
国際競争時代に突入するITエンジニアに生き残り策はあるか?
日本人ITエンジニアはいなくなる?
第3回 国内で活躍する海外ITエンジニアの最終目標とは?
小平達也(パソナテック
中国事業部 コンサルタント)
2004/1/16
| ITエンジニアの競争相手が海の向こうからやってくる。インド、中国、それに続くアジア各国。そこに住むエンジニアたちが日本人エンジニアの競争相手だ。彼らとの競争において、日本人エンジニアはどのような道を進めばいいのか。日本だけでなく、東アジア全体の人材ビジネスに携わる筆者に、エンジニアを取り巻く国際情勢を語ってもらった |
■日本でブリッジSEとして
本連載ではこれまで、拡大する中国ビジネスと人材獲得競争の現状、日本企業に変化の兆しがあることなどを述べてきた。今回は、実際に日本で活躍中の中国人ITエンジニアにインタビューした。彼らが何を求めて日本にやってきているのかを知り、それを通して日本人のITエンジニアがどうあるべきかのヒントとしてほしい。
ブリッジSEについては、すでに知っている方も多いだろう。これは「オフショア開発において、海外との架け橋となるシステムエンジニア」という意味。テレビ番組でも紹介、解説されたことがあり、言葉はIT業界以外にも広がりつつある(筆者は日本で初のブリッジSEサイトも運営している。
そんなブリッジSEとして、某システムインテグレータで活躍する王氏(仮名・30歳)を紹介しよう。
| 来日の動機 小平 そもそも、王さんが日本で仕事をしたいと思ったきっかけはどのようなものだったのですか? 王氏 もともと、中国の大学を卒業後、3年ほど日本向けのソフトウェアの開発をしていました。といっても日本からくる仕様書に基づいて、主に下流工程を担当していたのです。オフショア開発の受託です。現地では、いつまでたってもコーディングと単体テストがメインでした。私としては、自分のキャリアを考え、日本のエンドユーザーと直接、業務の打ち合わせができるような、上流の仕事に挑戦したいと、常々思っていました。その実現のため、業務をしながら夜学に通って日本語を集中的に学習していました。 日本での業務 小平 なるほど。王さんはその後、来日し、すでに4年目を迎えるということですが、日本という異国の地での仕事環境に慣れるのは大変だったのではないですか? 王氏 生活面では、慣れるまで少し大変でしたが、いまは家族も呼び寄せていて問題ありません。仕事面では当初から違和感はありませんでした。中国で勤務していたときから、ずっと日本向けの開発をしていたのがよかったのだと思います。日本の管理方式には慣れていましたから。小平 日本人ITエンジニアとのコミュニケーションはどのようにしているのですか? 王氏 いま一緒に仕事をしている人たち含め、日本国内ではすべて日本語で仕事をしています。中国の開発拠点に出張したときはもちろん中国語です(笑)。現地とは専用線を経由して、常時開発の進ちょく状況を把握できますので、基本的には日本にいます。日本人のプロジェクトメンバーとのコミュニケーションでは気を使います。重要事項や上司からの指示は、念のため書面でも確認してミスを回避するよう努めています。 今後の展望 小平 王さんからは、日本人のITエンジニアはどのように見えるのでしょうか? また、王さんは将来的なキャリアパスのイメージは? 王氏 日本人のITエンジニアの方は、まじめな方が多いようです。時としてまじめ過ぎるかもしれません。驚いたことは、私が中国で以前担当していたような下流工程を、コストの高い日本国内でも担当している人が多いことです。 私自身は、日本の顧客との交渉力を磨いていきたいですね。日中間で活躍するブリッジSEとして大きく成長したいですから。 |
■派遣社員として活躍する女性エンジニア
趙氏(仮名・27歳)は某大手電機メーカーで派遣社員として就業するITエンジニアである。主にWebアプリケーションの開発を担当している。王氏が、中国オフショア開発ブリッジSEとして中国人としての強みを積極的に生かしているのに対して、趙氏は国内の日本人ITエンジニアとまったく同じ立場で就業している。
| 大学と企業 小平 中国では、大学が企業の開発案件を受託したりしていますよね。趙さんのご出身である北京の大学では特に多いのではないですか? 趙氏 そうです。私も大学生のころから企業向けのプロジェクトに参加していました。卒業後に就職した北京の会社も、社名に大学の名前が入っていたり、所在地が大学の中にあったりしていました。中国では企業と大学の共同開発が一般的ですし、特に北京では盛んだと思います。 日本で就業への経緯 小平 趙さんは中国の企業で2年間勤務した後、24歳という比較的若くして来日していますね。来日のきっかけはなんだったのでしょうか? 趙氏 私の場合、もともと知名度の高い海外の企業にあこがれを持っていました。私が卒業した大学の同じクラスの約30人のうち、ほとんどが欧米で勤務しています。私の場合は大学卒業後、海外向けの開発を担当していました。その中で、日本企業の担当者と英語でやりとりするうちに、日本に対する興味がわきました。日本の高い技術や管理方式を勉強し、自分の視野を広げたいと思い日本に来ました。 日本語 小平 趙さんは来日当初はいまのように日本語はしゃべれず、英語で仕事をしていたと聞きましたが? 趙氏 はい。中国で日本向けの仕事をしているときはすべて英語で対応していたので、日本語は来日前に3カ月程度勉強しただけでした。来日して最初に勤めた会社は外資系企業でしたので、社内会議は英語がメインで助かりました。その後は日本語についていくのが大変でしたが、仕事をしながらマスターしました。 日本人ITエンジニアについて 小平 趙さんは、大学時代からプロジェクトに参加し、中国でも2年の勤務経験。そしていま、日本で3年の勤務経験がありますよね。いまの就業先では趙さん以外、すべて日本人ということですが、日本人ITエンジニアと一緒に仕事をしての感想というものはありますか? 趙氏 一緒に仕事をしている日本人の同僚は仕事に対して非常に真剣に取り組んでいます。またクライアント企業に対しては、大切にお客さまとして公平に対応している点は、中国人が学ぶべきだと思います。また、中国と比べて、プロジェクトの進ちょく管理やドキュメント管理は非常に優れていると思います。 仕事の内容について上司や仲間と事前によく相談し、進ちょく状況は上司にきちんと報告するように心掛けています。日本に来て初めて「ホウ・レン・ソウ」という報告・連絡・相談が重要だということを知りました。 将来の展望 小平 趙さんの今後のキャリアプランはどのようなものでしょうか? 趙氏 私は現在、開発をしていますが、正直にいってかなり迷っています。このまま同じようなことを続けていても新しいスキルは身に付かないと思っているからです。まだ27歳ですし、よりお客さんに近い業務系の仕事など、とにかく幅広く仕事をして、いろいろな経験を積みたいです。可能であれば、日本やアメリカの大学で、技術経営を勉強して、ITビジネスマンを目指したいと思います。 |
■ITエンジニアの最終目標は
ここでは、王氏と趙氏の例を紹介したが、どのように感じられただろうか。両氏に限らず、来日する海外のITエンジニアにとって日本企業と日本人ITエンジニアの印象は、おおむね次のとおりであるようだ。
- 納期など仕事に対する態度がまじめ
- 優れたプロジェクト管理手法がある
- 顧客への対応能力が高い
その一方で、王氏の発言にあったような、「中国で担当していたような下流工程を、コストの高い日本国内でも担当している人が多いのは正直驚いた」というコメントを、どのようにとらえたらよいのだろうか。ぜひとも皆さんのご意見をお聞かせいただきたい。
今回紹介した2氏以外にも、筆者が出会う来日エンジニアが共通に持つスタンスがある。それは、「彼らにとって、グローバルに通用するITエンジニアになることは過程であっても、決して最終目標ではない」ということだ。
彼らはITエンジニアであることをテコとして、次のステップとしてITビジネスマンとしての自己実現を目指しているのだ。
日本人ITエンジニアはいなくなる? バックナンバー
- 第1回 海外のエンジニアは脅威か
- 第2回 優秀な人材に見向きもされない日本企業
- 第3回 国内で活躍する海外ITエンジニアの最終目標
- 第4回 中国人ブリッジSEのキャリアパス
- 第5回 インド系企業の多国籍チームから何を学ぶか
- 第6回 日本市場攻略で一丸となる大連市と現地IT企業
- 第7回 海外エンジニアとの日本語コミュニケーション術
- 第8回 日本のITエンジニアに足りないもの
- 第9回 IBMのPC事業売却がエンジニアにもたらすもの
- 第10回 日本企業を囲む「内定辞退の壁」
- 第11回 スピードとチャレンジに欠ける日本のIT業界
- 第12回 上海の採用担当者が見た日本人ITエンジニア
- 第13回 日本で働く海外ITエンジニアの悩み
- 第14回 中国での面接事例から学べるテクニック
- 第15回 ITエンジニアこそ、日本最大の資源
- 第16回 中国初体験のITエンジニアが語る日本との違い
- 第17回 日本人ITエンジニアがインドで学ぶ理由
- 第18回 「フラット化する世界」のキャリア形成を考える
- 第19回 ITエンジニア獲得競争に勝つ地域、負ける地域
- 第20回 異端か? 日本人ITエンジニア
- 第21回 「ミステリアス」な日本に求められる“力”とは
- 第22回 中国・インド・ベトナムの理工系人材を徹底比較
- 第23回 アメリカ人ITエンジニアもいなくなる
- 第24回 中国とインド、進むIT業界の「相互乗り入れ」
- 第25回 「戦わずして勝つ」。戦略のプロに学ぶ自分戦略
- 第26回 海外の活力を取り込む4つのポイント
- 第27回 松下電器産業の社名変更に見るグローバル戦略
- 第28回 外交のプロに学ぶ、自分を「伝える力」
- 第29回 日本人が知らないフィリピン系ITエンジニアの実力
- 第30回 会社が海外進出したら? ITエンジニア、5つの備え
- 第31回 金融危機をチャンスに変える、日本企業の人材戦略
- 第32回 “エンジニアにっぽん”にアジアのエンジニアが思うこと
- 第33回 成長企業ユニ・チャーム、情報システム部の海外展開
- 第34回 テクノロジの世界展開に必要なのは、理念と伝える力
- 第35回 世界同時不況に打ち勝つ「アジア人材戦略」
- 最終回 アフリカ人エンジニアは日本を目指す?
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