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なぜ、彼らは転職を考えたのか

第11回 目先の給与アップにつられて転職、そしてすぐ後悔

アデコ
藤田孝弘

2008/7/30

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CASE2 給与はアップしたがスキルはダウン。これってキャリアアップ?

 布施(仮名)さんは、37歳のITエンジニアでした。専門学校を卒業後、新卒でシステム開発会社に入社。当初はメインフレームの開発を中心に行うプログラマでした。次第にオープン系の仕事に就きたいと考えるようになり、ソフトウェアハウスに転職。続いて社内SEとして転職しましたが、やはりシステム開発に専念したいと考え、システム開発会社に転職しました。

 この会社では、社内SE時代に培った会計システムの経験を買われ、ERP導入エンジニアとして活躍するようになりました。約5年間ERPの導入に従事し、最大5人のメンバーを率いるプロジェクトリーダーとしての経験もしました。

 ところがこの会社は、親会社の業績不振に伴い、大手派遣会社に売却されることになったのです。会社の営業方針も大きく転換することになりました。待遇に少し不満のあった布施さんは、このことから4回目の転職を決意したのです。

 布施さんは以前から付き合いのあった人材紹介会社とコンタクトを取り、転職活動を開始しました。その結果、3社から内定をもらい、最終的にはユーザー系システム開発会社に入社することを決意しました。理由は、年収が100万円アップし、比較的残業が少ない点で申し分のない待遇だったからです。

再び転職を考えることに

 転職から1年が経過したころから、布施さんは、再び転職を意識するようになりました。

 布施さんは、入社後すぐに外販向けの部門に配属され、小規模の開発プロジェクトのメンバーとしてアサインされました。前職で携わったプロジェクトと比べると、規模と質の面で大幅にキャリアダウンすることになります。ユーザー系の会社ということで、親会社の大規模システムの開発に期待していた布施さんは、想定外の展開に戸惑うばかりでした。勤め始めたばかりなので1年間様子を見ましたが、一向に状況が変わる気配がありません。意を決して、上司に自分の将来のキャリアパスについて相談をしてみました。具体的な異動の相談もしましたが、まったく受け入れてもらえませんでした。

 37歳で5社の社歴は少ないとはいえません。1年前に転職したばかりの会社を早くも退職するとなると、次は6社目。とはいうものの、キャリアダウンしたままの状態では意欲的に仕事に取り組むことができません。どちらにしてもリスクが生じるというわけです。

待遇よりも、自分にとって大切なもの

 布施さんは、前回の転職活動を振り返ってみました。直接のきっかけは会社の方針転換ですが、始めのうちは将来のキャリアパスを意識した転職を考えていました。

 ところが、複数の会社から内定を受けるうちに、重視するポイントがキャリアパスから条件面に移ってしまったのです。最終的には条件面と残業の少なさをポイントにして、転職先を決定したのでした。そのときに詳しい仕事内容や配属部門の状況を確認しておけば、仕事内容やキャリアパスという視点で会社を選べたかもしれません。

 こうして解決策を見いだした布施さんは、転職活動を再開することを決意しました。特に今回の反省点に留意し、仕事内容や社内でのキャリアパスを重視して会社選びを行うことにしました。給与などの条件面も重要ですが、布施さんは、自分にとってもっと大切なものに気が付いたのです。

2人の共通点は、「課題」と「解決策」のずれ

 ここまで、2つの事例を紹介しました。CASE1の大友さん、CASE2の布施さんの失敗には、共通する点があります。それは、転職を考えた当時の目的(課題)と、内定企業の決定要因(解決策)にずれが生じてしまったことです。

 大友さんの場合は、「スキルを高めたい」という考えから転職を意識しました。ところが、大手企業から誘いがあったことで考えが変わり、安定性や年収アップ、定着率などの環境面で転職を決断してしまいました。つまり、本来考えた転職の目的(課題)と内定企業の決定要因(解決策)にずれが生じたため、前職での課題が解決できなかったことが失敗の要因であると考えられます。

 布施さんの場合も、当初は将来のキャリアパスを考えて転職活動をしていました。しかしその目的と異なり、結局は給与の大幅アップを重視して企業を選択し、課題の解決策である仕事内容の確認をおろそかにしたことが失敗の要因であると考えられます。

 つまり、転職において重要なのは、その転職が現在の課題に対する解決策になっているかどうかであると考えられます。

 転職市場が活性化し、複数の内定を手にする人も少なくありません。そんなときこそ、表面的な待遇に惑わされず、結論を出す前にもう一度、これまでの課題の解決となる転職であるかどうかを考えてみてはいかがでしょうか。


 2007年5月より11回にわたって連載しました「なぜ、彼らは転職を考えたのか」は、今回を最終回とさせていただきます。

 連載を通じて、多くの事例を紹介してきましたが、皆さんの参考になる事例はあったでしょうか。転職で困ったときのヒントになればと考えております。最後までご愛読いただき、誠にありがとうございました。

 

今回のインデックス
業界最大手からの誘いで、転職の目的がぶれてしまった大友さん
給与はアップでもスキルダウンした布施さん。2人の共通点は……

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筆者プロフィール
アデコ 人材紹介サービス部 シニアコンサルタント
藤田孝弘

人事系コンサルティング会社にて人事採用と教育・人事制度関連のコンサルティングに従事。その後、IT専門の人材サーチ会社にてITコンサルタントやSEを中心とした人材のキャリアコンサルタントを経験、現職に至る。これまで、IT業界を中心に3000名以上の転職支援を行った実績あり。現在、@ITジョブエージェントのパートナーとしても活躍中。


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