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パソコン創世記
マイクロソフト、パソコン環境の統合を目指す

このマウスというヤツが

富田倫生
2010/3/26

「京都セラミツク社長、稲盛和夫」へ

本連載を初めて読む人へ:先行き不透明な時代をITエンジニアとして生き抜くためには、何が必要なのでしょうか。それを学ぶ1つの手段として、わたしたちはIT業界で活躍してきた人々の偉業を知ることが有効だと考えます。本連載では、日本のパソコン業界黎明期に活躍したさまざまなヒーローを取り上げています。普段は触れる機会の少ない日本のIT業界の歴史を知り、より誇りを持って仕事に取り組む一助としていただければ幸いです。(編集部)

本連載は『パソコン創世記』の著者である富田倫生氏の許可を得て公開しています。「青空文庫」版のテキストファイル(2003年1月16日最終更新)が底本です。「青空文庫収録ファイルの取り扱い規準」に則り、表記の一部を@ITの校正ルールに沿って直しています。例)全角英数字⇒半角英数字、コンピューター⇒コンピュータ など

 その稲盛が、成田に向かう機上ではもっぱら西の聞き役にまわった。

 「今後、OAの市場はどう推移していくのか。どんなパソコンが、これからの中心になっていくのか」

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 そう稲盛に水を向けられたとき、西の脳裏に浮かんだのはIBM PCではなかった。他の業界の人物相手という気安さに、稲盛のはさむ相づちの的確さが手伝って、西はもしも許されるのなら自分自身で今すぐにでも作ってみたいマシンについて語りはじめた。

 西はIBM PCをはさんで、上位と下位のそれぞれの分野に新しい可能性があると考えていた。

 机上に据え付けて使う16ビットのPCの下位に西が思い描いていたのは、持ち運びの可能なハンドヘルドコンピュータだった。

 西が稲盛と出会う直前、のちにエプソンと社名を変更する信州精器は、HC-20と名付けた超小型のパーソナルコンピュータを発表していた。縦横はわずかに『ASCII』誌ほどしかなく、容易に持ち歩けるサイズながら、HC-20はタイプライター型のまともなキーボードを備え、電卓の延長のようなポケットコンピュータとは一線を画した本格的な8ビット機に仕上がっていた。HC-20の本体には、液晶のディスプレイに加えて、補助記憶として使うマイクロカセットレコーダーと小さなプリンターまで組み込まれており、西はこのマシンにもマイクロソフトのベーシックを売り込んでいた。

 この世界初のハンドヘルドコンピュータにあらたな出発の可能性を感じとっていた西は、HC-20の延長線上に新しいマシンの姿を思い浮かべた。斬新なイメージを見事に製品にまとめ上げたHC-20だったが、20字×4行(120×32ドット)を表示できるだけの液晶ディスプレイはいかにも力不足だった。だがこの時期、液晶ディスプレイの大型化は急速に進みつつあった。日立は40字×8行(240×64ドット)を表示できる液晶の部品供給をアナウンスしていた。

 こうした大きめの液晶ディスプレイを使ったハンドヘルドコンピュータに、ワードプロセッサーと通信用のソフトウエアをROMに組み込んで持たせてしまう。そうすれば出先で文書を書き、コンピュータ内部の信号をいったん音に変換して電話回線に載せる音響カプラーなどと組み合わせて、原稿を電話で送ってしまうことができるだろう。

 「こんなハンドヘルドコンピュータを今作ったら、アメリカのジャーナリスト連中は飛び付いてきますよ」

 西はいかにも楽しそうに、そう断言して微笑んだ。

 ハンドヘルドコンピュータのイメージをスケッチしたメモを裏に回し、西は新しい紙にもう1つのコンピュータを描きはじめた。今度のスケッチには、ごく普通のパーソナルコンピュータらしいものが書き込まれた。だがキーボードの脇にタバコのようなものが添えてあり、そこからマシンに紐が伸びていた。

 「このマウスというヤツがね、ポイントになるんですよ」

 西はそう言ってから、稲盛の目をのぞき込むようにして微笑んだ。

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