第9回 全体にかかわれるのはメーカーだけ?
香取裕子(パソナキャリア)
2008/2/14
したいことをするため、条件のいい仕事に就くためなど、さまざまな理由で人は転職する。組み込み業界とて例外ではない。組み込み業界の転職活動の喜怒哀楽を、キャリアコンサルタントがこっそり教えよう。 |
組み込みエンジニアにとっては、システム開発エンジニア(SE)と比べて、転職という手段はそれほど一般的なものではありませんでした。しかし最近は、エンジニア不足から転職は増えつつあります。
今回紹介するのは、もともとはSEから組み込み分野に転身したエンジニアの事例です。物語の中心となるのは、彼が組み込みエンジニアになってからの2回目の転職です。彼は学生時代に組み込み開発をする夢を抱いていたのですが、最初の就職時にそれはかないませんでした。しかしあきらめずに、組み込みエンジニアへの転身を果たしたのです。そして……。
■成功と思えた就職活動の先に待っていたのは?
国立大学の大学院で電子系を専攻していた中村さん(仮名、34歳)は、在学中からものづくり志向があり、プログラミングも好きでした。そのため、将来はメーカーで組み込み系の業務を中心とした製品開発をしたいと考えていました。現在は少なくなってきたようですが、中村さんが就職活動をしていたころは、まだまだ教授推薦で就職を決める人も多かったのです。そして中村さんもゼミの指導教官の推薦で、希望していた大手電機メーカーに就職を果たすことができたのです。
希望を持って入社した中村さんですが、就職先で待っていたのは、組み込みエンジニアの仕事ではありませんでした。総合電機メーカーだけに、ハードウェア、ソフトウェア、さまざまな事業があります。中村さんは、システム構築をする事業部に配属が決まり、SEとして社会人生活をスタートさせたのです。
最初は配属に不満を感じたものの、同じITの仕事であれば何かしら技術が習得できるだろうと考え、一生懸命仕事に打ち込むよう考えを改めたそうです。中村さんが主に担当したのは、金融系のシステム構築の案件でした。
最初の1、2年は、コーディング作業が中心で、前述したようにプログラミングも好きだった中村さんにはまったく苦にはなりませんでした。また、プログラミングをしていると、ものづくりの末端に連なっていると感じることもできました。またこのころから、仕事の合間にマイコン制御のプログラムを組んでみるなど、将来組み込み開発に携われるよう、自主的なスキルアップを怠りませんでした。
しかし3年目以降はプログラミングをすることもほとんどなくなり、協力会社の外注管理などの調整業務が多くなりました。そのため、ものづくりに連なっているという感覚も、次第に感じなくなっていったのです。
入社4年目に、中村さんはプロジェクトリーダーに抜てきされました。そうなってしまうと、ものづくりなどはまったく実感できない日々です。我慢もここまでと、社内の異動希望が握りつぶされた後、組み込み開発ができるところを見つけるべく、転職活動を開始しました。
組み込みエンジニアへの転身を図るうえで苦労したのは経験です。中村さんの年齢は29歳。そろそろ実績や経験が求められるころです。そのため、転職活動は苦労の連続でした。
それでも先ほども触れたように、マイコン制御のプログラミングなどをしていたこと、分野は異なりますがそれまでの仕事に対する取り組み、そして組み込みに対するやる気、それらを評価する会社があったのです。それが大手のメーカーの組み込み開発にかかわっていたA社という、社員100人ほどの会社だったのです。
こうして中村さんは、29歳にして組み込みエンジニアとしてのキャリアを積めるようになったのです。
そんな中村さんが弊社を訪れたのは、A社に転職を果たしてから5年ぐらいたったころでした。念願がかなって組み込みエンジニアになった中村さん、この5年で何があったのでしょうか。
■製品開発全体を見渡したい
その5年の中村さんの組み込みエンジニアとしての経験は素晴らしいものでした。メジャーなリアルタイムOS(VxWorks、TRON、Windows系)での開発はひととおり経験しました。主に担当したのは、携帯電話やカーナビゲーションシステムなどの民生機器です。
最近では、DVDレコーダーのユーザーインターフェイス(UI)の開発を担当しています。中村さんのそれまでの経験が買われ、マネージャに抜てきされたのです。
中村さんは順調にキャリアを重ねていましたが、組み込み開発全体を見渡しながら、さまざま開発の経験ができるようなことを模索していたのです。しかし、小規模なA社では制約があり、工程の一部しか体験できません。そこに中村さんは不満を持つようになりました。
そんなとき、DVDレコーダーのUI開発で、設計を担当していた会社から一方的に指示を受け、納得できないまま実装作業を引き受けるしかない、そんなことがありました。これでは創意工夫もなく、流れ作業をしていればいいだけのように感じます。
できれば工程全部を見渡せるような仕事に就きたい、その思いから今度の転職は人材紹介会社を利用しようと考え、弊社を訪れたとのです。
そんな中村さんが私に、「製品開発の中でも組み込み全体に携わる仕事は、メーカーに転職するしかないのでしょうか」と質問されました。
そこで、まずは中村さんの希望条件をいろいろと伺いました。中村さんの希望条件は(1)「これまでの上位レイヤだけでなく、下位レイヤの設計や組み込み部分全体に携わりたい」、(2)「マネージャとしてだけでなく、プレーヤーとしても動きたい」でした。ただし、製品自体(ジャンル)にはこだわりがないとのことでした。
■広がる転職先
中村さんの場合、将来の希望などはしっかりと持たれていたこと、1社目の経験をうまく生かしながら、2社目で専門性を磨いていらっしゃったことから、2回目の転職では、さまざまな選択肢がある恵まれた状況でした。
ただ中村さんにあらかじめ説明していたのは、メーカーであっても部門などが細分化し、工程全体にかかわるエンジニアは限られる可能性があるということでした。そして、工程全体にかかわれる、工程全体を見渡せる、いい業務があると紹介したのが、組み込み用リアルタイムOSのパッケージベンダの開発・コンサルティング職でした。
中村さんはそのパッケージベンダに興味を持たれ、応募することになりました。仕事内容はOSの開発、各メーカーやシステム会社に対しての技術支援といったものです。開発、しかもOSの開発に携われること、全体を見渡しながら開発できること、そして技術支援という仕事にも興味を持たれたようです。技術支援といっても、OSがからむため、OSへの深い造詣、技術的なバックボーンがなくてはなかなかできる仕事ではありません。つまり、ここでもOS全体を見渡したうえで技術支援をする必要があるというところに、チャレンジしたいと感じられたようでした。
パッケージベンダも中村さんのこれまでの実績を評価し、選考はスムーズに進みました。そして中村さんは無事内定を得ることができ、転職することができました。
■重要だった2社目の経験
中村さんの場合は、非常にうまくいった転職事例だと思います。
中村さんの転職がうまくいったのは、最初の転職で、うまく組み込みエンジニアに転身できたことがあります。年齢のことを考えると、このときは実力とともに運も味方につけた気がします。しかも、メーカー本体などにこだわらず、実際に自分が組み込み開発ができる職場を優先したこともよかったと思います。
そして2回目の転職では、2社目の開発経験などの実績が大きく評価されました。また工程全体にかかわれる仕事であれば、メーカーにこだわらないとしたところも、転職が成功した大きな要因になりました。
皆さんも優先したいことは何か、忘れないように!
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筆者プロフィール |
香取裕子(パソナキャリア)●大学・大学院で日本語教育を専攻する傍ら、学生やビジネスパーソンに進路指導カウンセリングなどを行う。大学院卒業後、原子力関係の研究所に勤務し、研究者や技術者のサポートに携わる。その後、パソナキャレント(現:パソナキャリア)に転職。 |
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