んでプロジェクトを進行できるエンジニアのニーズが拡大すると同氏は予測する。
■40歳代にもチャンス。いよいよ条件緩和のPM
2001年12月にこの求人レポートを開始して以来、ずっと続いていたプロジェクトマネージャ(PM)不足。採用できないのであれば、求人企業はいずれ応募条件で妥協するのではないか、と予測したことがあった。今回、ようやくその兆しが見えてきた。「いままで、PMは35歳までとしてきた応募条件を40歳以上でも可とする企業が増えてきています」(某人材紹介会社)
PM同様に求人数の多かったコンサルタントは、求人・求職ともに数が減ってきているそうだ。「いまは“開発現場で実績を積んでいること”が重視されています。上流工程しか経験のない現役コンサルタントの方は、当面は好条件での転職は難しいでしょうね」と、ある人材紹介会社は開発経験重視の現状を教えてくれた。
■キャリアビジョンは採用時に必要か
「@IT自分戦略研究所」では、ITエキスパートの方々に自分戦略を持ち、後悔しないキャリアを積んでいただくことをサイト理念としている。自分戦略を構築するうえで、最初に行うことは「目標」の設定だ(詳しくは先日掲載された弊社代表藤村のコラム「自分戦略とは何か?」を参照いただきたい。
キャリアという分野に限ると、自分戦略の「目標」とは、「キャリアビジョン」ということができる。転職という局面においては、このキャリアビジョンを明確にすることが重要となる。これからこんな仕事をしたい、だからこの会社に応募する、という整理なしに転職先を選択することはできないからだ。では、求人企業からすると、採用選定において、どの程度の意味を持つのだろうか?
■選考材料の45%を占める?
「キャリアビジョンは、選考材料の45%を占めていると思います」というのは、リーベルの代表取締役 石川隆夫氏だ。「応募者のキャリアビジョンを重視する傾向は強まっていると感じています。いままでの職務経歴やスキルは申し分なくても、企業の方向性とキャリアビジョンが異なると採用されないケースがあるからです」(石川氏)
企業が中途採用に慎重になっている昨今、目先の実績やスキルが合致しているかだけでなく、将来にわたって自社に貢献できる人材かどうかを判断する材料として、キャリアビジョンが重視されているようだ。
「職務経歴書を書く際に、まずキャリアビジョンを最初に書くようにアドバイスしています」というのは、パソナテック人材紹介事業部 コンサルタントの久米廣志氏だ。「キャリアビジョンには本人の志向性が端的に表れます。書類審査を行う採用担当者に、まずどんな志向を持っているのかを頭に入れてもらい、その前提で職務経歴を読んでいただく。すると採用担当者が応募者の人物像をイメージしやすくなり、書類選考上も有利に働くようです」(久米氏)
■派遣エンジニアほど、キャリアビジョンは重要
企業がキャリアビジョンを重要視する傾向は、社員採用だけでなく、派遣エンジニアでも同様のようだ。リーディング・エッジ社のマネージャ加藤千尋氏は、派遣エンジニアの現状を、「技術スペックさえ合えばよい、と思われがちな派遣エンジニアですが、キャリアビジョンを重視する派遣要請先は増えています。特定のプロジェクトだけでなく、複数のプロジェクトで活躍できるかどうかを確認するためのようです」と語ってくれた。
さらに加藤氏は、「派遣エンジニアの場合、新しい技術を習得できるプロジェクトかどうかを基準に仕事(案件)選ぶ傾向にありますが、そのまま何年も過ごしてしまうと、気が付いたらキャリアが積み上がっておらず、年齢に応じた役割が果たせないエンジニアになってしまう危険性があります」と、派遣エンジニアこそキャリアビジョンの明確化が必要だと力説する。
■キャリアビジョンの実現のため、いま何をしているか
社員採用、派遣採用ともにキャリアビジョンが重視される傾向にあるようだが、気を付けなければならない点もある。テクノブレーン 常務取締役の能勢賢太郎氏は、「キャリアビジョンは重要ですが、その実現のためにいま何をやっているかも重要です。例えば、ロジスティックス分野でのオープンシステム開発エンジニアを目指す、とビジョンを語っても、その実績がなければアピール度は低くなります。もし実績がないならば、資格を取得するなど、実現に向けて自ら努力していることがなければ、逆にマイナス評価になりかねません」とアドバイスしてくれた。
今回ヒアリングした人材紹介会社が異口同音にいっていたのは、転職希望者にキャリアビジョンが明確な人は少ない、ということだ。人材紹介会社としては、本人にキャリアビジョンがなければ紹介する企業が選定できない。そこで必然的に人材紹介会社は転職希望者に対し、キャリアビジョンを導き出すサポートをすることになる。
ただし、「私たちが転職希望の方のキャリアビジョンをつくるわけにはいきません。人材紹介会社の仕事は、皆さんの中にある隠れたキャリアビジョンを表に出すのを手助けすることです。答えは皆さんの心の中にあるのです」(能勢氏)というのも、人材紹介会社の共通した意見だ。
先に紹介した弊社代表藤村のコラム「自分戦略とは何か?」でも触れているように、「@IT自分戦略研究所」では、キャリアビジョン、ひいては自分戦略立案のためのフレームワークを準備中だ。ご期待いただきたい。
■取材協力企業(50音順) |
キャリアデザインセンター テクノブレーン パソナテック リーディング・エッジ社 リーベル |
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