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第11回 ひがやすを――Seasarと「ひがやすを飲み会」

岑康貴(@IT自分戦略研究所)
2009/3/25

エンジニアにとって仲間とはどういう存在なのだろうか。極端なことをいえば、自分1人で作業が完結できてしまうエンジニアにとって、仲間とのコミュニケーションにはどんな意味があるのか。エンジニア同士のネットワークを通じて、エンジニアにとっての仲間とは何かを探る。

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 コミュニティで活躍するエンジニアの輪。前回の横田聡氏から紹介されたのは、電通国際情報サービスの比嘉康雄氏だ。Seasarプロジェクト チーフコミッターのひがやすを氏、と表現した方が分かりやすいかもしれない。

 オープンソースを自らの仕事にしてしまったひが氏。彼の足跡と思想、そして「エンジニアの未来サミット」から「ひがやすを飲み会」へとつながっていく、彼のIT業界への思いを聞いた。

開発者を楽にしたい

 「もともと、開発者を楽にしたい、と考えていました」

 ひが氏がSeasarを開発し始めたのは2002年ごろ。「アプリケーションサーバの仕組みが知りたくて、作りました」とのことだ。その後、友人の羽生章洋氏(スターロジック 代表取締役社長)がマネースクウェア・ジャパンのインターネット外国為替取引システム「iFX Style」を開発するに当たって、「アプリケーションサーバ、作っていたでしょう。あれ(=Seasar)を使ってみたいんだけど」とひが氏に持ち掛けた。このとき作られたのが「Seasar0」(未公開バージョン)である。同システムは2003年4月に稼働を開始した。

電通国際情報サービス シニアITプロフェッショナル
比嘉康雄(ひがやすを)氏

 ひが氏はこの実績を元に、Seasarをオープンソースとして公開する。その後、SeasarはアプリケーションサーバではなくJavaフレームワークとして進化していくことになる。すべては「開発者を楽にする」というコンセプトに沿った結果だ。

 なぜ「開発者を楽に」という思いを抱いたのか。ひが氏は「自身の経験から」だと語る。システムインテグレータでシステム開発を行ってきたひが氏。苦労は少なくない。楽にできるところは楽にしたいという考えが、Seasarプロジェクトには込められている。

業務は100%オープンソース

 現在、ひが氏の会社での業務は100%、オープンソースに関することだ。Seasarプロジェクトや各種講演などがそれに当たる。イベントでの講演は1年に20回から30回ほどこなしている。

 もちろん、当初からオープンソース活動が会社の業務として認められていたわけではない。最初の1年間は平日業務が終わった後や週末にしかオープンソースにかかわることができなかった。

 「できれば平日昼間でも、修正対応や開発をしたかった。会社に認められた方が便利だな、と思っていました」

 だが、会社に対して何か具体的なアクションを行ったかといえば、「特に何もしなかった」とひが氏は答える。

 2005年、転機が訪れる。電通国際情報サービスがSeasar2を使った案件を受注したのだ。日々の業務の3分の1程度を、そのサポートに回してよい、と認められた。「なんだか変な話ですが、会社の仕事でもある、ということになったので」

 2006年以降は会社で100%オープンソースに時間を使ってよいということになった。ひが氏の同期で、当時、同社R&Dセンターに所属し、ビジネスインキュベーション業務を行っていた飯田哲夫氏が、会社に対してオープンソースの重要性を説いた結果である。

 「彼は、今後オープンソースを無視してビジネスはできない、オープンソースと付き合いながらどのようにビジネスを展開していくか考えていくべきである、と会社に働き掛けていたんです。Seasar2は幸い開発者が社内にいるのだから、それをきっかけに始めてみてはどうか、と」

プログラムはオープンでも、プログラマは報酬にこだわろう

 ひが氏は常々、「エンジニアは評価されづらい」と主張している。

 「きっと、一番評価されやすいのは営業。なぜなら、評価する軸がはっきりしているから。エンジニアは評価される成果が、お金のようにきっちり分かるものではない」

 品質の良い設計をしました、といったところで、「品質って何?」「ほかと比べてどうなの?」という疑問には答えられない。会社や評価制度がどうこうではなく、エンジニアとは根本的に評価しづらいのだ、とひが氏は語る。

 だが、自分がやりたいことをしたいなら、会社内で評価されないといけない。会社員だからだ。ひが氏はその解決法を「オープンソース」に求める。オープンソースで認められたことを、回りまわって会社に認めさせる。ひが氏は、Seasarプロジェクトが会社に認められたからこそ、開発者である彼自身もまた認められたのだ。

 「オープンソースプログラマであれば、ほかのプログラマから『クールだね』と称賛されたり、使ってくれるユーザーがいて、そのプロダクトのおかげでうまくいきました、といわれることがモチベーションにつながる」

 ひが氏は一方で「報酬にこだわらないと、プログラマの地位は低下する」とも主張している。オープンソースの場合、金銭的な価値や報酬が発生するわけではない。これは矛盾しないのだろうか。

 「プログラムそのものはオープンな、フリーなものでいいと思う。でも、そのプログラムを作っている人には価値があるはず。それを認めてほしいということなんです」

 優秀な人たちに、IT業界を選んで入ってきてほしい、とひが氏は語る。そうでなければ、IT業界は先細りしていってしまう。そのために、「報酬」という形で認められるのがIT業界にとって重要なのだ。

 「名誉だけでなく、金銭的にもオープンソースプログラマが評価されないと、優秀な人は集まってきづらいのではないでしょうか。子どもたちがIT業界にあこがれるには、そういう部分が必要なんです」

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