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ITエンジニアを続けるうえでのヒント〜あるプロジェクトマネージャの“私点”

第5回 リーダーシップは生まれつきの才能ではない

野村隆(eLeader主催)
2005/7/26


将来に不安を感じないITエンジニアはいない。新しいハードウェアやソフトウェア、開発方法論、さらには管理職になるときなど――。さまざまな場面でエンジニアは悩む。それらに対して誰にも当てはまる絶対的な解はないかもしれない。本連載では、あるプロジェクトマネージャ個人の視点=“私点”からそれらの悩みの背後にあるものに迫り、ITエンジニアを続けるうえでのヒントや参考になればと願っている。

リーダーシップのスキルは生まれつきのものか

 この連載も今回で5回目になりました。連載の趣旨は、プロジェクトマネージャ、およびプロジェクトマネージャになりたい人のための心構えを解説することです。いい換えれば、プロジェクトマネージャに必要な「リーダーシップ」の解説を意図しています。

 連載開始以来、さまざまなご意見をいただきました。リーダーシップに関するご意見の中には、「前向きにリーダーシップを身に付けたい!」というものから「どうせ私にはリーダーシップは身に付かないのであきらめます」という寂しいものまでいろいろありました。そのようなご意見をいただいているうちに、リーダーシップの能力・スキルは生まれつきのもの、と考えている方が多いことに気付きました。

 例えば、声が大きい、人をリードする雰囲気などの要素は生まれつきの能力・スキルだ、という人がいます。横柄である、態度がでかいなどの要素を持ち出す人もいます。個人的には、横柄さやでかい態度はリーダーシップの属性ではないと思いますが、横柄で態度がでかい人になるくらいならリーダーになりたくない、と曲解されている方もいました。

 リーダーシップは持って生まれた才能なのでしょうか。自分の努力でカバーできない性質を持つのでしょうか。

リーダーシップは先天的なものではない

 結論を先にいってしまうと、リーダーシップの能力・スキルは先天的なものである、という考え方は間違っています。生まれつきの能力である程度カバーされる領域もありますが、ちょっとしたテクニックを知っていて、心の持ち方(精神力)がしっかりしていれば、リーダーシップの素地は出来上がります。

 リーダーシップは生まれつきの才能だという整理をしてしまう人は、リーダーシップの能力・スキルを身に付ける努力を放棄しているにすぎないと、私は考えます。

 素地が出来てしまえば、後はどの程度までリーダーシップスキルを身に付けるか、経験を積んでいくか、という程度問題です。多くの優れたリーダーは、リーダーシップは生涯学び続けるものといっています。私自身もまだまだ勉強中です。

 いままでの連載は、「リーダーシップはこうあるべき!」というような内容だったと思います。このままでは、「私はリーダーには向いていないのであきらめます」という人が出てしまいそうだという危ぐがあります。ですので今回は、「リーダーシップを身に付けることはそんなに困難ではないのです。努力次第なのですよ!」という視点で解説したいと思っています。

子どもが絵を描くテクニック

 話を分かりやすくするために、子どもが絵を描くことを例に挙げてみましょう。

 世間一般に、絵のうまい下手は生まれつきの才能で決まるといわれます。確かにそういう側面はあるでしょう。また、「絵は教えなくても描ける」という人がいます。確かに、文字は教えないと書けるようになりませんが、子どもがクレヨンを握って線を引けば、何かの絵になります。

 しかし、絵を描くテクニックを知っているのと知らないのとでは、子どもの絵の出来、能力の伸びが全然違います。例えば、以下の題で子どもにクレヨンで絵を描かせるとします。「木に止まっている虫を描いてください」

 テクニックを知らない子どもは、指示された順番に、先に木を描いて色を塗ってしまい、その上に虫を描きます。そうすると、クレヨンでべったり木を塗ってしまった上に虫を描くので、きれいに虫の色が塗れません。

図1 テクニックを知らない子どもの絵 図2 テクニックを知っている子どもの絵

 テクニックを知っている子どもは違います。先に虫を描いてから、木を塗ります。そうすると、木の色を塗るのは虫の周りだけなので、結果としてきれいな絵が描けます。習得するのは困難ではないけれど、効果的なテクニックですよね。

 次のような題はどうでしょう。「木に登っている人を描いてください」

 テクニックを知らない子どもは、まず正面を向いた人間を描いてしまいます。それ以外に描く方法を知らないから仕方がないのです。その後から木を描くので、人間が背中向きに木に登るような珍妙な絵を描いてしまいます。

図3 テクニックを知らない子どもの絵 図4 テクニックを知っている子どもの絵

 テクニックを知っている子どもは違います。人間を横から見たら、目が横に1つだけ見えて、鼻が片側についているように描くことを知っています。横向きの人間を描くテクニックを持っているので、普通に木に登っている人を描くことができます。これも習得するのは困難ではないけれど、効果的なテクニックですよね。

リーダーシップのスキルを身に付けるのは困難ではない

 例えが長くなりました。話を元に戻しましょう。

 リーダーシップの能力・スキルを身に付けることは、子どもに絵を描くテクニックを教えることに似ています。

 上記の例の、木に止まっている虫を先に描く、木に登る人を横向きに描く、ということを、教えていないのに理解し実践できる子どもはいるでしょう。ただそれは、偶然その子どもがテクニックを本能的に身に付けていただけです。本能的に身に付けていない子どもが、本能的に身に付けている子どもと比べて絵を描く資質が劣るかというと、そんなことはないわけです。単に、テクニックを教えればいいのです。テクニック自体もそれほど身に付けることが困難なものではありません。

 リーダーシップも同様です。リーダーシップの基本的なテクニックを本能的に身に付けていない人も、単にテクニックを教わり、身に付ければいいわけです。

 では、リーダーシップの基本的なテクニックは、身に付けることが困難なテクニックなのでしょうか。個人的意見では、簡単ではないが時間をかけて根気よく取り組めば誰でも身に付けられるものだと思います。

 例えば、100メートルを10秒以内で走ったり、宇宙に飛び立つロケットを設計したり、というようなことは誰にでもできることではないでしょう。生まれつき体力的・頭脳的に恵まれている人が、努力に努力を重ね、さらにその中から選ばれた人だけが達しうる領域なのではないでしょうか。

 一方、リーダーシップのスキルには、人並み外れた強靭(きょうじん)な体力や優れた頭脳は必要ないのです。必要なものは、失敗を恐れない精神、計画を立てて前向きに実行すること、多彩な個性を持った人と適切にコミュニケーションすること、その程度です。

 従って、リーダーシップの能力・スキルは、かかる時間に個人差はあれど、本人の努力次第で身に付けることが可能と考えています。

必要なのは心の力

 次に、リーダーシップに関する能力・スキルを身に付けることが簡単かどうか考えましょう。

 先に、リーダーシップスキル獲得には、「人並み外れた強靭(きょうじん)な体力や優れた頭脳は必要ない」と述べました。これは真理と認識しています。一方で、強い精神力は求められます。しかし精神力は、外から見ていくつというような客観的な数値では計測不可能です。

 いい換えれば、客観的に「あなたにはリーダーシップ能力は絶対に身に付かない」というような基準はないのです。ただし、目に見えない心の力というか、精神力というか、そういった力は絶対的に必要です。

 ですから、リーダーシップを身に付けたい方は、精神面の強化という考え方を忘れないようにしてください。繰り返しですが、ちょっとしたテクニックを知っていて、心の持ち方(精神力)がしっかりしていれば、リーダーシップの素地は出来上がります。この「ちょっとしたテクニック」「心の持ち方(精神力)」を忘れないようにしてください。「ちょっとしたテクニック」が大事ということが、今回いいたいこと。「心の持ち方(精神力)」が大事ということが、この連載で一貫していっていることです。

日々行動に移す強さを

 整理すると、以下のようになります。

  • リーダーシップの能力・スキルは先天的なものではない
  • 生まれつきテクニックを身に付けていないからといって、リーダーになることをあきらめることはない
  • ちょっとしたテクニックを学び、実践することでリーダーシップを身に付けることができる
  • ただ、簡単に身に付けられるかといえばNoである
  • リーダーシップを身に付けるためには、精神的な強さが求められる

 この連載では、リーダーシップのスキルを身に付けるための有益なテクニックを継続して提供したいと思っています。いままでの連載で紹介したテクニックは以下のようなものです。

 相対性理論とかマルクス共産主義とかのように、特に理解が困難な理論ではないでしょう。ある意味、誰でも理解できる内容です。

 ただし、これらを実践するときに、精神的な強さが求められるわけです。いい訳を探し、できない理由を見つけて、これはできませんといっている限り、リーダーシップは身に付きません。

 ぜひ、あきらめず、時間をかけて、この連載をご覧いただき、日々、リーダーシップが必要なときの実践にあてはめ、経験を積んでください。先天的にテクニックを身に付けていない人であっても、いつの日か、リーダーシップを身に付けている自分に気付くでしょう。

 連載第3回でも次のようにお話ししました。

 本田宗一郎氏のいう「チャレンジして失敗を恐れるよりも、何もしないことを恐れろ」。これは解説するまでもないでしょう。

 今日、いま、自分がよく「考え」て、正しいと信じた道を突き進む「行動力」を発揮する勇気を持ってください。

 精神的な強さが必要ということをご理解いただき、日々行動に移す強さを忘れないでください。

筆者プロフィール
野村隆●大手総合コンサルティング会社のシニアマネージャ。無料メールマガジン「ITのスキルアップにリーダーシップ!」主催。早稲田大学卒業。金融・通信業界の基幹業務改革・大規模システム導入プロジェクトに多数参画。ITバブルのころには、少数精鋭からなるITベンチャー立ち上げに参加。大規模(重厚長大)から小規模(軽薄短小)まで、さまざまなプロジェクト管理を経験。SIプロジェクトのリーダーシップについてのサイト、ITエンジニア向け英語教材サイトも運営。
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