第1回 エンジニア採用のきっかけはTwitter、30min.の場合
岑康貴(@IT自分戦略研究所)
2010/5/19
TwitterやSNSで転職や採用はできるのか。徐々に生まれつつある「ソーシャルメディア上での人財採用」について、実際の事例を取り上げながら、その可能性を探る。 |
テレビや雑誌に取り上げられ、テレビドラマのテーマとして扱われるなど、普及が加速しているTwitter。読者の中にも、使いこなしている人は少なくないだろう。
筆者も日常的にTwitterを利用しているのだが、最近、気が付いたことがある。それは、Twitter上で「人を募集する」という現象が少しずつ起き始めている、ということだ。Tweetの冒頭に【急募】と書かれ、「○○の開発経験者の方、いませんか?」というように、人財募集が行われているケースを、たまに見かけるようになったのだ。
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以前(2008年)、筆者はシリコンバレーで働く日本人エンジニアを取材した際、「LinkedInなどのソーシャルメディア経由で仕事の話がくる」という話を聞いたことがある(参考 その1/その2)。全員というわけではないが、シリコンバレーでは当時すでにエンジニアの転職や採用にソーシャルメディアが活用されていたようだった。
日本ではどうだろうか。ソーシャルメディアは確かに身近なものになったが、仕事の依頼が舞い込んだり、転職や採用のための活動が一般化しているとはいえないだろう。だが、少なくともTwitter上では、少しずつそうした動きが出始めている。
果たして、Twitterなどのソーシャルメディアを活用したエンジニアの転職/採用は定着するのか。この連載では、実際にソーシャルメディアをきっかけとして転職/採用に至った事例を取材し、その可能性を探ってみたい。
……以上のような構想をTwitter上でつぶやいていたところ、ある人からリプライをもらった。
「Twitter経由でエンジニアを正社員採用しました」
その人は、サンゼロミニッツの代表取締役CTO 野々村範之氏(@nonomura)だった。サンゼロミニッツといえば、「30min.」というWebサービスおよびiPhoneアプリを開発・運営しているITベンチャー企業だ。果たしてTwitterからどのようにエンジニア採用につながったのか、話を聞いてみた。
■ Twitterでの交流から、いつの間にか採用へ
「Twitter上でも人財募集の告知はしていましたが、今回のきっかけはそれとは関係ないんです」(野々村)
野々村氏は、Twitter経由でエンジニア採用が決まったのは「結果的にそうなっただけ」と語る。
ことの始まりは2009年8月ごろのことだ。同社が開発するiPhoneアプリ「30min.」をアップデートした際、野々村氏はユーザーの反応を見るため、Twitter上でアプリ名を検索し、情報収集をしていたという。
当時、大学院の博士課程で研究をしながら、個人でもiPhoneアプリ開発を行っていた南保紀善氏(@nambon)は、自らのTwitterアカウントで「30min.」の技術面についてつぶやいていた。それを見つけた野々村氏は、南保氏にリプライを飛ばし、会話を始めた。
左:野々村範之氏 / 右:南保紀善氏 |
「30min.はリリース当初から興味を持っていました。わたし自身も個人でiPhoneアプリ開発をしていましたから、いろいろ気になって、ひとりごとをつぶやいていたんです。そうしたら、中の人からいきなり話しかけられて、驚きました」(南保)
それ以降、2人は主に技術面での意見交換をTwitter上で行っていたという。1カ月後、「実際に会ってみましょうか」ということになり、対面を果たす。その場で野々村氏は「うちで働きませんか」と誘い、南保氏も快諾。早速、翌週から働き始めたという。同社はそれまで、フルタイムの正社員は代表取締役社長の谷郷元昭氏と野々村氏の2人だけで、ほかはアルバイトだった。社長とCTOをのぞけば、南保氏は同社の正社員第1号となったのである。
■ 技術力から人柄まで
野々村氏は南保氏とTwitter上で会話していて、「技術力は問題ないし、ぜひうちで働いてほしい」と考えるようになったと話す。ここには、「ソーシャルメディアで一緒に働く仲間を探す場合は、現場の人間が対話すべし」という教訓が見える。例えばこれが人事担当者であったなら、そもそも交流のきっかけは生まれなかっただろうし、技術力を的確に見抜くのも難しかっただろう。同社はベンチャーであり、CTOである野々村氏自身が採用も担当していたことが幸いして、このような結果が得られたのではないだろうか。
ただし、野々村氏は採用について、「技術力だけを見ていたわけではない」と語る。
「技術は勉強すれば、ある程度はできるようになるものです。南保さんに関しては技術力だけでなく、Twitter経由で『人柄もいいなあ』と思っていました」
Twitterを利用している人なら実感できると思うが、Twitterは「140文字以内」「気軽に投稿できる」という特性を持つためか、ブログ以上に個人の人柄が表れやすいように思う。野々村氏はTwitter上でのやりとりを通じて、技術力と人柄、両方を(最初から意識していたわけではないにせよ)見て、採用したいと考えた。
また、南保氏がすでに個人でiPhoneアプリを開発していたことも大きかった、と野々村氏は語る。南保氏はもともと、大学院では農学の研究に携わっていた。だが、iPhoneアプリ開発を通じて、IT業界に興味を持ち始めたという。「今日の地震」「時間割」「DateCamera」「Twrend」などのiPhoneアプリを開発し、評価を得ている。
野々村氏はサービスやアプリの技術面のみならず、1つの製品としてパッケージ化する意識があるか、という点も見ているという。
「個人で開発している場合、アイコンやユーザーインターフェイスなどには、開発者の性格が出ると思います。技術のみに興味があるのか、それともデザインやユーザビリティといった要素についても高い完成度を求め、1つの製品としてパッケージ化する意識があるのか。わたしたちは後者に長けた人財を採用したいと考えていました。そういう意味でも、南保さんはバッチリでした」(野々村)
■ Twitterにひも付くプロフィールサービスの可能性
最後に、今後もブログやTwitterを活用して人財募集を行っていきたいという野々村氏に、「日本におけるソーシャルメディアを活用した転職/採用の今後」について聞いてみた。野々村氏は「個人的な意見ですが」と前置きしながら、次のように語る。
「日本ではまだ、LinkedInやFacebookのようなビジネスSNSが成功していませんよね。でもこれからはビジネスSNSというより、OAuthのアカウント認証によるひも付けが重要だと思います。海外では現在、FacebookとTwitterの一騎打ちのような感じですが、日本ではFacebookがそれほど普及していないので、Twitterがスタンダードになる気がします。今後、Twitterのアカウントにひも付くプロフィール系サービスはもっと増えるでしょう。その中から、ソーシャルメディアを活用した転職や採用の可能性が出てくると思います」(野々村)
今回の事例は、ベンチャーだからこそ、という側面が大きいのも事実だろう。一般企業の採用にソーシャルメディアをどう活用するかについては、課題が多いはずだ。
この連載では、今後もこうした事例を取り上げながら、ソーシャルメディアを活用した採用/転職の可能性について探っていきたい。「Facebook経由でエンジニアを採用した」という採用担当者や、「Twitterがきっかけで転職した」というエンジニアの方は、ぜひご連絡いただきたい(メール:jibun@atmarkit.co.jp、Twitter:@atmkit_jibun)。
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