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パソコン創世記
第2部 第5章 人ひとりのコンピュータは大型の亜流にあらず
1980 もう1人の電子少年の復活

「ホビイストへの公開状」

富田倫生
2010/5/28

前回「タイニーベーシックを自作するホビイストたち」へ

本連載を初めて読む人へ:先行き不透明な時代をITエンジニアとして生き抜くためには、何が必要なのでしょうか。それを学ぶ1つの手段として、わたしたちはIT業界で活躍してきた人々の偉業を知ることが有効だと考えます。本連載では、日本のパソコン業界黎明期に活躍したさまざまなヒーローを取り上げています。普段は触れる機会の少ない日本のIT業界の歴史を知り、より誇りを持って仕事に取り組む一助としていただければ幸いです。(編集部)

本連載は『パソコン創世記』の著者である富田倫生氏の許可を得て公開しています。「青空文庫」版のテキストファイル(2003年1月16日最終更新)が底本です。「青空文庫収録ファイルの取り扱い規準」に則り、表記の一部を@ITの校正ルールに沿って直しています。例)全角英数字⇒半角英数字、コンピューター⇒コンピュータ など

 『DDJ』に対する期待と反応の大きさに、アルブレヒトは専従で編集にあたってくれるスタッフを確保しようと考えた。スタンフォード大学の卒業生でコンピュータの布教活動に長く携わり、ホームブルーの集まりにも顔を出していたジム・ウォーレンに、アルブレヒトは声をかけた。

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 すでに『DDJ』に目を通していたウォーレンは、この企画が情報の穴を見事についていることに共感していた。ことハードウェアに関しては、すでにアルテアがあり、この領域をカバーする雑誌も存在していた。だがまとまった成果がほとんど存在しないソフトウェア分野は、情報に関してもこれまでまったくの真空地帯となってきた。

 ウォーレンは、このソフトウェアの空白こそが、ビル・ゲイツと多くのホビイストたちとの軋轢の根にあると考えていた。

 MITSは、ゲイツの開発したベーシックの価格を高く設定する一方で、不良品だらけのメモリー、入出力ボードとのセット価格は大幅に割り引いた。多くのユーザーはセットでの注文を選んだが、MITSはできの悪いボードだけを送りつけ、ベーシックに関しては供給が遅れると一方的に通告するのみだった。さらにMITSは、アルテア用の増設ボードを開発してさまざまな機能拡張に道を開いていこうとするサードパーティーに対し、敵対的な姿勢をとった。MITSがアルテアに付けた不親切で貧弱なマニュアルを補うために、ホビイストたちは雑誌を通して情報交換に努めていた。問題点を残したまま発送されたアルテアの基板の修理法も、ホビイスト自身の手によって雑誌に発表された。

 そうした背景があった中で、MITSの主催したデモンストレーションの会場から漏れ出したベーシックの紙テープが、大量にコピーされてホビイストのあいだに広まった。ベーシックの販売数に応じた印税契約をMITSと交わしていたビル・ゲイツは、アルテアの会報に「ホビイストへの公開状★」を書き、「君たちの多くはソフトウェアを盗んでいる」と指弾した。

★ホビイストへの公開状

 私にとって、現在のホビイ市場における最大の問題は、すぐれたソフトウェアのカリキュラムや書籍、そしてソフトウェア自体が存在していないということです。すぐれたソフトウェアや、プログラミングを理解するオーナーがいなければ、ホビイ用のコンピュータはむだになります。では、ホビイ市場向けにすぐれたソフトウェアが書かれるのでしょうか。

 1年ほど前、ポール・アレンと私はホビイ市場の拡大を期待してモンテ・ダビドフを雇い、アルテアベーシックを開発しました。初期作業はわずか2カ月ですみましたが、その後3人でベーシックのマニュアル作成や改良、機能の追加を行うのにほとんど昨年いっぱいを費やしました。今では4K版や8K版、拡張版、ROM、ディスクベーシックがそろっています。我々が費やしたコンピュータの使用時間は、金額にして4万ドル以上になります。

 ベーシックを使っているという何百人ものユーザーから得た反応は、すべて好意的でした。しかし2つの驚くべきことが明らかになりました。(1)これら〈ユーザー〉のほとんどはベーシックをけっして買わなかった(アルテアの所有者全体の10パーセント以下しかベーシックを購入していない)。(2)ホビイストへの販売から得たロイヤリティー(使用料)の金額から換算すると、アルテアベーシックの開発に費やした時間の価値は1時間当たり2ドル以下となる。

 これはなぜなのでしょうか。大多数のホビイストが理解しているように、あなた方のほとんどは自分用のソフトウェアを盗んでいるのです。ハードウェアにはお金を払わなければならないけれど、ソフトウェアは共有するものだというわけです。ソフトウェアに取り組んだ人たちが報酬を得ようが得まいが、どうでもいいことだと。

 これはフェアーなことでしょうか。盗んでいるために、あなた方はなにか問題があったとしてもソフトウェアをMITSに持ち込むことはしないでしょう。MITSはソフトウェアの販売で儲けてはいません。我々に支払うロイヤリティーや、マニュアル、テープ、諸経費のために勘定はとんとんの状態です。あなた方の行為はすぐれたソフトウェアの開発を妨げているのです。誰がただでプロフェッショナルな仕事をやれるでしょうか。どんなホビイストが3人年をかけてプログラミングし、バグをすべて見つけ、製品のドキュメンテーションを行って無料配付できるでしょうか。実際、我々以外誰もホビイ用のソフトウェアに多額の資金を投資したものはいません。我々は6800ベーシックを書きましたし、現在8080APLや6800APLを書いています。しかしこのソフトウェアをホビイストに提供しようという気持ちにはほとんどなれません。もっとはっきり言えば、あなた方がやっているのは盗みです。

 アルテアベーシックのまた売りを行っている連中はどうでしょうか。彼らはホビイソフトウェアでいくらか儲けてはいませんか? けれどもそうした振る舞いを我々に報告された連中は、結局負けるでしょう。彼らこそホビイストに汚名をきせた張本人であり、いかなるクラブの会合からも締め出されるべきです。

 お金を払いたい人、あるいは提案や意見のある人たちからの手紙を歓迎します。以下の住所に手紙をください。1180 アルバラド SE、#114、アルバカーキー、ニューメキシコ州、87108。10人のプログラマーを雇ってホビイ市場をすぐれたソフトウェアでいっぱいにできれば、これに勝る喜びはありません。(『コンピュータノーツ』1976年2月号)

 ソフトウェアがほとんど存在していない中で、ともに手を取って空白を埋めようとタイニーベーシックの自作運動に乗り出していたホビイストたちは、このゲイツの指弾に強烈な反発を見せた。ゲイツのもとには反論の手紙が殺到し、ホビイストの雑誌にも多くの反対意見が掲載された。外野のホビイストの目には、ビル・ゲイツはユーザーに誠実に対応するための体制作りを放棄し続けたMITSとぐるとしか映らなかった。

 この大騒動を、ジム・ウォーレンはソフトウェアの空白という構造が生み出した現象ととらえていた。そして、無料もしくは非常に安いソフトウェアがつぎつぎと生み出されるようになれば、ソフトウェアの作り手と使い手が互いを泥棒呼ばわりして非難しあう事態は避けられるだろうと考えた。

 タイニーベーシックのプロジェクトのような共棲を目指す試みに支えられて、共有を前提としたソフトウェアが書かれれば、自らをメーカーと位置づける側はユーザーの窮状につけ込むような不当な値段はつけられなくなるだろう。またユーザーも、ソフトウェアが充分安ければ、書き手の意に背いてコピーするよりは買う方を選ぶだろう。

 こうした正のサイクルを作り上げていくうえで、『DDJ』の果たす役割はきわめて大きいと考えていたウォーレンは、編集にあたってくれないかとの提案を喜んで受け入れ、月給350ドルで専従担当者となって2号から編集作業にあたった。

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