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パソコン創世記
世界標準機、IBM PCの誕生

「本気でウェルカム、IBM殿」

富田倫生
2010/2/25

「『IBMを踏み台にして大きくなれ』」へ

本連載を初めて読む人へ:先行き不透明な時代をITエンジニアとして生き抜くためには、何が必要なのでしょうか。それを学ぶ1つの手段として、わたしたちはIT業界で活躍してきた人々の偉業を知ることが有効だと考えます。本連載では、日本のパソコン業界黎明期に活躍したさまざまなヒーローを取り上げています。普段は触れる機会の少ない日本のIT業界の歴史を知り、より誇りを持って仕事に取り組む一助としていただければ幸いです。(編集部)

本連載は『パソコン創世記』の著者である富田倫生氏の許可を得て公開しています。「青空文庫」版のテキストファイル(2003年1月16日最終更新)が底本です。「青空文庫収録ファイルの取り扱い規準」に則り、表記の一部を@ITの校正ルールに沿って直しています。例)全角英数字⇒半角英数字、コンピューター⇒コンピュータ など

 OSはオプションにまわされていたが、マイクロソフトの開発したPC-DOSに加えて、デジタルリサーチのCP/M-86とソフテックマイクロシステムズのP-Systemの供給も予定されていることが明らかにされた。さらに発表によれば、IBMはPC用にパーソナルソフトウエアのビジカルクやピーチツリーソフトウエアの3種類の会計プログラムなど、これまで8ビット機で人気を集めてきたソフトウエアを自社から供給するとしていた。あわせて供給を約束したイージーライターと呼ばれるワードプロセッサーに関しては、IBMはもっともIBMらしからぬ人物と組むことさえ厭わなかった。伝説的な長距離電話ただがけ装置、ブルーボックスの開発で知られる反体制派技術者、キャプテンクランチことジョン・ドレイパーは、アップルII 用にワードプロセッサーを書き、イージーライダーをもじってイージーライターと名付けて好評を博していた。これに目を付けたIBMは、ドレイパーに依頼してPC用に書きなおさせていた。

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 IBMはこのPCを、従来からの自社の販売ルートに加えて、シアーズローバックやコンピュータランドを通じて売ることを明らかにした。

 PCで唯一衝撃的な要素は、IBMがこのマシンに関して徹底したオープンアーキテクチャーで臨むとした点だった。回路図からさまざまな技術情報、システムソフトウエアの核となるBIOSの中身にいたるまで、IBMはPCのすべてを全面的に公開する方針を打ち出した。

 PCの価格は、基本構成で1565ドル。出荷開始は10月と発表された。

 PC-DOSと並んでCP/M-86がIBMから供給されることになるにあたっては、デジタルリサーチとIBMのあいだで事前にトラブルがあった。マイクロソフトがPC用に開発したというOSを発表の直前になって入手したゲアリー・キルドールは、その機能がCP/Mそっくりそのままであることに気付いた。解析ツールを用いて調べてみると、プログラムをそのままコピーしたとしか思えない箇所まで出てきた。キルドールはIBMに強く抗議したが、結局CP/M-86もPC用のOSとしてIBMから販売することで矛をおさめた。

 だがCP/M-86の発売は1982年4月までずれ込み、価格もPC-DOSの60ドルに対して240ドルと設定された。

 16ビットの世界に確かに片足を踏み込んだとはいえ、PCは傑出したマシンではありえなかった。だがコンピュータの世界に君臨してきたIBMのロゴマークを付けているにもかかわらず、PCはアルテア以来の「共棲」をキーワードとした流儀を受け入れた、じつにパーソナルコンピュータらしいマシンに仕上がっていた。

 PCの発表直後の8月24日、アップルは地元紙のサンノゼマーキュリーに「本気でウェルカム、IBM殿」と全面広告を打った。

 「35年前に始まったコンピュータ革命の中においても、もっともエキサイティングで重要な市場へようこそ」

 だがIBMの独立事業単位が自社の伝統によらず、パーソナルコンピュータの文化に沿ったことで、PCの投げかけた波紋は誰にも予想できなかったほど、長く遠く、いつまでも広がっていくことになった。

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