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パソコン創世記


再び春日山

富田倫生
2009/10/7

「倒れよう。『陽』の世界へ」へ

本連載を初めて読む人へ:先行き不透明な時代をITエンジニアとして生き抜くためには、何が必要なのでしょうか。それを学ぶ1つの手段として、わたしたちはIT業界で活躍してきた人々の偉業を知ることが有効だと考えます。本連載では、日本のパソコン業界黎明期に活躍したさまざまなヒーローを取り上げています。普段は触れる機会の少ない日本のIT業界の歴史を知り、より誇りを持って仕事に取り組む一助としていただければ幸いです。(編集部)

本連載は『パソコン創世記』の著者である富田倫生氏の許可を得て公開しています。「青空文庫」版のテキストファイル(2003年1月16日最終更新)が底本です。「青空文庫収録ファイルの取り扱い規準」に則り、表記の一部を@ITの校正ルールに沿って直しています。例)全角英数字⇒半角英数字、コンピューター⇒コンピュータ など

 特講体験からちょうど1年後、1975(昭和50)年の1月、タケシは再び春日山を訪れた。

 研鑽学校に参加するためである。

 特講が初めてヤマギシズムと出会う人のための第1ステップだとすれば、研鑽学校は第2ステップといったところか。期間は2週間で半日は実顕地での作業、半日はテーマに沿った話し合い、研鑽会にあてられる。

 小高い丘を上ったところにある、山岸会の本部棟。特講の会場となる本部棟から200メートルほど離れたところに、研鑽学校の会場となる20畳ほどの広さの建物がある。このときの参加者は、タケシも含めて10人ほどだった。

 特講では、参加者にZ革命にいたる道が示されるのに対し、研鑽学校ではヤマギシズム社会の実現のためにどの道をとるかが問われてくる。現在自分が属している組織なり社会なりにとどまり、できるだけ多くの人を特講に送り込んで革命の主体となる個人を生み出し、革命への道を模索していくのか。それとも今すぐに実顕地に入り、革命を始めてしまうのか。

 「最終的にはあなたはどうするのか」という問いかけが、2週間の労働と研鑽の日々を通じて行われる。

 実顕地に入り、今すぐに革命を始めることを、ヤマギシでは「参画」するという。ここでいう参画は、加わるあるいはあずかるといった弱いニュアンスを伝える言葉ではない。参画は革命の開始であり、ヤマギシズムの中心的な理念の1つである無所有の現実化である。

 参画して一体生活に入る人は、これまで築いてきた財産や自分の体、能力、そして子供も含め、いっさいを実顕地全体に「放」して所有することをやめる。

 自らの体と能力も所有物ではないのだから、自分の行う労働も自分のものではない。働いた時間の長短や仕事の種類、仕上がりの良し悪しなどで、受け取るものに差がつくわけではない。実顕地外の常識からいえば、すべての労働は「タダ働き」である。

 ヤマギシの人々は、実顕地を「金のいらない仲良い楽しい村」と称するが、事実実顕地内では金は使われておらず、全体が1つの財布で暮らしている。

 食事は1日に2度、食堂で食べる。日用品は「村のお店」と呼ばれる場所に置かれており、必要になればそこから取ってくる。実顕地外に出て旅行でもするとなれば、村では必要のないお金がいることになる。そんなときは生活の世話係となる総務にその旨申し出て、認められれば全体の財布から金が手渡される。

 実顕地には特定の固定的な指導者は置かないことになっており、世話係の総務も半年ごとに自動的に改選される。

 子供も親の所有物ではない。

 5歳までは親といっしょに暮らし、昼間は育児舎に預けられるが、6歳からは学育舎で子供たちによる共同生活を送り、親のところへは2週間に一度だけ帰る。

 研鑽学校で過ごす2週間の半分は、参画した人々と肩を並べての労働であり、期間中の食事は彼らと席を接して食堂でとる。いわばこの2週間は、革命への体験的参加といえようか。

 タケシはこの2週間を楽しんだ。

 だが、研鑽学校を終えても、参画しようという気持ちにはなれなかった。山岸会は自らを縛っていた焦りを断ち切ってくれ、変革への1歩を踏み出すヒントを与えてくれた。しかしこのときはまだ、タケシにとって山岸会はすべてをかける存在ではなかったのである。

 タケシに先だって研鑽学校に参加したヨーコにとっても、思いは同じであった。

 タケシは電話工事の仕事を続け、ヨーコは2人の子供を育てていた。

 1976(昭和41)年、タケシは22歳、ヨーコは23歳となった。この年の8月、日本電気からTK-80が発売された。

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