第10回 家族との時間、開発する時間。どちらも犠牲にしない道
アデコ 高野和幸
2009/10/14
目的別の実例を挙げながら、転職における成功・失敗の要因を探る。皆さんの参考となる「道」を探してほしい。 |
ITエンジニアの転職相談を受けていると、転職の目的として「年収アップ」や「キャリアアップ」だけではなく、「ワークライフバランスの充実」がよく挙がります。
仕事一辺倒ではなく、自分自身や家族との生活を大切にすることで、人生を豊かに楽しむ。そして、生活を充実させることで、仕事への意欲も高まる。仕事と生活を調和させることは、ITエンジニアとしての成長にも大きなプラス材料になると思います。
しかし、給与額や業務内容と異なり、求人情報の中に「ワークライフバランス」という項目はありません。自分にとってその企業が、仕事と生活を両立させることができる環境かどうかをどのように見極めるかが、転職を成功させるためのとても重要なポイントです。
今回は、仕事と生活の両立を目指して転職活動に奮闘した、あるITエンジニアのケースを通して、そのポイントを探るヒントをご紹介したいと思います。
■ 「要注意企業」のクライアントに振り回される日々
高橋さん(仮名)は32歳のITエンジニア。社員数200人ほどのシステム開発会社に転職して5年目。大手生命保険会社に常駐し、チームリーダーとして数名の部下をまとめながら、自ら開発でも活躍されるなど、社内外からの信頼が厚い人です。
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あるとき、高橋さんはあるクライアントの開発プロジェクトを担当することになりました。このクライアント、高橋さんの会社では有名な「要注意企業」だったのです。
開発の途中で何度もシステムの仕様が変更になったり、突然納期を前倒しにするように要求があったりと、トラブルの連続。労働時間は深夜におよび、休日出勤も日常茶飯事でした。
何人かの同僚は体調不良を訴えてリタイアするなど、現場を去っていく人が多くいました。しかし、高橋さんはハードな仕事でも前向きに取り組んでいました。
その頑張りの理由は、「ITエンジニアは生活が不規則だから絶対にイヤ!」と宣言されてしまったところから、押しの一手で結婚までこぎつけたステキな奥さまと、1歳になったばかりの娘さん。特に娘さんに関しては、常に十数枚の写真を携帯し、逐一周囲に成長ぶりを報告するなど、その「親バカ」ぶりがクライアント企業内でも有名になるほどでした。
2人のためと考え、かわいい娘さんに会いたい気持ちをぐっとこらえて、終電帰りにも休日出勤にも耐えて、ひたすら仕事に打ち込んできた高橋さん。
しかし、もともとあまり丈夫ではなかった奥さまは、育児の疲れから体調を崩すことが増えました。それでも健気に仕事に送り出してくれる姿を見るたび、高橋さんはもう少し家庭内のサポートができないものか、と考えるようになっていました。
■ 知らぬ間に、歩くようになっていた娘
そして、このままではいけないという思いを決定的にする「事件」が起きました。
久しぶりに仕事から解放されたとある休日。昼近くまで眠っていた高橋さんがリビングに入ると、娘さんが自分の足で立ち上がり、てくてくと歩いているではありませんか!
慌てて奥さまに確認すると、もう2〜3週間前から歩けるようになっていて、「いつ歩けるようになったかなんて、ずいぶん昔のことで忘れてしまった」とのつれない返事が。
以前から「決定的瞬間」はビデオに録画しておくよう、奥さまにお願いをしていましたが、あまり機械に強くないところに育児のバタバタが重なって、とてもそれどころではなかった様子です。
このままでは、娘さんの成長にまったく触れることなく日々が過ぎるのではないか。きっとそのうち、「このおじさん、だぁれ?」などと無邪気にいわれてしまうに違いない。周囲からはそんなわけないと笑われてしまうような悩みでも、高橋さんにとっては一大事。将来への不安はマックス状態になってしまいました。
それ以来、チームのメンバーを残して、後ろ髪ひかれながらも無理やり職場を出るようにしました。それでも、どんなに早くても家に到着できるのは22時過ぎです。
すっかり寝入ってしまっている姿を見てもあきらめきれず、ずっと顔を近づけていたら、気配に気付いた娘さんが目を覚ましてしまい、ようやく寝かしつけた奥さまに激怒される始末……。
落ち着かない気持ちが影響して仕事にも集中できなくなってしまい、これまでにはあり得なかったようなつまらないミスが目立つようになりました。
そのことでまた自分に対するストレスがたまって、イライラして周囲に厳しく当たってしまい、さらにメンバーとの距離ができてしまうという悪循環。高橋さん自身、どうしたらよいのか分からなくなってしまったのです。
途方にくれる日々に心身とも疲れ果ててしまった高橋さんが、筆者の元を訪ねてくれたのは、ちょうどそんな時期でした。
「業務を軽くしてもらうことは可能。でもそれはベストじゃない!」 |
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